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いわゆるデートとか言うやつ

男女差

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「お腹一杯だね~」

 俺のほうを見つめながら、腹をさすりさすり満足そうな声を出す音芽おとめの無防備さが可愛くて。

 こんな俺に気負わないでいてくれてサンキューな、とか思っているくせに。

 ひねくれ者の俺は、「食いすぎなんだよ」と小馬鹿にしたように音芽に言っちまって、内心後悔していたりする。


「だって、期間限定フェアのデザートが美味しそうだったんだもんっ」

 ――もう温和はるまさとは何にも食べない!

 言った言葉を悔やんで、もしかしたらそんな風に言われるかと心配していたんだが、俺が惚れ込んだ音芽という女はそんな卑屈な事にはならないでいてくれる。

 唇をとんがらせて拗ねたように言い訳する姿が堪らなく愛しくて、本音を言うと「俺のことは気にせず目一杯好きなものを食え」とか「お前が幸せそうにモノ食ってるの見んの、俺すげぇ好きなんだわ」とか「どんなお前も俺は大好きだから安心しろな?」とか。
 甘々な、歯の浮くようなセリフを言ってやりたい。


 だけどダメな俺は、いつも心裏腹な態度をとって、音芽を怒らせるんだ。


温和はるまさだって結構ガッツリ食べてたじゃない。なのに何でそんな平気そうな顔してるの? 苦しくないの?」

 なぁ音芽おとめ
 俺にそんな事を問いかけてくるってことは、お前、もしかして腹が苦しいくらい食ったのか。
 さすがにそれはやりすぎだろ。
 愚かなかわいいやつめ。

 そんな風に思ったら、小動物ハムスターみたいな音芽が、せっせと頬袋に食料を詰め込んでいる姿が思い浮かんで、喉の奥からククッと笑いが込み上げてきた。

 それを誤魔化すように「俺は男だからな」と言ったら、「食欲に男も女もないもん」とか。

 ぷぅっと頬を膨らませてそう言い返してくる音芽に、俺の加虐心はいとも容易く焚きつけられる。

「体の大きさに男女差はあるだろ」

 もっともなことを言っておいて、ついでのように「それに俺、夕方に飲むヨーグルトとか飲んでねぇし」って意地悪く追い打ちをかけて音芽を黙らせた。

 悪いな、音芽。
 俺はお前をいじめる事に関しては天下一品なんだよ。
 奏芽かなめほどじゃないにせよ、それなりに年季が入ってるからな。


温和はるまさの……馬鹿っ」

 うまく言い返せなくて、拗ねてそっぽを向くのが本当ツボ過ぎて。

「けど俺、お前のそういうところも悪くねぇと思ってるから」

 って……。
 気が付いたら自分でもびっくりするくらい不意に、するりと本音が出ちまってた。
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