【完結】何故か突然エリート騎士様が溺愛してくるんだが

香山

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二章

エピローグ

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 突如としてミュエルテ山の瘴気が消滅した――そのニュースはすぐに王都の王立軍へ伝わったらしい。俺とジョシュ、聖杯――ソレイユと青年――エトワールの4人で山を下った頃には、もうすでに麓の町で騎士団と魔術師団が待ち受けていた。彼らを率いていたドゥメルグ隊長は俺たちの姿を認めるとニヤリと口角を上げた。

「やっぱりお前らだったか。殿下も来たがってたぜ? っと、そちらさんは?」

 4人で顔を見合わせる。話すと長くなりそうだ。簡潔に説明すると、思案顔をしたドゥメルグ隊長はどこかに通信魔術を送り、俺たちにポーションを配ってから馬車へ押し込んだ。大き目の馬車は夜通し走り続け、あれよあれよという間に王宮へ連れて行かれた。



 翌朝、俺たちはヴァレリー殿下の執務室へ呼び出された。

「……なるほどね。聖杯と邪竜にそんな繋がりがあったなんて」
「ああ。だがもう邪竜はいない。ジョシュアの中にその残滓がわずかにあるだけだ」

 隣で座っているジョシュの横顔を見つめた。こちらからみえる銀の目。それがその残滓だ。

「それに残滓も聖杯の力で浄化できる。今フレデリックが保持している分で十分足りるだろう」

 俺の視線に気づいたのか、ジョシュもチラリとこちらを見た。ジョシュから見える俺の右目に、その聖杯の力が宿っている。小さく笑いかけるとジョシュは頬を赤らめてそっぽを向いた。
 ヴァレリー殿下はそんな俺たちを呆れたように見ていたが、小さくため息をつくだけで話の続きへ移った。

「で、邪竜はジョシュアを狙ってたんだって?」
「邪竜がジョシュア殿に執着したのは恐らく俺のせいです。ジョシュア殿と俺の魔力が似ていたので、取り込んで体を補強しようとしたようです。……止めることができず、申し訳ありません」
「いえ! エトワール殿の責任では――」
「そうだぞ、エトワール。そなたは良くやった。何千年もの間その身をもってあの呪いを食い止めたのだから。流石はわが愛」
「ソレイユ様……」

 二人の間に甘い空気が流れる。ヴァレリー殿下はわざとらしく咳払いして、話の先を促した。

「ともあれ、ジョシュアが取り込まれたときは私も肝が冷えたぞ。フレデリックに私の力がうまく移ったのは運が良かったな。私とフレデリックに僅かながら血の繋がりがあるのが功を奏したのだろう」
「あの時はありがとうございました。お陰でジョシュも俺も助かりました」

 改めて礼を言うとソレイユはにんまりと笑った。

「あの瘴気の中に飛び込んだ時はとんだ馬鹿だと思ったが……そなたの意志の強さには感心したぞ。いいものを見せてもらった。だから礼はいらぬよ」

 軽い口ぶりではあるが、あの時自分の身を犠牲にしてまで力を譲渡してくれたおかげで呪いを浄化し、助かることが出来たのだ。もし浄化だけで魔力が尽きてしまっていたのなら、彼は今ここには居ないだろう。俺はもう一度礼を口にしてから深く頭を下げた。

「それで今後、ソレイユとエトワールはどうしたい? さすがに王族籍に戻すのは難しいけど、なるべく便宜は図るつもりだよ」
「それなのだが、二人で冒険者として旅をしたい。戸籍を用意してくれぬか?」
「戸籍はもちろん用意するけれど……ほかには? 家とか領地とか」
「終の棲家は旅をしたうえで決めたいのだ。それにまつわる費用は自分で稼ぐ。最初に餞別程度はくれるとありがたいがな」

 その後もヴァレリー殿下は色々と提案していたが、冒険者としての立場といくつかの装備などを用意することに決まったようだった。元王子のソレイユと元王宮魔術師のエトワールは知識の古さはあれど能力に関しては申し分ない実力を持っている。冒険者としても十分やっていけるだろう。
 このまま書類の準備もするそうで、俺とジョシュは一足先に執務室を辞した。廊下に出た瞬間、ジョシュの手を引いて柱の陰に引きずり込むとぎゅっと抱きしめた。

「ちょっ、いきなり何――」
「ようやく実感してきたんだ。ジョシュと一緒に居られるんだって」

 このままジョシュを抱えて飛び回ってしまいそうなほど、俺の心は浮足立っていた。そんな俺の浮かれ具合が伝わったのか、ジョシュは小さく苦笑して俺の頭を撫でた。

「そうか……そうだな。これからはずっと一緒だ」

 ジョシュはそう呟くと控えめに俺の服を掴んだ。そっと腕を解いて銀の瞳を見つめながら、左の目じりを優しく撫でた。

「ジョシュが幸せを感じるほど早く浄化できるんだから、俺は目一杯ジョシュを幸せにしないとね」
「……俺はフレッドと一緒に居られるならそれだけで十分幸せだ」

 我慢できずに噛みつくようにキスをすると、ビクッと体を跳ねさせたジョシュは俺の胸を強く押しのけて逃げてしまった。

「だ、だ、駄目だ、ここじゃ……」

 耳の端まで真っ赤になったジョシュが愛らしくてもう一度悪戯したくなるが我慢する。代わりにジョシュの手を取って真っ直ぐ見つめた。

「ねえジョシュ、この後一緒に昼食を食べに行かない? 話したいことがいっぱいあるんだ」
「俺も沢山ある。フレッドに言いたい事、話したい事……」

 少し照れくさそうな笑顔に胸がぎゅっとなる。控えめながら、心からの幸せがそこには浮かんでいた。

「決まりだね。じゃあ行こうか」

 手を握るとジョシュも握り返してくれる。廊下ですれ違う貴族たちの好奇の目なんて気にならなかった。
 もう何があっても離さないし離れない。しっかりと手を繋いだまま王宮を抜ける。暖かな春の日差しは祝福するように俺たちを包み込んでいた。
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