老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

文字の大きさ
57 / 342

57話 白き狼

しおりを挟む
 犬型アンデッドはアンデッドのくせに機動力がある。

 さらに森のなかでの獣は木も利用して3次元で襲い掛かってくる。



「師匠! 敵の攻撃を全面から受けないように結界展開をしましょう。

 両側に半球状のドーム結界をつくって正面だけにわざと口を開けましょう」



 ソーカが言っていた、レンは戦術、戦略両面で自分より上だと。



「みんな聞こえたな、最速で動けよ、対アンデッド火炎結界展開!」



 初めての実践でのアンデッド戦が混戦から開始してしまったのは愚策だったが、レンの素早い作戦立案でサナダ隊のみんなにも余裕ができた。

 左右や木の上から襲い掛かってくる敵は結界に拒まれる、正面から襲い掛かってくる敵に集中して当たればいい。 

 焦って設置したため正面の口が大きくなってしまったが、それでも2対1以上を崩さずに落ち着いて対処できている。

 

「レンそっちはどうだ?」



「厳しいです、すでに致命傷だったようで……」



「そうか……」



 ユキムラは両親が健在だった時に犬を飼っていた。

 ふと金色のモフモフした飼い犬のことを思い出して珍しく苛ついた。



 少し先にこのリビングデッド共を使役しているレイスがいることには気がついていた。



「サナダ隊はこの場を死守、絶対に無理をするな。

 俺は八つ当たりしてくる」



 聖水の蓋をかじりつき強引に外し聖魔法で武器に神聖属性をまとわせる。

 時間は3分、同時に前方の開いた口からレイスに向けて駆け出す。



 飛び出すと天上から腐犬が飛びかかってくる、軽く身をかがめすれ違いざまに胴を斬りつける、身体を捻りそのままの速度で走り抜ける。

 後方から二体接近してくる。



「ファイアーウォール」



 腐った脳では瞬時の判断は鈍く、その肉体を炎の壁に突っ込ませる、燃え盛る肉体は段々と速度を落とし燃え尽きる。

 ユキムラは突然サイドステップをする、ユキムラがさっきまでいた場所に地面から黒い槍が飛び出す。

 シャドウスピア、闇魔法の一つで敵の足元から影の槍を放つ技だ。

 ガードするとスピードを殺されるので避ける。

 サイドステップやバックステップ、フロントローリングにはほんの少し無敵時間がある。

 ただ、VOではあるがこの場での実験は危ないのでちゃんと避けている。

 

 もう目の前にレイスがいる。

 まただ、今度は飛び上がる。ユキムラの背後に槍が飛び出す。

 飛び上がったユキムラにレイスがニヤリといやらしい笑みを浮かべる。

 レイスの翳した手からバチバチと雷が放たれ束となりユキムラに向かって放たれる。

 空中では避けようもない、レイスが厭らしい笑みをうかべるのも当然だ。

 ただ、ユキムラが策もなくそんな行動はもちろん取らない。

 魔道具であるブーツを発動、もう一段階高く空中で、飛び上がる。

 ユキムラがいた場所を雷の槍が激しく放電しながら突き進んでいく、触れた枝が燃え上がる。

 しかし、ユキムラはその一段上を飛翔している。



【ガァア?】



 そのままレイスを一刀両断する。

 バカな、とでもいいたげな声を上げてレイスは魔石へとその姿を変える。



 ユキムラがサナダ隊のもとへと戻ると戦闘は終了していた。



「師匠、駄目でした……」



 残念ながら白き狼はその生命を落としていた。

 なんとも言えない悲しい気持ちになる。

 仇は……取ったよ。そう報告する時にふと大きなお腹が動いた気配がする。 



「ん? 動いている?

 ゴメンな、あとで供養するからな」



 手を合わせて小刀で腹を斬る、中からモゴモゴと動く袋がズルリと出て来る。

 みるみる色が悪く紫色になっていく、迷っている暇はない。

 ユキムラはその袋を中で動くものを斬らぬようにそっと切り開く。



「キューキュー」



 真っ白なびっしょりと濡れた子犬が這い出てくる。

 残念ながら息があるのはこの子だけだった。

 タオルを出して身体を拭いてやり、そっと母親のそばに置いてやると健気に乳を吸う、輝くような初乳が確かにその子供に飲み込まれていく。

 気がつくとユキムラの瞳から涙が流れていた。

 昔聞いた程度だが、へその部分を紐で縛り胎盤を合わせて切り落とす。

 

 その後母親の遺体は傷を治してやり助けられなかった子と共に天に返してやった。

 その子供はユキムラの預かりとなった。

 ユキムラはすぐにベースキャンプに戻り子犬用ミルクを作る。

 ペットシステムもあったVOは大抵のものが作れる。

 哺乳瓶から勢い良く吸い付くその姿に生命の力強さを学んだ。



 一騒動を追えてトンネル開通に向けて機材を手早く設営する。

 すぐにトンネル作業が稼働し始める。

 実は人力などいらないのだ。

 これで後は反対側に抜けるのを待つだけだ。



 強力虫よけによる魔除けはアンデッドには効きづらいようだ。

すでにアンデッドが出るレベルのエリアに到達していることを考えると、駐屯地の防備を固める必要があった。

 ユキムラはしばらくトンネル開発駐屯地で防備設備の開発設置に詰めることになった。



 アンデッド対策の一つである聖魔石は最初の女神解放クエストを終えないといけない。

 しかし、この国の女神解放クエストをある程度進めると魔王イベントが起きてしまう。

 そうするとヘルズポイント魔国が全国に対して宣戦布告を行い、戦争状態になってしまう。

 その時にいろいろと状況が大きく変化してしまうので、今あるものでアンデッド対策をする必要があった。



「まぁ、火、日、聖だよね」



 火はまぁ火属性攻撃が苦手だ。

 日は日光が苦手だ。

 そして聖属性だもちろんこれが一番有効だ。



「そう言えばレン、教会ってどうなってるの?」



「えっと、もうすぐ中央区に教会が建ちますね。沢山寄付しました」



 黒い会話である。



「ただ聖水って効果があまりに短時間だから、やっぱり火と日で考えるか。

 森の中で派手に火を使うと大火災になるから、日中ためて外に放つ太陽のお力に頼りましょう」



 簡単だ、ミラーで魔石に太陽の光を集めて夜間に周囲に放つ。

 これでわざわざ近づいてくるアンデッドはいない。

 低コスト、低予算、長時間稼働。

 問題は天候に左右されるくらいだ。 

 それも結界を二重にして外壁と内壁の間に永続炎系トラップを置くことで時間は稼げる。

 取り急ぎそれらをにょきにょきと設置していく。



 子犬(狼)はタロと名付けられてにょきにょきと育っていくのでありました。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

yukataka
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...