ヤンデレ辺境伯は年の離れた養い子に恋着する

鷹槻れん

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6.辺境の春待つ庭

ニンルシーラ領ヴァン・エルダール

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 汽笛が短く鳴り、汽車が減速していく。
 ここはイスグラン帝国の辺境、ニンルシーラ領。その中でもヴァン・エルダールは、領主ランディリック・グラハム・ライオールの邸宅が建つ地だ。
 ニンルシーラは高地に位置し、冬の間は領地全体が雪に閉ざされる。その厳しさは王都エスパハレとは比べものにならず、吐く息はすぐに白く凍りつくほどだった。

 窓の外には、王都では真冬でもほとんど見かけることのない雪が、厚く大地を覆っている。
 白銀に染まった丘の斜面では、毛足の長い羊の群れがゆったりと雪をかき分けて進み、遠くには山岳牛の姿もあった。
 外気とのわずかな温度差で、窓ガラスがうっすらと白く曇っている。リリアンナは指先でそっとその曇りをぬぐい、興味津々で外を見つめた。その視線の先、雪に覆われた森の縁には、獣の足跡が点々と続いていた。リリアンナの頭越しに彼女の視線を追ったランディリックが、「ニンルシーラはシカやキツネなど、野生動物の多い地域なんだ」とつぶやいた。「オオカミもいるから、気を付けて?」と付け加えられたリリアンナは、瞳を大きく見開いた。
 見渡す限り雪原で、農作物の気配が感じられない。
 リリアンナはこの地の名産が何であるか、景色だけでなんとなく分かった気がした。
 きっと、肉や乳製品、毛皮などが主な生産品だろう。


***


「外は寒い。これを」
 客室内はもちろんのこと、車両全体、暖房がきいていてとても暖かい。
 下車前、ランディリックからあらかじめそんな声掛けをされて、エスパハレで購入していたふわふわの毛皮に覆われた厚手のコートを羽織らされ、羊毛で編まれた手袋と帽子を差し出されたリリアンナは、王都の気候を思い出して(こんなに重装備?)と小首をかしげたのだけれど……。
 汽車の扉が開いて一歩外へ出たと同時、身を切るような寒風に吹きつけられて、ランディリックの言葉の意味を理解した。
 無防備に吸い込んだ空気があまりに冷たくて、鼻の奥がツンと痛んで涙がにじむ。
 思わず首をすくめて下車前にランディリックから羽織らされたコートの合わせ目をギュッと掻きいだいたら、
「大丈夫か?」
 その様子にすぐさま気付いたランディリックが、自分の外套がいとうを広げてリリアンナを腕の中へ包み込んでくれる。
「あ、有難う、……ランディ」
 涙目のまま、そっと背後を見上げてランディリックに礼を言えば、「どういたしまして」と優しい笑みを向けられた。
「――っ!」
 そうして至極当たり前のように目元へ滲んだ涙を手袋を付けた指先で拭われて、リリアンナは驚かされてしまう。
(お父様もご存命の頃はこんな風に私を気遣って下さっていたわ)
 道行の車両内で交わした会話から、ランディリックと自分とは、十六ほど年が離れていると知った。その年齢差は父デンサインほど離れてはいなかったけれど、十七歳で自分を生んだ、母マーガレットとはほぼ一緒だ。
 そう考えると、とても若々しく見えるランディリックとは、親子ほどの歳の差があるということになる。
(ランディは私のお養父とうさまになるのかな?)
 思えばランディリックは、ウールウォード邸で叔父ダーレンに代わって、リリアンナの後見人になると宣言してくれた。
 こうして今、リリアンナを自領ニンルシーラまで連れて来てくれたのも、自分を手元に置いて立派な淑女レディに……というよりウールウォード領を守る若き伯爵――後継者――として如才じょさいなく育て上げるためだと説明されている。
 今の厚意だってきっとその一環。伯爵令嬢として当然の扱いをされただけ。そう分かってはいても、こんな風に誰かから貴人扱いされるのが本当に久しぶりで、リリアンナはなかなかその変化に馴染めない。
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