老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

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337話 魔人集合体戦

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 鋼をも切り裂く鋼線、鋭く貫かれる槍、容赦なく飛来する短刀それぞれ魔人のときよりも破壊力やスピードはむしろ増している。



「怖さが無い……魔人達との戦闘は命と命をせめぎ合う怖さが、楽しさがあった……」



「いくらあの時より強くなったって言ったって、アイツラはこんな人形みたいな敵ではなかった!」



 先程からエテルナも憤慨している。

 落ち着けとたしなめたいユキムラだったが、冷静さを失ってはいなかったし、落ち着けと言われて落ち着けるわけがない……

 魔人集合体は、自分の身体が傷つけられようが意に介さず、ただただ単調に攻撃を繰り返してくる。

 一撃一撃が致命的な攻撃。

 早く、鋭く、強く、正確に命を狙ってくる。

 全くのムダも遊びもない。



 それ故に単純だった。



 正確な狙いを利用して躱し、攻撃することなど、今のユキムラたちには造作もない。

 雨あられのように降り注ぐ攻撃、魔法、その全てを目視、もしくは感覚で避けて相手を切り伏せていく。

 時間軸が異なるかのように、二者の間には明確な差が生まれていた。



【なーんだ、ヤツらも結局は俺の力を使うんじゃないか】



 馬鹿にしたようなコケにしたような魔神のつぶやき。

 白狼隊のメンバーもエテルナも意味が理解できないが、ユキムラは察していた。



「お前ならわかるだろ? そんな力を利用していないことぐらい……」



【……じゃぁ、なんだ、チートか!? 最低だぞ!】



「お前が言うな。そういうたぐいでもないこともわかっているんだろ?」



【馬鹿な……そんなことは……あり得ない……】



「首を洗って待っているといい。この世界で生きる人間の力、たっぷりと思い知らせてやる」



【くっ……減らず口を……】



 ブツッっと乱暴に魔神の気配が消えたような気がした。

 改めて目の前の集合体に向き直る。

 傷つけられた部分には肉芽が湧き出して穢がツギハギのように止めている。

 邪神っぽい見た目といえばそうなのだが、相変わらず怒りに歪んだ魔人達の顔が少し哀しいものに見えてくる。

 

「ユキムラちゃん、もう見てられない。楽にしてあげましょう」



「ああ、そうだな。一気に決めるぞ皆!」



「はい!」



 攻撃は見切った。ある程度のリスクは織り込んでの全員での一斉攻撃。

 ソーカが足を払い斬りにすれば、生じた隙にヴァリィが棍を叩き込む。

 ちぎれた肉片に穢がとりつき修復する暇も与えずにレンとエテルナが灰へと変える。

 ユキムラとタロは皆が作った刹那の隙に大技を叩き込む。

 白狼隊が一つの瀑流となって魔人集合体を削り取っていく……

 ほんの瞬きをする間にも魔人だった物はその体積の殆どを灰に変える。



【わりぃな……嫌な仕事させて……】



「意識が戻ったのか?」



【なんとかな、もうどーにもならねーけどな……

 ムカついてるんだろうが、あのお方も寂しい人なんだ……

 あんたらなら、なんとかしてくれるかねぇ……】



「約束はできないが、想いはぶつけてくる。

 また、生まれ変わったら思いっきりやろう」



【ああ……また会おう……】



 最後に見せた魔人の顔は、怒りに歪んだ醜い顔ではなく、穏やかな表情だったようにユキムラには感じられた。



 嵐が過ぎ去って静寂が訪れた漆黒の大地に一陣の風が吹き、最後に残った灰を空中へと霧散させる。

 誰一人勝利に喜ぶ者はいなかった……



「進もう」



 短くユキムラはそう告げると城へと歩み出す。

 近づく素振りを見せなかった城が、歩を進めると近づいてくる。

 ボコボコと沸き立つように魔物は現れるが、白狼隊の歩を止めるほどの相手はいない。

 強大な力はあっても力の使い方を知らない、そんな魔物では白狼隊の敵ではない。

 

 凄まじい数の魔石が転がる荒野が出来上がる頃には、白狼隊は漆黒の巨大な城の前に立っていた。

 この異世界に現れる穢に芯まで侵された魔物から生まれた魔石は何の価値もない、通常の魔力を加えるとすぐに灰と化してしまう。

 変にいじると穢が溢れるために基本的には焼き尽くすしか無い。

 背後の広大な荒野は、エテルナが火の海に変えて危険な魔石を処分する。



 白狼隊が城の前に立つと、まるで闇へと誘うかのように静かに扉が開く。



「どうやら招待はしてくれるみたいだね」



「師匠、罠……ではないんですか?」



「罠だとしても、行くしか無いのよ~」



「そうだよレン、あんなムカつくことをしたやつをぶん殴ってやらないと!」



「罠があってもユキムラにーちゃんとあたしたちなら大丈夫だよ!」



「アン! アン!」



 全員が見つめ合い、頷く。そして城の内部へとその一歩を踏み出す。

 それが合図になったかのように赤絨毯の通路の左右の松明に次々と火が灯っていく。

 真っ直ぐな、ただただまっすぐな廊下がそこに現れる。

 漆黒の壁と天井、血のように真っ赤な絨毯、揺らめく炎。

 ユキムラは最後の戦いの場へと向かう道としての格式を満たしているような気がした。



 長い長い廊下の先には、巨大な両開きの扉が待っていた。



「みんな、行くぞ」



 返事を待たずにユキムラは扉に手をかける。

 一定の重みを感じるが扉は素直に開く。

 まるでコロシアムのような空間が広がる。

 ユキムラたちが入った反対側にはまるで玉座のような椅子に一人の人物が腰掛けている。



【やあ、ようやく直接お目見えだね。ユキムラ君】



「魔神……なんだよな?」



 魔神、と言うよりはただの人、見た目としてはガリガリに痩せた青年。

 正直魔神と言うには貧乏くさい。

 顔色は病人のように白く、ギラギラと赤く光る瞳だけが不気味に輝いている。



【魔神……まぁ奴らはそう呼ぶかもな。

 私は創造神の一人。ヴェルツフェルセン。この世界を心から憎む者だ】



 その男が両手をあげると、コロシアムの様々な場所から黒い液体が浮かび上がる。

 魔王が変えられたあの液体だ。

 液体はブヨブヨと変化して人の姿か、獣の姿に変わり液体から個体化していく。

 

【好き放題言われたからな、能力だけでないことを見せないとな。

 ユキムラ、君ならわかるだろう。プレイヤースキルを見せつけてやろう】

 

 その男は玉座に腰掛けるとまるでピアノでも引くように中空に浮かぶパネルを操作し始める。



「来るぞ!」



 完成した真っ黒な敵が一斉に襲い掛かってくる。

 先程までに切り捨てていた機械的な攻撃ではない、それぞれがコンビネーションも含めて意思を持った動きで襲い掛かってくる。



「マクロ使ってるな……」



 ユキムラはすぐに理解する。

 普通のVOではありえない行動、スキル、魔法の利用を可能にする外部マクロツール。

 一回の入力で幾つもの行動を取らせることが出来る。

 VOを超えた動きをする白狼隊に対して、システム上で互角以上の戦いをするにはうってつけの方法だ。



 ユキムラは結局チートじゃないかと思わなくもなかったが、これだけのキャラを見事に操作しているそのスキルには感心していた。

 

【フハハハハハハ、手も足も出ないじゃないか!】



 VOのゲーム上のステータスの最高値の魔物が意思を持って襲い掛かってくる。

 いくら超越者な白狼隊でも防戦一方になってしまう。

 それでも苛烈な攻撃を完璧に防いでいるだけでも感嘆に値する。



【へー、やるじゃないか……。じゃぁ、これでどうだ?】



 男の手元にもう一対の端末が現れる。男の背後から機械じかけの腕が出てきてその端末を操作し始める。



「パターンが、増えたな! これはきつい!」



「師匠、このままだと……」



 敵の攻撃の精度が上がり、より一層防戦一方になってしまう。

 攻撃の多彩さもまるで白狼隊同士の模擬戦のように感じる。

 それが数として相手の方が上、このまま続けばいずれ戦況は不利になっていくことは明白だった。



「……全員、限界突破使用を許可する」



「それじゃーユキムラちゃん、雑魚達は私達に任せて! 

 ヴェルツフェルセンは任せたわよ! 限界突破!!」



 全員の装備に多層式立体魔法陣が包み込む、鎧と武器が光り輝き黄金の光を放つ。

 防戦一方だった戦局が一気にひっくり返る。

 ユキムラが受け持っていた敵も白狼隊のメンバーで受け持っている。



「ヴァルフェルセン……決着をつけよう」



 ユキムラが振り下ろした刀から黄金に輝く巨大な剣戟が魔神を包み込む。



【やはり、お前は本気を出さねばならないか】



 さらにもう一つの端末が現れる。

 機械じかけの義手が端末を操作すると巨大な魔物が魔神の前に現れる。

 

「あの姿は、前の私!」



 エテルナが叫ぶ。

 魔神はその魔物の内部にズブズブと潜り込んでいく。

 

【最高の力に、最高の知識、これが、この世界を滅ぼすために作り出した、私の!!



 力だ!!!】



 魔物が腕を払うとユキムラの剣戟を弾き飛ばす。

 

「疾はやい!!」



 同時に地面を蹴ると一瞬でユキムラの眼前に飛び込んでくる。

 ユキムラは寸でのところで身を翻しその体当たりを避ける。

 かすってしまった鎧が跡形もなく消え去っている。

 すぐに魔力の粒子が鎧を元の姿に回復していく。



「いまのだけでとんでもない量の魔力を持ってかれてるぞ……

 こりゃ、骨が折れそうだ……」



 厳しい戦いの予感にため息が出そうになるが、同時に熱いものがユキムラの心に火をつける。

 今、最後の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

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