老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

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329話 膠着

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 ユキムラ達がライオネルと対峙している頃、他の場所でもそれぞれ三獣師が名乗りを上げていた。



 ---フィリポネア南岸---



 水面をゆっくりと進みながら三叉の槍を激しく振るう半魚人。

 フォンフォンと空気を切り裂く音はどんどん高くなっていく、あまりの速度に槍の姿がぼやけ切り裂く空気と音だけが不気味に響き渡る。

 どうやら三獣師同士の会話は共有されるらしく、ライオネルの発言に顔をしかめ、槍を水面に叩きつける。

 水面には禍々しい大穴が開き、そこから魔物が溢れ出していく。 



【まったく、どさくさに紛れて筆頭などと……

 我らに上下などない。ただ魔王様のためにあるだけだ。

 海魚王 ポスタル。殺される相手の名前ぐらいは伝えてやろう……】



 突然の出来事に静まり返った戦場に冷酷で平坦なポスタルの声がよく響いた。



 ---ケラリス南岸---



 汚いものを見るように空中で留まっていた女性もライオネルの発言に、さらに呆れたようにため息をつく。



【はぁ……だからあの脳筋は嫌なのよ……

 空天王 スカーレン。どうせすぐ死ぬでしょうから意味ないんだけどね】



 空中に杖をかざすと巨大なゲートがつくられ、飛行タイプの魔物が次々に溢れ出してくる。

 ゲートを作ると徐々に高度を下げてソーカとレン達に近づいてくる。

 スカーレンの持つ邪悪で膨大な魔力の気配に、レンは思わず身震いをしてしまう。

 



 ---テンゲン南西部---



【ユキムラとか言ったな。いいだろう……殺すまではその名、覚えておいてやろう】



 傲慢な発言とは裏腹に両手剣を静かに正面に構え、巨大な身体が更に大きく見える。

 ユキムラの持つ刀にも力が篭もる。出来る敵であることは目の当たりにすればビリビリと伝わってくる。

 ラオとタロ、そしてユキムラも臨戦態勢でライオネルの正面に構える。



 防衛隊のラインへと穢れ付きの魔物たちが襲いかかっていく、神性属性を開放させた攻撃は穢れた魔物にも有効だが、今までの相手とは歯ごたえが違う。

 圧倒的火力で蹂躙することはかなわない。

 三人以外の白狼隊の直属のメンバーと協力して防御陣を形成して必死の抵抗を見せている。



「心配だけど、向こうを手伝っている余裕なんてない……」



 皆に訴えるというよりは、自分自身に言い聞かせるようにユキムラは口を開く。



【先程は少々驚かされたが、次はないぞ……】



 ゆらりとライオネルの体が揺れたと思うと激しい金属音が響く、いつの間にかユキムラ達の目の前まで移動していたライオネルの両手剣を、ユキムラとラオの刀と棍棒が同時にかち上げる。その隙をタロが飛び込もうとするが、振り上げられた両手剣が鋭く振り下ろされ、その突進を止める。瞬きの間の出来事だが両者の間で繰り広げられたやり取りが、ハイレベルな戦いを予想させる。



【……信じられんが、見えているということか……よかろう。

 どこまでついてこれるか試してやる】



 ここに来てユキムラ達が先に動く、数度見てようやくラオのスイッチも入ってくる。

 唸りを上げる剣戟を、棍棒を斬られない様に弾けるようになってくる。

 

「やっと目が慣れてきやがった! すげぇなぁライオネルさんよぉ! つええなぁ!」



 喜々として戦闘にのめり込んでいく。

 ユキムラもライオネルのスキの無い剣技に感心している。

 攻め入る隙がなかなか見つけられない、そしてねじ込まれてくる攻撃は全て致命の一撃。

 すでに本気モードのタロが何度かライオネルの間合いの内に入り込めたが、手傷を負わすには至らない。見事に捌き再び距離を取られてしまう。



【これほどの、強者が人間にはいたのか……これは、認識を改めねばならんな】



 脳筋かと思いきや、ライオネルの戦闘運びや思想は、冷静で堅実だ。

 はじめはガンガンと突撃を仕掛けてきたが、今はきちんと軽重織り交ぜた華麗な剣技を披露している。

 お陰でユキムラ達も突破口を見いだせない。

 防衛部隊と穢れ魔物達との戦いも、なんとか大きな犠牲は出さずにはいられたが、攻めきれずに防衛消耗戦を強いられている。



「どちらも簡単にはいかせてくれないね……」



 台詞としては悲観的だが、ユキムラの内心はワクワクもしている。

 圧倒的な防衛力で上回りすぎてもつまらない。そんな不謹慎な感情がユキムラの胸を刺激していた。



 逆に三獣師側は、自分たちの想像を遥かに超える人間たちの抵抗。

 そして、自分たちの最終兵器的な穢れ部隊とまともにやりあっている人間軍に、畏怖に近い感情も感じていた。

 あまりに自分たちが知っている人間と違いすぎる。



【おかしい……アヤツらはこの状況を知っているはずな口ぶりだったが、魔王様にお伝えしなかったということになる……】



【ライオネルもそう思うか、そもそもあのような怪しい奴らの手を借りずとも、我らで魔王様は支えられる】



【あの黒いのの力に一番興味もったのポスタルじゃないの……】



 三獣師同士は心声テレパシーのようなもので遠隔地でも会話が可能だ。

 そして、大事な点は何故か白狼隊の5人のメンバーにはその心声がダダ漏れで聞こえてくる。



「誰かにこの戦争を焚き付けられたのか?」



【なっ!? なぜ我らの会話を聞ける!?】



「いや、そんな大声で話されたら嫌でも聞こえるけども……」



【どういうことだライオネル!? お前の前にいるものだろう?

 何かしているのか?】



【いや、何もしてない……これも人間の技術なのか……】



【ねぇ、あなた達も聞こえているの?】



「聞こえています。ついでに私達もそれぞれ会話は共有しています」



 スカーレンの問いかけにソーカが答える。



「混線でもしているのかしらねぇ~」



【ライオネル、小奴らは普通ではない。

 やりあってみてわかったが、我が軍勢を相手にしている奴らと比べても異質な強さだ】



【そうねー、このお嬢ちゃんも、そそる美男子の子も、たぶん互角か……それ以上かもねぇ~】



 ぺろりと舌なめずりをしてレンに投げキッスをするスカーレン。



【三獣師、共に戦うが肝要か……】



「ところでライオネルさん。この戦争、魔王軍の総意じゃないの?」



 ユキムラは有耶無耶になっていた質問をぶっこむ。こういう空気を読まないところはたまに役に立つ。



【人間界を支配するのは魔王軍の総意だ】



「でもさ、今まで攻めてこなかったのに急に攻めてきたのはどうして?」



【……死の海を安全に渡る方法が見つかったからだ、何をいいたいのだ?】



「例えばさ、魔神の配下を名乗る魔人に、今回の戦争を持ち込まれたりしてないのかなぁーって……」



【ぬ……】



【……魔王様を謀ったのか……】



【あらあら、皆落ち着きなさいよー。少し冷静になりましょう。一旦引くわよ】



「引くなら追わないよ。こっちは護るだけで手一杯だからね」



【抜かしよる。ユキムラと言ったな。

 また会おう】



 ライオネルは不敵な笑みを浮かべてゲートの向こうへ消えていく。

 三獣師とその軍勢は即時に戦闘を中止して同じようにゲートから帰還する。

 ユキムラ達人間軍は約束通り追撃はしない。

 重傷者も発生しており、治療などに迅速に移行したかった。

 無駄なことをしている時間はない。



「ゲートは元通りジャミング出来たかな?」



「はい師匠。これでいきなりゲートを開かれることはないです。

 また海上か空中から侵攻を受けて上陸されない限りは、ですね」

 

「被害はどうだった?」



「重傷者は全戦場合わせて18名、死亡者は0でした……武具や魔石の消耗率は12%に及びますね……

 最後の軍勢との戦いが長時間に渡れば、もっと酷い結果になったと思います」



「あの3人、皆はどう思った?」



「タイマンなら……時間稼ぎで手一杯、いずれ負けるかなーって思ったわ。

 コウちゃんとナオちゃんのお陰で命拾いしたようなもの……悔しいけど」



「そ、そんな!? ヴァリィ様がいなければ私達なんて!」



「お互いに、ギリギリだったってことよ」



「正直スカーレンって天使は、最初から本気じゃない、というか……もともと乗り気じゃない感じでした。そうでなければ、重傷者名簿に私とレンも乗っていたかと……」



「悔しいですが、魔法における魔力が圧倒的でした。

 こちらは守らなきゃいけないものが多いので、広範囲に圧倒的な攻撃をされれば、いずれは押し切られるかと……」



「ふむ……困ったね……」



「師匠でもあのライオネルって人は倒せませんか?」



「うーん、倒せないかなぁ、倒されもしないけど。千日手的な……

 タロとラオと全力でやったつもりだったんだけど、まぁ見事にいなされ続けた。

 こっちもギャンブルしたらそこで崩れるから、お互いに何にも出来ない状態だねぇ……

 たぶん、予想だけど、あの3人は揃った時が一番強い。

 そして、俺達の総力を合わせて戦うと同じように消耗戦になる。

 もしかしたら、消耗し切るのは燃費が悪い俺達が先かもしれない……」



「どうしましょう……」



「一応、楔は打てたから、それがどういう結果を生むか……」



「出来ることをするしか無いですね。物資の確認や兵力確認をもう一度やってきます」



「精錬関係も全開でぶん回すわよー」



「物資補充班も頑張ります!」



「ワン!!」



 なんとかするしか無いが、どうにも打開策が生まれない。

 ユキムラはしばし思考の海へと潜っていくのであった。

 
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