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19.結葉の決断
偉央さん、ごめんね
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***
幸い上層階の内廊下でも、エレベーターでも第三者に出会うことなく一階まで降りることができた結葉は、箱内で「開」のボタンを押したままロビーの様子を探って。
(良かった。誰もいない)
死角になっている位置については絶対とは言えないけれど、少なくとも目視できる範囲に人影はなかった。
ふぅーっとお腹の底から出し切るように空気を吐き出すと、結葉はエレベーターから外に出る。
雪日の入ったトートバッグを胸前に抱える様にして、なるべく自分の格好が隠れる様に無駄な足掻きをしながら、小走りでコンシェルジュのいる入り口正面のカウンターを目指した。
(女性だっ)
視界に飛び込んできたカウンター内、常駐している二名のコンシェルジュは結葉が願った通り女の人だった。
いつも沈着冷静なコンシェルジュたちが、自分達の方へ向けて走ってくる結葉の姿を認めた途端、瞳を見開いて立ち上がったのが分かった。
(驚かせてごめんなさいっ)
結葉が彼女たちの立場だったとしても、きっと同じ反応をしたと思う。
結葉は羞恥心と、もう少し!という安堵感で泣きそうになるのを必死に堪えながらカウンターまで行って。
「こっ、こんな姿でごめんなさい! ……あのっ、お願いします。な、何も聞かずにお電話を貸してくださいっ」
そう涙目で訴えた。
コンシェルジュのひとりが慌てた様にカウンターから出て結葉のそばまで駆け寄ってくると、「とりあえずそこは目立ちますからこちらへ」と結葉の身体を包み込む様にして手を引いてくれる。
彼女――胸につけられたネームプレートには「斉藤」と書かれていた――が結葉を連れて行ってくれたのはコンシェルジュ達が休憩などに使っていると思しき控え室で。
「これ、予備の制服なんですが、よろしければ」
そう言ってクリーニングの袋に包まれた、彼女が着ているものと同じ制服を手渡してくれた。
何も聞かずにそこまでしてくれる斉藤のことを、結葉は女神様のようだと思って――。
「電話はそこにあるのを使ってください」
部屋の片隅に設置された電話機を指差す斉藤に、結葉は「あり、がとう、ございます」とお礼を言いながら、ホッとして抑え切れなくなった涙をこぼす。
斉藤は、きっと結葉が偉央と結婚していて、二人で上層階に住んでいることを把握しているはずだ。
だけど「ご主人に連絡しましょうか?」とかそういう類いのことを一切口にしなくて。
もしかしたら結葉の姿を見て、何となく事情を察してくれたのかも知れない。
でも根掘り葉掘り色々問いただそうとしてこない彼女の姿勢に、結葉はただただ感謝の気持ちで一杯になる。
結葉は、出来れば、今後もここに住み続けなければいけない偉央に不利になるようなことは話したくないと思っていたから。
自分がまだ偉央に対してそういう気遣いが出来ることにほんの少し驚きつつ。
でも、とも思う。
どの道結葉がこんな騒ぎを起こしてしまった以上、コンシェルジュの二人が偉央のことをフラットな目で見られなくなるであろうことは確かだったから。
(偉央さん、ごめんね……)
心の中で謝らずにはいられなかった。
幸い上層階の内廊下でも、エレベーターでも第三者に出会うことなく一階まで降りることができた結葉は、箱内で「開」のボタンを押したままロビーの様子を探って。
(良かった。誰もいない)
死角になっている位置については絶対とは言えないけれど、少なくとも目視できる範囲に人影はなかった。
ふぅーっとお腹の底から出し切るように空気を吐き出すと、結葉はエレベーターから外に出る。
雪日の入ったトートバッグを胸前に抱える様にして、なるべく自分の格好が隠れる様に無駄な足掻きをしながら、小走りでコンシェルジュのいる入り口正面のカウンターを目指した。
(女性だっ)
視界に飛び込んできたカウンター内、常駐している二名のコンシェルジュは結葉が願った通り女の人だった。
いつも沈着冷静なコンシェルジュたちが、自分達の方へ向けて走ってくる結葉の姿を認めた途端、瞳を見開いて立ち上がったのが分かった。
(驚かせてごめんなさいっ)
結葉が彼女たちの立場だったとしても、きっと同じ反応をしたと思う。
結葉は羞恥心と、もう少し!という安堵感で泣きそうになるのを必死に堪えながらカウンターまで行って。
「こっ、こんな姿でごめんなさい! ……あのっ、お願いします。な、何も聞かずにお電話を貸してくださいっ」
そう涙目で訴えた。
コンシェルジュのひとりが慌てた様にカウンターから出て結葉のそばまで駆け寄ってくると、「とりあえずそこは目立ちますからこちらへ」と結葉の身体を包み込む様にして手を引いてくれる。
彼女――胸につけられたネームプレートには「斉藤」と書かれていた――が結葉を連れて行ってくれたのはコンシェルジュ達が休憩などに使っていると思しき控え室で。
「これ、予備の制服なんですが、よろしければ」
そう言ってクリーニングの袋に包まれた、彼女が着ているものと同じ制服を手渡してくれた。
何も聞かずにそこまでしてくれる斉藤のことを、結葉は女神様のようだと思って――。
「電話はそこにあるのを使ってください」
部屋の片隅に設置された電話機を指差す斉藤に、結葉は「あり、がとう、ございます」とお礼を言いながら、ホッとして抑え切れなくなった涙をこぼす。
斉藤は、きっと結葉が偉央と結婚していて、二人で上層階に住んでいることを把握しているはずだ。
だけど「ご主人に連絡しましょうか?」とかそういう類いのことを一切口にしなくて。
もしかしたら結葉の姿を見て、何となく事情を察してくれたのかも知れない。
でも根掘り葉掘り色々問いただそうとしてこない彼女の姿勢に、結葉はただただ感謝の気持ちで一杯になる。
結葉は、出来れば、今後もここに住み続けなければいけない偉央に不利になるようなことは話したくないと思っていたから。
自分がまだ偉央に対してそういう気遣いが出来ることにほんの少し驚きつつ。
でも、とも思う。
どの道結葉がこんな騒ぎを起こしてしまった以上、コンシェルジュの二人が偉央のことをフラットな目で見られなくなるであろうことは確かだったから。
(偉央さん、ごめんね……)
心の中で謝らずにはいられなかった。
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