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10.埋まらぬ距離
楽しみ?
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リリアンナの傍へ専属侍女のナディエルが戻ってきた。オオカミに襲われた精神的なショックで熱を出して寝込んでいた彼女だったけれど、熱が下がった頃、リリアンナが見舞いに来てくれたことで復帰したいという意欲が高まったらしい。先日侍女頭のブリジットへその旨を申し出たのだ。
無理はしないように、とランディリックから申し伝えられてリリアンナの元へ戻ってきたナディエルが、久々にリリアンナの身支度を整えてくれる。
今日は、長い赤髪を左右に分けてしっかりと編み込み、耳の上からぐるりと持ち上げて頭の上で留めていた。
輪を描くように重ねられた編み込みは、幼い横顔をやさしく縁取る。
その仕上げに、絹製の深緑色の髪飾りを頭に渡すように添えると、赤みを帯びた髪色と鮮やかな緑の瞳が引き立ち、彼女全体を一層きりりと見せてくれる。
そんなリリアンナが身に着けているのは、若草色のワンピース。絹を混ぜた柔らかな生地は、光を受けるたびにほのかな艶を返し、裾はすとんと落ちて華美にならずとも品を漂わせる。胸元やそで口には小さな刺繍がほどこされ、控えめながらも令嬢らしい気品を忘れない。深緑のフィレットと響き合い、春の芽吹きを思わせる瑞々しさが彼女を包んでいた。
「とてもよくお似合いです、リリアンナ様」
ナディエルはリリアンナの髪を飾るフィレットを整えて一歩下がると、誇らしげに微笑んだ。
まだ幼さの残る顔立ちに、落ち着いた深緑の飾りが添えられただけで、少し大人びた気品が宿っていた。
「ナディ、動きやすい服を選んでくれてありがとう」
いつもは裾の長いガウンに、重ねのオーバードレスを纏っているリリアンナだったが、今日は幾分軽装の部類へ入るキルティルに身を包み、満足そうにナディエルへ微笑み返した。
「カイルの介助をなさるとうかがっていましたので」
部屋の扉を開けてリリアンナを廊下へと送り出すと、ナディエルが深々と頭を下げる。いつもはもう少し軽い感じで会話を重ねてくれるナディエルが、今日は何だか緊張している様子なのは、久々にリリアンナの傍へ戻って来られたから、というわけではない。
「支度は出来たかい?」
リリアンナの準備が整うのを、廊下で城主であるランディリックが待ち構えていたからだ。
「バッチリ。やっぱりナディは最高の侍女よ!」
厚手のコートを手に、ランディリックにくるりと回ってみせながら、リリアンナが扉を開けたまま頭を下げているナディエルに視線を流す。
「お嬢様……」
ナディエルがピクッと肩を震わせて恥ずかしそうにうつむくのを見て、ランディリックが「僕からも礼を言う」とねぎらいの言葉を掛ける。
「め、滅相もございませんっ」
ナディエルが縮こまるのを見て、ランディリックは(おや?)と思った。
(いつもはもう少しハキハキしている子のはずだが……)
病み上がり、だからだろうか?
そう思ってナディエルを見つめたら、「本当はお嬢様のお傍にいたいのに……足がすくんでしまうのです」と、ナディエルの絞り出すような声が聞こえてきた。
「ナディ?」
リリアンナとカイルは平気だと言ったが、ナディエルはまだオオカミに襲われた場所へ近付くのが怖いらしい。
本来ならばリリアンナに付き従い、自分もカイルの介助を手伝うべきなのにそれが出来ないことを、気に病んでいるようだった。
「それは気にしなくていいと言っただろう?」
ランディリックの声音に被せるようにリリアンナも言う。
「ランディの言う通りよ?」
だからこそ、ランディリックがリリアンナをカイルの小屋までエスコートするのだ。
「旦那様にまでお手数をお掛けして申し訳ありません」
しゅんとするナディエルの手をリリアンナがギュッと握った。
「ナディ、無理なことを無理だって教えてもらって、私、嬉しかったのよ? だから本当に気にしないで? それより!」
そこで自分をじっと見つめてくるナディエルにニコッと微笑んで見せると、リリアンナが続ける。
「帰ってきた時、きっと私、へとへとだと思うの。だから……いっぱい撫でて、うんと甘やかして欲しいの」
「かしこまりました。あと、お湯あみの準備もしておきますね?」
「わぁー、それ最高! 楽しみ!」
笑顔を取り戻したナディエルに見送られながら、リリアンナはランディリックに差し出された手を握る。
「……リリーは、本当にカイルのところへ行くのが楽しみなのか?」
長い廊下を歩きながら、ランディリックがすぐそばを歩くリリアンナへ、探るように尋ねた。
「もちろん! カイルを元気づけてあげたいもの!」
リリアンナは一瞬だけ目を瞬かせ――すぐに花のように笑った。
「……何度も聞いて悪いが……リリーは厩舎へ近付くのが怖くはないのか?」
無邪気なリリアンナの答えを受けて、ランディリックはさらに問いかけずにはいられない。
無理はしないように、とランディリックから申し伝えられてリリアンナの元へ戻ってきたナディエルが、久々にリリアンナの身支度を整えてくれる。
今日は、長い赤髪を左右に分けてしっかりと編み込み、耳の上からぐるりと持ち上げて頭の上で留めていた。
輪を描くように重ねられた編み込みは、幼い横顔をやさしく縁取る。
その仕上げに、絹製の深緑色の髪飾りを頭に渡すように添えると、赤みを帯びた髪色と鮮やかな緑の瞳が引き立ち、彼女全体を一層きりりと見せてくれる。
そんなリリアンナが身に着けているのは、若草色のワンピース。絹を混ぜた柔らかな生地は、光を受けるたびにほのかな艶を返し、裾はすとんと落ちて華美にならずとも品を漂わせる。胸元やそで口には小さな刺繍がほどこされ、控えめながらも令嬢らしい気品を忘れない。深緑のフィレットと響き合い、春の芽吹きを思わせる瑞々しさが彼女を包んでいた。
「とてもよくお似合いです、リリアンナ様」
ナディエルはリリアンナの髪を飾るフィレットを整えて一歩下がると、誇らしげに微笑んだ。
まだ幼さの残る顔立ちに、落ち着いた深緑の飾りが添えられただけで、少し大人びた気品が宿っていた。
「ナディ、動きやすい服を選んでくれてありがとう」
いつもは裾の長いガウンに、重ねのオーバードレスを纏っているリリアンナだったが、今日は幾分軽装の部類へ入るキルティルに身を包み、満足そうにナディエルへ微笑み返した。
「カイルの介助をなさるとうかがっていましたので」
部屋の扉を開けてリリアンナを廊下へと送り出すと、ナディエルが深々と頭を下げる。いつもはもう少し軽い感じで会話を重ねてくれるナディエルが、今日は何だか緊張している様子なのは、久々にリリアンナの傍へ戻って来られたから、というわけではない。
「支度は出来たかい?」
リリアンナの準備が整うのを、廊下で城主であるランディリックが待ち構えていたからだ。
「バッチリ。やっぱりナディは最高の侍女よ!」
厚手のコートを手に、ランディリックにくるりと回ってみせながら、リリアンナが扉を開けたまま頭を下げているナディエルに視線を流す。
「お嬢様……」
ナディエルがピクッと肩を震わせて恥ずかしそうにうつむくのを見て、ランディリックが「僕からも礼を言う」とねぎらいの言葉を掛ける。
「め、滅相もございませんっ」
ナディエルが縮こまるのを見て、ランディリックは(おや?)と思った。
(いつもはもう少しハキハキしている子のはずだが……)
病み上がり、だからだろうか?
そう思ってナディエルを見つめたら、「本当はお嬢様のお傍にいたいのに……足がすくんでしまうのです」と、ナディエルの絞り出すような声が聞こえてきた。
「ナディ?」
リリアンナとカイルは平気だと言ったが、ナディエルはまだオオカミに襲われた場所へ近付くのが怖いらしい。
本来ならばリリアンナに付き従い、自分もカイルの介助を手伝うべきなのにそれが出来ないことを、気に病んでいるようだった。
「それは気にしなくていいと言っただろう?」
ランディリックの声音に被せるようにリリアンナも言う。
「ランディの言う通りよ?」
だからこそ、ランディリックがリリアンナをカイルの小屋までエスコートするのだ。
「旦那様にまでお手数をお掛けして申し訳ありません」
しゅんとするナディエルの手をリリアンナがギュッと握った。
「ナディ、無理なことを無理だって教えてもらって、私、嬉しかったのよ? だから本当に気にしないで? それより!」
そこで自分をじっと見つめてくるナディエルにニコッと微笑んで見せると、リリアンナが続ける。
「帰ってきた時、きっと私、へとへとだと思うの。だから……いっぱい撫でて、うんと甘やかして欲しいの」
「かしこまりました。あと、お湯あみの準備もしておきますね?」
「わぁー、それ最高! 楽しみ!」
笑顔を取り戻したナディエルに見送られながら、リリアンナはランディリックに差し出された手を握る。
「……リリーは、本当にカイルのところへ行くのが楽しみなのか?」
長い廊下を歩きながら、ランディリックがすぐそばを歩くリリアンナへ、探るように尋ねた。
「もちろん! カイルを元気づけてあげたいもの!」
リリアンナは一瞬だけ目を瞬かせ――すぐに花のように笑った。
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無邪気なリリアンナの答えを受けて、ランディリックはさらに問いかけずにはいられない。
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