ヤンデレ辺境伯は年の離れた養い子に恋着する

鷹槻れん

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16.それぞれの屋敷で

期待と不安を胸に

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 まるで近いうちに自立しなければ、とほのめかすみたいに告げられたリリアンナからの不意の言葉に、ランディリックは固まってしまう。……そんな未来を、ランディリック自身想像していなかったと言えば嘘になる。だが、こんな形で言われるとは思ってもいなかったのだ。
 そんな彼に代わって、ウィリアムがにっこり微笑んだ。
「これは頼もしい。ウールウォード伯爵家も安泰だね」

 それにランディリックが抗議の声を上げるのを封じたいみたいに、
「あっちに馬車を待たせてあるんだ。俺たちも行こうか」
 言って、そそくさと二台並んでいる馬車の方へ向かって歩いて行ってしまった。

 駅前広場では、兵士たちが幌付きの荷馬車のまわりで忙しなく動いていた。
 荷台の上には、ウールウォード家とライオール家の紋章入りの旅箱ヴァリスが順に積み上げられ、革のベルトで固定されていく。その中に混ざる無印のものはセレンの旅箱ヴァリスだろうか。紋章こそ入っていなかったが、品自体はとても良いものに見えた。
 ディアルトが作業の指揮を執り、積み込みが終わった荷を一つひとつあらためては頷いていた。
 その背を、セレンが静かに見つめる。何も言わないが、その眼差しには確かな観察の色がある。
 隣では黒塗りの乗用馬車が静かに待機し、真鍮の飾り金具が陽光を反射して瞬く。
 その光が眩しくて、リリアンナはほんの少しだけ目を細めた。
 すぐそばで、ナディエルがそっとその眩しさから彼女を庇うように立つ。

 ――王都での、新しい日々が始まる。


***


 近付いてみると、黒塗りの乗用馬車にはペイン男爵家の紋章――Pとツバメの意匠――が掲げられていた。
 もう一台は幌に同じくペイン家の家紋が入った荷馬車で、荷物と従者、護衛兵たちを乗せるためのものだ。すでに準備が整っていたのだろう。荷物を載せ終えた兵士らが、ディアルトの指揮のもと、次々と乗り込んでいく。

(全員乗れるの?)
 ディアルトを含め従者は七名。荷台にはリリアンナたちの旅箱ヴァリスもあるし、従者ら自らの荷物もある。結構容量の大きな荷馬車ではあったけれど、リリアンナはソワソワしてしまった。
 だが、そこは慣れたもの。皆、隙間を埋めるようにして、あっという間に綺麗に乗り込んでしまう。

「リリー、僕たちも行くよ?」
 それを立ち止まったまま呆然と見ていたリリアンナに、ランディリックの声が掛かった。
「お嬢様」
 ナディエルに促されて、リリアンナはようやく馬車へと乗り込んだ。
 恐らくはリリアンナのことを気遣ってだろう。ナディエルとリリアンナは進行方向を向いて座る側の席、ウィリアムとセレン、そしてランディリックはその対面に腰を下ろした。

「まずはウールウォード邸へ。その後、ノアール侯をペイン邸うちの屋敷へお連れします」
 ウィリアムが言い、ランディリックがうなずく。
 リリアンナたちを乗せた馬車の馭者ぎょしゃにも、後ろの荷馬車の操者にも、前もってその旨は伝えてあるのだろう。
 ウィリアムがコンコンと車室の壁面を叩いて馭者へ出発の合図を送ると、馬車がゆるゆると動き始めた。
 車輪が石畳をやわらかく踏み、王都の大通りへと滑り出していく。

(ウールウォード邸……今は、どんな感じになっているのかしら?)
 リリアンナは期待半分、不安半分で、馬車の外を流れる景色を見つめていた――。
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