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17.真夜中の偽り
問題というのは?
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日の出前――。
リリアンナの家庭教師、クラリーチェ・ヴァレンティナ・モレッティが滞在するリヴィアーニ家へ急ぎの使者を立ててすぐ。
ランディリック・グラハム・ライオールは、自身もすぐさま身支度を整えて、友・ウィリアム・リー・ペインが待つペイン邸へと旅立った。
馬が石畳を駆ける蹄の音を聞きつけたんだろう。
ランディリックがペイン邸へ着くなり、領主であるウィリアムが玄関外へ立っていて、いそいそと邸内へ導かれた。
リリアンナの生家ウールウォード家同様、屋敷内は大半の者がまだ寝静まっているらしく、静かだった。
起きているのはウィリアムを除けばほんの数名。恐らくは今回の件に関与した者のみだろう。
「朝早くから呼び立ててすまなかったな。リリアンナ嬢は大丈夫か?」
低められた声音で告げるウィリアムにクラリーチェへ使いを出した旨を告げながら、ランディリックはペイン家の一階奥、客人用の寝室へ続く廊下を歩いていた。
ウィリアムとランディリックが歩く道行きには、窓越しに差し込む薄明を受けて夜明けの名残を引きずるような薄い陰が漂っていた。
ウィリアムに案内されながら歩くランディリックの表情は、普段と同じ冷静さを保っているように見える。
しかし、ウィリアム同様その足幅は常よりわずかに広い。
廊下の角を曲がると、衛兵が背筋を伸ばして待っていた。
領主ウィリアムを認めるなり、その背筋がさらにビシッと伸ばされる。
「……中にセレン卿がいる」
セレン・アルディス・ノアール。――衛兵もいる手前、偽名の方でウィリアムは告げたが、実際室内にいるのはマーロケリー国皇太子・セレノ・アルヴェイン・ノルディール殿下であることを、ランディリックは知っていた。
ランディリックにセレンの在所を話すウィリアムの声はいつもより低い。
普段軽い調子でランディリックの真面目さを茶化す口振りは、今日のウィリアムには微塵もなかった。
その声音の奥には友としての申し訳なさと、ランディリックが来てくれたことへの安堵が混ざっていた。
ウィリアム自身、ひとりで抱えるのはしんどかったのだろう。
「で? 手紙にあった〝問題〟というのはなんだ?」
応じるランディリックの声音も静かだが、こちらはリリアンナへ朝の挨拶も出来ずに呼び出された苛立ちが、わずかながらも滲んでいる。
ウィリアムは息を吸って、短く首を横に振った。
「ここでは話せない。……とりあえず部屋の中へ」
その言葉に、ランディリックの眉がわずかに動いた。
(有り得ない時刻に呼び出された時点で分かっちゃいたが、軽い話ではないな)
ランディリックはひそかに息を整えた。
深呼吸ひとつで、ざわつく心を無理に静める。
扉の前に立ったウィリアムが、軽くノックした。
「セレン卿。ランディリック・グラハム・ライオール侯爵をお連れいたしました。少しお話を伺えますか?」
短い沈黙が落ちる。
ギシリと寝台の軋むわずかな音がした後――、足音が近付いてきた。
幽けき音を立てて扉が開かれ、夜目にも美しい顔立ちをした青年が顔を覗かせた。だが、疲れた様子の彼の目元には少し隈が出来ている。グランセール駅からウールウォード邸へ向かう馬車内ではキラキラと輝いて見えた明るい表情が、今は見る影もない。恐らく心痛で眠れていないのだろう。
「朝早くに僕のために申し訳ありません……」
今は辺境の地の侯爵家三男坊、セレン・アルディス・ノアールという設定のセレノ皇太子殿下だが、こういう時には素が出るものだ。
他国とはいえ、立場的には下の身分に当たるであろうランディリックやウィリアムにもちゃんと礼を尽くせるセレノを見て、ランディリックは密かに感心した。
「いえ、問題ありません」
そんな皇太子殿下へランディリックも礼を尽くしてそう答えながら、ウィリアムとともに室内へ入った。
リリアンナの家庭教師、クラリーチェ・ヴァレンティナ・モレッティが滞在するリヴィアーニ家へ急ぎの使者を立ててすぐ。
ランディリック・グラハム・ライオールは、自身もすぐさま身支度を整えて、友・ウィリアム・リー・ペインが待つペイン邸へと旅立った。
馬が石畳を駆ける蹄の音を聞きつけたんだろう。
ランディリックがペイン邸へ着くなり、領主であるウィリアムが玄関外へ立っていて、いそいそと邸内へ導かれた。
リリアンナの生家ウールウォード家同様、屋敷内は大半の者がまだ寝静まっているらしく、静かだった。
起きているのはウィリアムを除けばほんの数名。恐らくは今回の件に関与した者のみだろう。
「朝早くから呼び立ててすまなかったな。リリアンナ嬢は大丈夫か?」
低められた声音で告げるウィリアムにクラリーチェへ使いを出した旨を告げながら、ランディリックはペイン家の一階奥、客人用の寝室へ続く廊下を歩いていた。
ウィリアムとランディリックが歩く道行きには、窓越しに差し込む薄明を受けて夜明けの名残を引きずるような薄い陰が漂っていた。
ウィリアムに案内されながら歩くランディリックの表情は、普段と同じ冷静さを保っているように見える。
しかし、ウィリアム同様その足幅は常よりわずかに広い。
廊下の角を曲がると、衛兵が背筋を伸ばして待っていた。
領主ウィリアムを認めるなり、その背筋がさらにビシッと伸ばされる。
「……中にセレン卿がいる」
セレン・アルディス・ノアール。――衛兵もいる手前、偽名の方でウィリアムは告げたが、実際室内にいるのはマーロケリー国皇太子・セレノ・アルヴェイン・ノルディール殿下であることを、ランディリックは知っていた。
ランディリックにセレンの在所を話すウィリアムの声はいつもより低い。
普段軽い調子でランディリックの真面目さを茶化す口振りは、今日のウィリアムには微塵もなかった。
その声音の奥には友としての申し訳なさと、ランディリックが来てくれたことへの安堵が混ざっていた。
ウィリアム自身、ひとりで抱えるのはしんどかったのだろう。
「で? 手紙にあった〝問題〟というのはなんだ?」
応じるランディリックの声音も静かだが、こちらはリリアンナへ朝の挨拶も出来ずに呼び出された苛立ちが、わずかながらも滲んでいる。
ウィリアムは息を吸って、短く首を横に振った。
「ここでは話せない。……とりあえず部屋の中へ」
その言葉に、ランディリックの眉がわずかに動いた。
(有り得ない時刻に呼び出された時点で分かっちゃいたが、軽い話ではないな)
ランディリックはひそかに息を整えた。
深呼吸ひとつで、ざわつく心を無理に静める。
扉の前に立ったウィリアムが、軽くノックした。
「セレン卿。ランディリック・グラハム・ライオール侯爵をお連れいたしました。少しお話を伺えますか?」
短い沈黙が落ちる。
ギシリと寝台の軋むわずかな音がした後――、足音が近付いてきた。
幽けき音を立てて扉が開かれ、夜目にも美しい顔立ちをした青年が顔を覗かせた。だが、疲れた様子の彼の目元には少し隈が出来ている。グランセール駅からウールウォード邸へ向かう馬車内ではキラキラと輝いて見えた明るい表情が、今は見る影もない。恐らく心痛で眠れていないのだろう。
「朝早くに僕のために申し訳ありません……」
今は辺境の地の侯爵家三男坊、セレン・アルディス・ノアールという設定のセレノ皇太子殿下だが、こういう時には素が出るものだ。
他国とはいえ、立場的には下の身分に当たるであろうランディリックやウィリアムにもちゃんと礼を尽くせるセレノを見て、ランディリックは密かに感心した。
「いえ、問題ありません」
そんな皇太子殿下へランディリックも礼を尽くしてそう答えながら、ウィリアムとともに室内へ入った。
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