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4.結婚を前提に

さよならの前に、今夜はひとつだけ

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 月に四~五回程度のデートを重ね、遅くとも二二時までには結葉ゆいはを家まで送り届けてくれる偉央いおとの交際も二ヶ月半を過ぎたか辺りから、結葉ゆいはの方も自分を大切に扱ってくれる偉央いおに少しずつ惹かれるようになっていて。

 それを確かめるように、偉央いおはここ最近、必ず別れ際に結葉ゆいはの額か唇にふわりとかすめるようなキスを欠かさず落とすようになっていた。


「……偉央いおさん、おやすみなさいっ」

 未だそんなティーンのような触れ合いにすら照れて頬を染める結葉ゆいはが、偉央いおには堪らなく愛しくて好もしいのだ。

「おやすみなさい」

 今夜もそう言って結葉ゆいはを見送ろうと思っていたのだが――。


 助手席のドアハンドルに手を掛けた結葉ゆいはが、彼女の自宅、隣の家から出てきたTシャツにジーンズ姿の男を見るなりピクッと肩を震わせたのが見えて。

 偉央いおからは死角になっていて結葉ゆいはの表情までは見えなかったけれど「そうちゃん」と小さくつぶやいた声だけはしっかりと耳に届いてしまう。

 その瞬間、偉央いおは思わず結葉ゆいはの手を引かずにはいられなかった。



「――さよならの前に、今夜はひとつだけ」

 いつもなら軽い口付けの後は、結葉ゆいはが助手席側のドアを開けて車から降りるのを静かに見守る偉央いおなのに、今日は掴んだ結葉ゆいはの手をグイッと引いてきたことに、結葉ゆいははただただ驚いた。

「い、偉央いおさ、っ……⁉︎」

 常ならぬことに目を白黒させる結葉ゆいはの小さな身体を両腕の中に閉じ込めて、偉央いお結葉ゆいはの首筋に顔を寄せた。


結葉ゆいはさんが勘違いなさらないようにハッキリと申し上げておきたいのですが……僕は貴女が思い描いていらっしゃるような聖人君子ではありません」

偉央いおさんはいきなり何を言い出すのだろう?)

 そう思っているのであろう結葉ゆいはの戸惑いをかき回してさらに困惑させるように、偉央いおが初めて結葉ゆいはの首元にチュッと音を立てて吸い付いた。

 夏の盛りのこと。
 淡いフレッシュピンクのノースリーブワンピースに、黒の透かし編みのパッチワークカーディガンを羽織っていた結葉ゆいはの首元は、涼しげに大きく開いていた。
 いつもは下ろしている腰までの長いストレートの黒髪も、今日は左寄せで緩く編み込まれていて、首筋のガードが常より甘くて。

 そんな結葉ゆいはの鎖骨に近い部分に唇を寄せた偉央いおからは、腕の中の彼女が、偉央いおからの突然のキスに驚いて身をよじったときにチラリと下着のレースが見えてしまった。

 そこに隠されたふくよかなラインを描く柔らかそうな胸の膨らみに触れたい、という気持ちを、偉央いおは何とか理性を総動員して踏みとどまった。
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