ヤンデレ辺境伯は年の離れた養い子に恋着する

鷹槻れん

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23.すれ違いのまま

違和感を抱えたまま

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「……これだけ答えて? ダフネに貴族としての立場を与えるのは、ウィリアム様では……ダメだったの?」

 ぽつりと零れた問いに、言葉が途切れる。
 馬車の揺れだけが、二人の間を行き交った。

「それは……。それでは……弱すぎたんだ」

 短い答え。
 それ以上は、続かなかった。

 胸の奥が、すとんと冷える。

(……やっぱり)

 ダフネが示唆してきた、セレンとの関係。
 ノアール侯爵家の後継人ではない二人をもし過不足なく結びつけるのなら、確かに妻の方に確たる家格が必要になる。

 養女として迎え入れ、家柄を与え、将来を整える。それは、ライオール侯爵家にとっても跡取りが出来て、喜ばしいことに違いない。
 そう考えれば、すべてが綺麗に繋がってしまう。

 それは、祝福されるべき未来なのだろう。

(私は……ウールウォード伯爵家の後継者だから……ランディの役には立てない)

 いずれ、ランディリックとは別の道を歩む。
 分かっていたはずのことだ。

 けれどそう言う諸々を、現実として突きつけられると、ひどく胸が苦しい。

(……ランディと離れるの、嫌だ)
 叫びは、声にならなかった。

「……分かりました」

 リリアンナはそれ以上、何も言わなかった。
 言葉にすればするほど、自分が惨めになる気がして、言えなかった。

 やがて、馬車がゆっくりと減速する。
 外の喧騒が、急に近づいた。

「……王城へ着いたようだ」

 ランディリックの声に、リリアンナは小さく頷いた。

 扉が開かれ、光と音が一気に流れ込む。
 華やかな笑い声、衣擦れの音、無数の視線。

 先に馬車を降りたランディリックが、振り返り、リリアンナへ手を差し出してくれる。
「リリー」
 その姿が、いつになく遠く見えた。

(……この手に、もう二度と頼れなくなる日が来るのかもしれない)

 そう思うと、胸の奥が、静かに痛んだ。


***


「――リリアンナ嬢!」

 こちらへ歩み寄ってくる、見慣れた青年。
 セレン・アルディス・ノアールだ。

 彼のそばにはてっきりウィリアム・リー・ペインがいると思っていたのだけれど、どうやら不在らしい。代わりにペイン邸からつけられたとおぼしき護衛の姿が見えた。

 セレン自身相当強いとランディリックから聞かされている。実際には護衛なんて必要ないのかもしれないが、一応体裁のためだろう。

「お会いできて光栄です。なんだかひどく久しぶりに感じられますが……お元気でしたか?」

 まるでウールウォード邸の玄関先で別れたときの延長線上みたいなその笑顔を見た途端、リリアンナの胸の奥になんともいえない違和感が走った。

(……セレン様、どうしてそんなふうに笑えるの?)

「はい……」

 その落ち着かない感じが、返事をそっけなくさせる。

「……? リリアンナ嬢、お会いできない間、ずっとどうしていらっしゃるか気にしていたのは、僕だけだったのでしょうか?」

 リリアンナが塩対応をしたからだろうか。眉根を寄せて悲しそうな顔をするセレンを見て、リリアンナは嫌な気分になる。ダフネと恋仲のはずなのに、別の女性を口説いているとも取られかねない不用意な発言は、リリアンナの中ではありえないものだった。

「私は……毎日今日の準備に忙しくしていましたので……」

 そう言えば、セレンと別れた際、ウィリアムはリリアンナの滞在中に、ウールウォード邸へ遊びに来るとか言っていた気がする。おそらく一人で……ということはないだろうから、もし訪問が実現していたならば、セレンも同行していたはずだ。

 それが有耶無耶になってしまっている時点で、(私のことなんて念頭にもなかったはずなのに……白々しいですよ?)と思ってしまったリリアンナである。

 きっと、ペイン邸では別の時間を過ごしていたのだろう。
 そう考えてしまう自分を、止められなかった。

 ランディリックからハッキリ聞かされたわけではないけれど、ダフネとの婚約へ向けた準備を進めている真っ最中なんじゃないだろうか。

 今日のデビュタントを終えさえすれば、男性は意中の女性への求婚が公的に解禁になる。
 ダフネはデビュタントへは参加できていないらしいが、きっとランディリックのことだ。その辺の王城への届け出にも余念はないだろう。

 そんなもろもろの想いがリリアンナの表情を曇らせる。

 セレンが、うつむきがちなリリアンナを戸惑ったような表情で見つめているけれど、リリアンナにはセレンを気遣う気持ちのゆとりはなかった。

「リリー、大丈夫か?」

 リリアンナの機微に誰よりも敏感なランディリックが、まるでセレンからの視線を遮るように彼との間に立ちふさがってくれる。
 だけどリリアンナにとっては、ランディリックでさえも、自分をないがしろにした裏切り者なのだ。

 誰もが正しい顔をしているのに……ただひとり、リリアンナだけが立ち止まっていた――。
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