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17.真夜中の偽り
クラリーチェ先生の来訪
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ウールウォード家の紋章を掲げた馬車の扉が開くのを、執事のラウが出迎えている。
「ラウ様が迎えていらっしゃるってことはお客様でしょうか?」
ナディエルの言葉に小首を傾げながら、リリアンナは思う。
(もしかしたらランディが朝早くからどこかへ行っていたのかも知れないわ)
その証拠のように、いつもならリリアンナが起きて大分経つのに、今朝は珍しくランディリックが朝の挨拶をしに来てくれていない。
そんなことを思う二人の眼下で、馬車から降り立ったのは、濃紺のストールを肩に掛けたクラリーチェ・ヴァレンティナ・モレッティだった。
「クラリーチェ先生!」
そう言えば、王都・エスパハレの玄関口のひとつ、グランセール駅で別れた際、クラリーチェはリリアンナに勉強を教えに訪問すると言ってくれていた。
ランディリックから事前の連絡はなかったけれど、それが今日だったのだ。
リリアンナはナディエルと顔を見合わせると、ハーフアップに結わえた髪の毛へ、今日のドレスの色に合う、ワインレッドのリボンを付けてもらった。
こんなに朝早く来訪したということは、きっとクラリーチェも、ウールウォード邸で一緒に朝食を食べるはずだ。
(食事作法のおさらいね)
味は分からないなりに、美味しそうに食べているように見える技は大分磨けたと思う。
リリアンナは「早く早く」とナディエルの手を引いて、いそいそと階下へ向かった。
***
辺境ニンルシーラほどではないとはいえ、ここ王都エスパハレでも、朝はまだ少し冷える。
クラリーチェが馬車を降りて身震いしたと同時。ウールウォード家の老執事ラウが胸に手を当てて綺麗なお辞儀をする。
「クラリーチェ・ヴァレンティナ・モレッティ―様。早朝より無理を申し上げ、誠に恐縮でございます」
「いえ、構いませんわ。……ところでランディリック侯爵様は?」
ラウは一度だけ視線を伏せ、控えめに答えた。
「ランディリック様は……クラリーチェ様へ使いを出されてすぐ、用事が出来たとかでご出立なさいました」
ラウの言葉にクラリーチェが瞳を見開いた。今朝、自身の生家リヴィアーニ家へ急ぎの使者がやって来たのは、まだ日も昇らぬうちだったと、屋敷の使用人から聞かされている。
「まあ! そんなに朝早く……」
「はい。急なことでしたので、リリアンナお嬢様のことが気掛かりだったらしく……。クラリーチェ様には、閣下が留守の間、リリアンナお嬢様のお勉強を見て頂きたいとのご意向です」
なにがあったのかは分からないけれど、きっと緊急事態なのだろう。
ラウの言葉に驚いて眉を上げたクラリーチェだったけれど、深くを尋ねすぎるのは得策ではないと心得ている彼女は、それ以上詮索しなかった。
色々思うことはあったけれど、淑女の身だしなみ。すぐさま穏やかな表情へ戻すと、ラウへ微笑んだ。
「承知しました。ランディリック様がお留守の間、わたくしが責任を持ってリリアンナお嬢様を導きます」
「有難うございます。――こんなところで立ち話も何ですし、中へ……」
馬車を降りたところでつい話し込んでしまっていた。
このままでは身体が冷えてしまう。
ラウに導かれるまま、クラリーチェはウールウォード邸の屋敷内へ入った。
扉を抜けてすぐの玄関ホールには、侍女頭のマルセラが控えていた。
恭しく礼をしつつも、こちらもラウ同様、どこか申し訳なさそうな表情をしている。
ラウはマルセラに視線を流すと、自身は他の用があるのだろう。
「わたくしはこれで……」
言って、屋敷奥へと姿を消した。
「クラリーチェ様、ランディリック様から朝食はお済みではないはず、とうかがっておりますが、相違ありませんか?」
ラウからクラリーチェの対応を引き継いだマルセラが、侍女たちに目配せしてクラリーチェが外したばかりの手袋などを受け取らせながら問う。
「……はい。早朝の呼び出しゆえ、是非ともこちらで朝食を……とのお達しでしたので、お恥ずかしながら……」
言えばマルセラがホッとしたように吐息を落とす。
「ラウ様が迎えていらっしゃるってことはお客様でしょうか?」
ナディエルの言葉に小首を傾げながら、リリアンナは思う。
(もしかしたらランディが朝早くからどこかへ行っていたのかも知れないわ)
その証拠のように、いつもならリリアンナが起きて大分経つのに、今朝は珍しくランディリックが朝の挨拶をしに来てくれていない。
そんなことを思う二人の眼下で、馬車から降り立ったのは、濃紺のストールを肩に掛けたクラリーチェ・ヴァレンティナ・モレッティだった。
「クラリーチェ先生!」
そう言えば、王都・エスパハレの玄関口のひとつ、グランセール駅で別れた際、クラリーチェはリリアンナに勉強を教えに訪問すると言ってくれていた。
ランディリックから事前の連絡はなかったけれど、それが今日だったのだ。
リリアンナはナディエルと顔を見合わせると、ハーフアップに結わえた髪の毛へ、今日のドレスの色に合う、ワインレッドのリボンを付けてもらった。
こんなに朝早く来訪したということは、きっとクラリーチェも、ウールウォード邸で一緒に朝食を食べるはずだ。
(食事作法のおさらいね)
味は分からないなりに、美味しそうに食べているように見える技は大分磨けたと思う。
リリアンナは「早く早く」とナディエルの手を引いて、いそいそと階下へ向かった。
***
辺境ニンルシーラほどではないとはいえ、ここ王都エスパハレでも、朝はまだ少し冷える。
クラリーチェが馬車を降りて身震いしたと同時。ウールウォード家の老執事ラウが胸に手を当てて綺麗なお辞儀をする。
「クラリーチェ・ヴァレンティナ・モレッティ―様。早朝より無理を申し上げ、誠に恐縮でございます」
「いえ、構いませんわ。……ところでランディリック侯爵様は?」
ラウは一度だけ視線を伏せ、控えめに答えた。
「ランディリック様は……クラリーチェ様へ使いを出されてすぐ、用事が出来たとかでご出立なさいました」
ラウの言葉にクラリーチェが瞳を見開いた。今朝、自身の生家リヴィアーニ家へ急ぎの使者がやって来たのは、まだ日も昇らぬうちだったと、屋敷の使用人から聞かされている。
「まあ! そんなに朝早く……」
「はい。急なことでしたので、リリアンナお嬢様のことが気掛かりだったらしく……。クラリーチェ様には、閣下が留守の間、リリアンナお嬢様のお勉強を見て頂きたいとのご意向です」
なにがあったのかは分からないけれど、きっと緊急事態なのだろう。
ラウの言葉に驚いて眉を上げたクラリーチェだったけれど、深くを尋ねすぎるのは得策ではないと心得ている彼女は、それ以上詮索しなかった。
色々思うことはあったけれど、淑女の身だしなみ。すぐさま穏やかな表情へ戻すと、ラウへ微笑んだ。
「承知しました。ランディリック様がお留守の間、わたくしが責任を持ってリリアンナお嬢様を導きます」
「有難うございます。――こんなところで立ち話も何ですし、中へ……」
馬車を降りたところでつい話し込んでしまっていた。
このままでは身体が冷えてしまう。
ラウに導かれるまま、クラリーチェはウールウォード邸の屋敷内へ入った。
扉を抜けてすぐの玄関ホールには、侍女頭のマルセラが控えていた。
恭しく礼をしつつも、こちらもラウ同様、どこか申し訳なさそうな表情をしている。
ラウはマルセラに視線を流すと、自身は他の用があるのだろう。
「わたくしはこれで……」
言って、屋敷奥へと姿を消した。
「クラリーチェ様、ランディリック様から朝食はお済みではないはず、とうかがっておりますが、相違ありませんか?」
ラウからクラリーチェの対応を引き継いだマルセラが、侍女たちに目配せしてクラリーチェが外したばかりの手袋などを受け取らせながら問う。
「……はい。早朝の呼び出しゆえ、是非ともこちらで朝食を……とのお達しでしたので、お恥ずかしながら……」
言えばマルセラがホッとしたように吐息を落とす。
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