老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

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214話 扉を守りしもの

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 さらに一週間ほどかけて、ようやく巨大な山の麓までたどり着いた。

 山の麓にはまるで神殿の入口のように柱と石像が立ち並び、その先には大きな扉が見て取れた。

 

「あれがゴールだぞ皆!」



 景色の変わらない火山洞窟を延々と昇り降りして抜けてきたメンバーは、いくら快適な生活が出来ても少し疲れていた。

 ユキムラとタロはケロッとしているが、特にアスリは堪えていた。



「長かった……1ヶ月もダンジョンに篭もるなど何年ぶりか……」



 弱々しい言動とは逆に、肉体は成長していた。

 肌艶は明らかに良くなり、四肢の筋肉もダンジョンに入る前が60くらいのおじーちゃんだとすれば、今は40代でも通用するのではないかと言うほどに鍛え上げられていた。



「風景が変わらないのがしんどいですね……」



「太陽がみたいです私は……」



「ここの煤っぽい空気もそろそろきついわ……」



「ははは、今回は結構きつかったかもね」



 珍しく弱音を吐いているメンバーを気遣うユキムラ。



「おっと、でも休憩はここまでだね。最後の難関ってところかな」



 神殿風の作りの前に広がる大きな舞台のような場所にマグマの中から巨大な龍が上がってくる。



「お、タロ良かったな! 火龍がこのダンジョンのボスみたいだな」



「ワオン!!」



 タロは嬉しそうにバック転をして尻尾をブンブンと振っている。

 龍玉を手に入れたタロはどんどん強く強化されている。

 火龍といえば花形のメジャー龍、戦力強化は間違いない。



【GYAOOOOOOOOOOOO!!】



 火龍の咆哮、ビリビリと空気が震えて地面も振動する。

 ブルブルとマグマを飛び散らかしてその巨体が完全に現れる。

 全長は20mくらい、開かれた顎からブシュブシュと炎が漏れ出し、身体も脈動するマグマのように光り輝いている。威風堂々とした立ち姿。さすが龍種の中でも伝説に多数出現する炎龍である。



【Dragon's flame breath】



「古代魔法か!! もうそんなレベルか! 皆ドラゴンマント着けろ!」



 ユキムラが叫ぶ。炎龍が放ったグーグル翻訳に突っ込んだような魔法は敵だけが唱える古代魔法と呼ばれる魔法で、現在有る魔法とは少し異なる原理で起こる魔法とされている。

 普通の属性防御は半分しか作用しない。

 さらに無属性ダメージも乗っていて、龍が使うと龍属性という特殊属性が乗る。

 龍耐性を挙げられる装備は数少なく、同時に耐性を得られるものは殆ど無いのでマントとか盾とかで耐性を稼ぐことが多い。

 現行で龍耐性はマントしか作れていないので全員が装備する。

 プラネテル王国で作った龍化装備は高い龍耐性を誇るが、その分属性防御に弱くなる。

 装備の組み合わせを考えるのもVOの大きな楽しみだ。



「ある程度のダメージは受ける、あまり無茶しないように!」



 続けざまにユキムラが指示を飛ばす。

 久しぶりの強敵の予感にユキムラは興奮していた。



 炎龍の放つ古代魔法は地面に吹き付けた火炎のブレスが、大波のように全方位に荒れ狂って飲み込んでいく。魔法防御は可能だが、反射は不可能だ。古代魔法は反射は出来ない。

 

「丁寧に防御するように、せめて被ダメは下げよう!」



 全員きっちりと防御シールドを張り巡らせる。



「ぐぅぅ……」



「うわ……」



「きゃっ!」



「結構きついわね……」



 久しぶりにまともな被弾、ダメージに顔をしかめる。

 装備による自然治癒、レンもすぐに治癒魔法を飛ばす。

 それでも、少しぬるい戦いをしてきたと全員が気を引き締めるには丁度いい一撃だった。



「さぁて、ドラゴンハントと行きましょうかねぇ!」



 ユキムラはキラキラと氷の結晶が美しい紺碧の大剣、S.アイスソード +8を構える。

 無理矢理な強化で名前が酷い……

 それでもその威力は素晴らしい、マグマの輝きにも似た鱗を安々と切り裂き、その傷口には炎を押しのけて凍りつく。

 もちろん炎龍の持つエネルギーですぐに溶けてしまうが、それでも炎龍は不愉快そうだった。

 

【Scream of fear】



 火龍の雄叫びのような古代魔法。

 上位の精神阻害魔法、恐怖心が爆発して身動きが取れなくなる。

 もちろん状態異常対策は万全だ。

 怯むこと無く戦いを維持する。

 その様子にさらに不快感を露わにして長い尾をビタンビタンと地面へと叩きつける。



【Dragon reinforcement】



 魔法の光が炎龍を包み込む。

 振るわれる尾の力がまし、速度を上げる。

 尾の先端が音速を越えているのか衝撃波を生じさせる。

 

「くっ! 自己強化されると厄介だな!」



「強化解除魔法もほとんど成功しません……」



「ああ、このレベルになるとほとんど通らないからボスは諦めた方が良いよ。

 こっちのバフ切らさないようにデバフも設置型以外はあんまり効かないからいつも通りでお願い」



 タロと炎龍の怪獣大戦の合間に作戦を練り直す。

 タロのバックから見事なジャーマンスープレックスホールドが決まった。

 炎龍は怯むこと無くアックスボンバーで応戦している。

 見ごたえは有るが、いつまでもタロ一人に任せるわけにも行かない。

 強化魔法の効果で炎龍も縦横無尽に戦場を飛び回っているので、大規模設置型極大魔法などの一発芸では倒しづらい。

 そうなれば基本に立ち返り、それぞれがそれぞれの役割をきちっとこなすまでだ。



 大剣の重量を利用してまるで剣がひとりでに踊るように戦場を疾走る。

 周囲の熱量ですぐに消えてしまうが剣が通った道筋には美しい氷の華が咲いていく。

 ユキムラの持つアイスソードは見るものを魅了する華があった。

 扱うユキムラの技量が卓越していればいるほどその華は咲き誇る。

 そして、その華には危険な棘がある。

 炎龍の速度を凌駕し、強固な鱗を挫き、確実に傷を負わせていく。

 その姿は戦いを司る武神のように美しく強い。 



 ユキムラが武神とするなら、ソーカは女神のようだった。

 羽衣の様な鎧のせいで天女のような外見だが、そこから繰り出される攻撃は苛烈を極める。

 ソーカは一瞬の隙に強力な一撃を叩き込むスタイル。

 そこに投擲武器を合わせることでより多くの隙を作りやすくなり、結果手数が増える。

 ユキムラの思いつきだが相性が抜群だった。

 戦闘時のスタイルの差はあるにしても、ユキムラよりも速く戦場を翔けるソーカの戦闘スタイルに神速の遠距離武器、そして一瞬でも気を取られれば強力無比な一撃が叩き込まれている。

 敵としてソーカの前に立つ人間に同情してしまう。

 ユキムラでさえもそう語っていた。

 ユキムラにとっては大切なたった一人の愛する女性だ。



 レンはユキムラから叩き込まれた数々の魔法、法術、錬金術、その他様々なスキルを効率的かつ効果的に運用できるまでに成長していた。

 レベルが上がり管理できる魔法もどんどん増えていたが、幼少より呼吸をするようにユキムラと研鑽を積んできているレンにとって手足を動かすようなものだった。

 ユキムラの一番弟子として師匠の名に泥を塗らないよう、魔術面では既にこの世界で異質な存在にまで上り詰めている。

 魔法だけならユキムラと互角に渡り合える唯一の存在だ。

 そしてユキムラにとってかけがえのないたった一人の弟子だ。

 

 ヴァリィはその強靭な膂力を活かした打撃武器である棍を使って、時に攻撃に、時に防衛にパーティ全体をしっかりと支える仕事をしてくれる。

 一見地味だが、最も大事な足場として、そして年長者として振る舞いパーティの礎となってくれている。

 鉄壁の護りを崩すのはソーカでも難しい、守りに入られたらユキムラでも攻めあぐねる。

 倒せずとも倒れない。

 攻撃も決して弱いはずもなく、大規模大破壊力武術はユキムラよりも火力が高い。

 内政面でもスタイリストでありクリエイターでもある。

 服飾やアクセサリーなどの作成はユキムラを超える。

 美的センスもその外見からは考えられない繊細にして大胆、多くのファンを持つ。

 ユキムラの大切な飲み友達だ。

 飲んでいる時のユキムラとは妙に話が合うとヴァリィ本人も不思議がっている。



 タロは様々な龍種から手に入れた力を使い、変幻自在、古今無双の働きを行っている。

 白狼隊がパーティとして成り立っていく上で一番の要は間違いなくタロだ。

 直接攻撃、間接攻撃、魔法攻撃、すべての戦いの手段を状況に合わせて使いこなす。

 VOに存在しない物が多く、ユキムラもすごいすごいと喜んでいる。

 いつどんなときでも苦しい姿を見せずにブンブンと尻尾を振って皆を元気づける。

 誰よりも皆の心を察知して、そっと近くにいてくれる。

 パーティの母親のような存在になっている。



 今は共にアスリもいるが、白狼隊の4人が一体となって戦えば、どんな強靭な敵だろうと一歩づつ、確実に死への道を歩むしか無い。

 

 炎龍は自らの命の炎が消える時にやっと悟る。



 相手が悪かった。と。



 
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