152 / 228
27.芹だって馬鹿じゃない
私、こんなに自由でもいいのかな?
しおりを挟む
「でも……お兄ちゃんはきっと結葉ちゃんの異変に気付けたってことだよね? だから結葉ちゃんもお兄ちゃんを頼ってここに来たんでしょう?」
――違う?
言外にそう含められて、結葉は思わず言葉に詰まった。
たまたま実家で想に再会したあの日――。
想は結葉を一目見るなり、結葉自身が誰にも知られたくなくてひた隠しにしてきた結葉の異変に気付いてくれた。
その上で、いつでも相談してこいと手を差し伸べてくれた。
言葉に詰まった結葉を見て、芹が小さく吐息を落とす。
「お兄ちゃんって昔っからそう言うところあったよね……。あたしも何度もお兄ちゃんに助けられたから分かる」
「……うん」
芹の言葉に結葉がうなずいたのを確認すると、彼女はもう一度だけ結葉をそっと抱きしめてくれて。
「あたしも……結葉ちゃんの力になりたい」
言って、芹が涙に濡れた瞳で、真剣に結葉を見つめてきたから、結葉も目頭が熱くなった。
「あのね芹ちゃん。実はね、私。もう芹ちゃんに助けられてるんだよ?」
「え……?」
「ほら。芹ちゃんが想ちゃんの連絡を受けてすぐにここへ来てくれたから。それだけで私、すごくすごく救われてる……」
結葉の言葉に芹がキョトンとする。
そんな芹に結葉は、想に告白したのと同様、近場だと旦那と遭遇しそうで外に出るのが怖いこと。
だからと言って一人留守番のためにアパートに残ると、夫が連れ戻しに来るのではないかと不安に押しつぶされそうになって縮こまってしまうこと。
それらを包み隠さず話した。
***
結葉の告白を聞いて、ようやく何故兄が自分をアパートに呼び寄せたのかが分かった芹だ。
「結葉ちゃん……」
芹は結葉の名前を呼ぶと、彼女をもう一度ギュウッと抱きしめた。
「あたしの仕事ね、残業なしで十七時半には終わるの。お兄ちゃんが残業とかになって寂しい時は遠慮なく呼んで? あ。携帯番号、昔のとは変わってるから教えるね――」
番号は、元カレと別れた時に心機一転したくて変えてしまった芹だ。
床に置いた鞄からスマートフォンを取り出すと結葉のほうへ持ってきて。
「……結葉ちゃん?」
てっきり結葉も同じように携帯を取り出して自分に教えてくれるものだと思っていた芹は、結葉が困ったように眉根を寄せるのを見て戸惑った。
「あの……ごめんね、芹ちゃん。私、携帯持ってないの……」
泣きそうな顔で結葉に言われて、芹は息を飲んだ。
もしかして、結葉の旦那の支配は、彼女が外部と連絡を取る手段まで奪うような徹底ぶりだったのだろうか?
(奥さんに足枷をはめて監禁するような人だもん。きっとそうだよね)
そう思って。
「――ちょっと待ってね」
芹は手にしたスマートフォンを操作して、着信履歴を開いた。
そのまま一番上にある想の番号をタップすると、兄に電話をかける。
『もしもし?』
ガヤガヤと喧騒が聞こえてくるところを見ると、想はまだ外にいるらしい。
車に乗り込んでいないならチャンスだ!と芹は思った。
「お兄ちゃん! お使い、もう一つ追加ね――」
この家には固定電話がない。
結葉が携帯を持っていないのは問題ありまくりだ。
そう思った芹は、想に結葉用の携帯電話を契約して帰るように持ちかける。
「お兄ちゃん、免許証もクレジットカードもいつも持ち歩いてるでしょう? すぐ契約できるよね?」
言えば、『あ、ああ』と芹の勢いに押され気味の、想からのやや気後れした返事。
「全くもう! お兄ちゃんったら何でそんなことに気付けなかったかな⁉︎ 頼むよー。結葉ちゃんとの連絡手段ないとか問題ありまくりじゃない!」
芹は、しっかりしているようで抜けたところのある兄にお小言を言うと、小さく吐息を落とした。
『あー、ホント俺、ダメだな。気付いてくれてサンキューな、芹』
だが、そんな芹に素直に謝ってくれた上、礼まで述べてくる兄の声を聞きいていたら、毒気を抜かれてしまう。
芹は
「あー、もう、いい。分かったからちょっと待ってて?」
言って、想と通話を繋げたまま結葉に向き直る。
「結葉ちゃん、スマホ、使ってたことあるよね? 確か昔、あたしとも時々ラインしてたもんね?」
そう問いかけたら、「三年以上前だけど……」と不安そうに結葉が瞳を揺らせて。
芹はにっこり微笑んで
「なら問題ない。そんなに変わってないもん」
言って、「使ってたのはアンドロイドだっけ?」と畳み掛けた。
結葉がうなずくと、「お兄ちゃん、機種はアンドロイドのね?」と、有無を言わせぬ調子で想に付け加えた。
『了解』
通話口から聞こえてきた想の声に、
「あ、あのっ、でもっ」
結葉が慌てて言い募ろうとしたら、芹に人差し指を立ててシーッと制されてしまう。
「そういうわけでお兄ちゃん。可愛い機種選んで来てね? 結葉ちゃんに似合うやつ!」
フンッと鼻息も荒く電話口に告げた。
想が『善処します』と小さく笑う声が聞こえてきて、結葉が何かいう前に「よろしくね」と、芹は通話を切ってしまった。
***
結葉は、もう何年もキッズ携帯しか扱ったことがない。
いきなり昔みたいに自由に色んなことが出来るスマートフォンを渡すと言われても、戸惑ってしまって。
「芹ちゃん……私」
オロオロと眉根を寄せる結葉に、芹は「お兄ちゃんがスマホを持って帰って来たら、とりあえずライン入れよ? そうしたら昔みたいにメッセージのやり取りも出来るし。何より繋がってる相手とは通話料とか気にせずお話し出来るの、素敵じゃない?」
言って「楽しみ!」と微笑んだ。
結葉は芹が心底嬉しそうに微笑むから、想に申し訳ない気持ちがするのとは別に、ちょっとだけ心がワクワクしてくるのを感じた。
(私、こんなに自由でも……いいのかな?)
そんな気持ちを心の片隅に抱えながら。
――違う?
言外にそう含められて、結葉は思わず言葉に詰まった。
たまたま実家で想に再会したあの日――。
想は結葉を一目見るなり、結葉自身が誰にも知られたくなくてひた隠しにしてきた結葉の異変に気付いてくれた。
その上で、いつでも相談してこいと手を差し伸べてくれた。
言葉に詰まった結葉を見て、芹が小さく吐息を落とす。
「お兄ちゃんって昔っからそう言うところあったよね……。あたしも何度もお兄ちゃんに助けられたから分かる」
「……うん」
芹の言葉に結葉がうなずいたのを確認すると、彼女はもう一度だけ結葉をそっと抱きしめてくれて。
「あたしも……結葉ちゃんの力になりたい」
言って、芹が涙に濡れた瞳で、真剣に結葉を見つめてきたから、結葉も目頭が熱くなった。
「あのね芹ちゃん。実はね、私。もう芹ちゃんに助けられてるんだよ?」
「え……?」
「ほら。芹ちゃんが想ちゃんの連絡を受けてすぐにここへ来てくれたから。それだけで私、すごくすごく救われてる……」
結葉の言葉に芹がキョトンとする。
そんな芹に結葉は、想に告白したのと同様、近場だと旦那と遭遇しそうで外に出るのが怖いこと。
だからと言って一人留守番のためにアパートに残ると、夫が連れ戻しに来るのではないかと不安に押しつぶされそうになって縮こまってしまうこと。
それらを包み隠さず話した。
***
結葉の告白を聞いて、ようやく何故兄が自分をアパートに呼び寄せたのかが分かった芹だ。
「結葉ちゃん……」
芹は結葉の名前を呼ぶと、彼女をもう一度ギュウッと抱きしめた。
「あたしの仕事ね、残業なしで十七時半には終わるの。お兄ちゃんが残業とかになって寂しい時は遠慮なく呼んで? あ。携帯番号、昔のとは変わってるから教えるね――」
番号は、元カレと別れた時に心機一転したくて変えてしまった芹だ。
床に置いた鞄からスマートフォンを取り出すと結葉のほうへ持ってきて。
「……結葉ちゃん?」
てっきり結葉も同じように携帯を取り出して自分に教えてくれるものだと思っていた芹は、結葉が困ったように眉根を寄せるのを見て戸惑った。
「あの……ごめんね、芹ちゃん。私、携帯持ってないの……」
泣きそうな顔で結葉に言われて、芹は息を飲んだ。
もしかして、結葉の旦那の支配は、彼女が外部と連絡を取る手段まで奪うような徹底ぶりだったのだろうか?
(奥さんに足枷をはめて監禁するような人だもん。きっとそうだよね)
そう思って。
「――ちょっと待ってね」
芹は手にしたスマートフォンを操作して、着信履歴を開いた。
そのまま一番上にある想の番号をタップすると、兄に電話をかける。
『もしもし?』
ガヤガヤと喧騒が聞こえてくるところを見ると、想はまだ外にいるらしい。
車に乗り込んでいないならチャンスだ!と芹は思った。
「お兄ちゃん! お使い、もう一つ追加ね――」
この家には固定電話がない。
結葉が携帯を持っていないのは問題ありまくりだ。
そう思った芹は、想に結葉用の携帯電話を契約して帰るように持ちかける。
「お兄ちゃん、免許証もクレジットカードもいつも持ち歩いてるでしょう? すぐ契約できるよね?」
言えば、『あ、ああ』と芹の勢いに押され気味の、想からのやや気後れした返事。
「全くもう! お兄ちゃんったら何でそんなことに気付けなかったかな⁉︎ 頼むよー。結葉ちゃんとの連絡手段ないとか問題ありまくりじゃない!」
芹は、しっかりしているようで抜けたところのある兄にお小言を言うと、小さく吐息を落とした。
『あー、ホント俺、ダメだな。気付いてくれてサンキューな、芹』
だが、そんな芹に素直に謝ってくれた上、礼まで述べてくる兄の声を聞きいていたら、毒気を抜かれてしまう。
芹は
「あー、もう、いい。分かったからちょっと待ってて?」
言って、想と通話を繋げたまま結葉に向き直る。
「結葉ちゃん、スマホ、使ってたことあるよね? 確か昔、あたしとも時々ラインしてたもんね?」
そう問いかけたら、「三年以上前だけど……」と不安そうに結葉が瞳を揺らせて。
芹はにっこり微笑んで
「なら問題ない。そんなに変わってないもん」
言って、「使ってたのはアンドロイドだっけ?」と畳み掛けた。
結葉がうなずくと、「お兄ちゃん、機種はアンドロイドのね?」と、有無を言わせぬ調子で想に付け加えた。
『了解』
通話口から聞こえてきた想の声に、
「あ、あのっ、でもっ」
結葉が慌てて言い募ろうとしたら、芹に人差し指を立ててシーッと制されてしまう。
「そういうわけでお兄ちゃん。可愛い機種選んで来てね? 結葉ちゃんに似合うやつ!」
フンッと鼻息も荒く電話口に告げた。
想が『善処します』と小さく笑う声が聞こえてきて、結葉が何かいう前に「よろしくね」と、芹は通話を切ってしまった。
***
結葉は、もう何年もキッズ携帯しか扱ったことがない。
いきなり昔みたいに自由に色んなことが出来るスマートフォンを渡すと言われても、戸惑ってしまって。
「芹ちゃん……私」
オロオロと眉根を寄せる結葉に、芹は「お兄ちゃんがスマホを持って帰って来たら、とりあえずライン入れよ? そうしたら昔みたいにメッセージのやり取りも出来るし。何より繋がってる相手とは通話料とか気にせずお話し出来るの、素敵じゃない?」
言って「楽しみ!」と微笑んだ。
結葉は芹が心底嬉しそうに微笑むから、想に申し訳ない気持ちがするのとは別に、ちょっとだけ心がワクワクしてくるのを感じた。
(私、こんなに自由でも……いいのかな?)
そんな気持ちを心の片隅に抱えながら。
0
あなたにおすすめの小説
【完】経理部の女王様が落ちた先には
Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング4位
高級なスーツ、高級な腕時計を身に付け
ピンヒールの音を響かせ歩く
“経理部の女王様”
そんな女王様が落ちた先にいたのは
虫1匹も殺せないような男だった・・・。
ベリーズカフェ総合ランキング4位
2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位
2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位
関連物語
『ソレは、脱がさないで』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高4位
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高2位
『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位
『初めてのベッドの上で珈琲を』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位
『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位
私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。
伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。
物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
お前が愛おしい〜カリスマ美容師の純愛
ラヴ KAZU
恋愛
涼風 凛は過去の恋愛にトラウマがあり、一歩踏み出す勇気が無い。
社長や御曹司とは、二度と恋はしないと決めている。
玉森 廉は玉森コーポレーション御曹司で親の決めたフィアンセがいるが、自分の結婚相手は自分で決めると反抗している。
そんな二人が恋に落ちる。
廉は社長である事を凛に内緒でアタックを開始するが、その事がバレて、凛は距離を置こうとするが・・・
あれから十年、凛は最悪の過去をいまだに引き摺って恋愛に臆病になっている。
そんな凛の前に現れたのが、カリスマ美容師大和颯、凛はある日スマホを拾った、そのスマホの持ち主が颯だった。
二人は惹かれあい恋に落ちた。しかし凛は素直になれない、そんなある日颯からドライブに誘われる、「紹介したい人がいるんだ」そして車から降りてきたのは大和 祐、颯の息子だった。
祐は颯の本当の息子ではない、そして颯にも秘密があった。
私を抱かないと新曲ができないって本当ですか? 〜イケメン作曲家との契約の恋人生活は甘い〜
入海月子
恋愛
「君といると曲のアイディアが湧くんだ」
昔から大ファンで、好きで好きでたまらない
憧れのミュージシャン藤崎東吾。
その人が作曲するには私が必要だと言う。
「それってほんと?」
藤崎さんの新しい曲、藤崎さんの新しいアルバム。
「私がいればできるの?私を抱いたらできるの?」
絶対後悔するとわかってるのに、正気の沙汰じゃないとわかっているのに、私は頷いてしまった……。
**********************************************
仕事を頑張る希とカリスマミュージシャン藤崎の
体から始まるキュンとくるラブストーリー。
【完結】東京・金沢 恋慕情 ~サレ妻は御曹司に愛されて~
安里海
恋愛
佐藤沙羅(35歳)は結婚して13年になる専業主婦。
愛する夫の政志(38歳)と、12歳になる可愛い娘の美幸、家族3人で、小さな幸せを積み上げていく暮らしを専業主婦である紗羅は大切にしていた。
その幸せが来訪者に寄って壊される。
夫の政志が不倫をしていたのだ。
不安を持ちながら、自分の道を沙羅は歩み出す。
里帰りの最中、高校時代に付き合って居た高良慶太(35歳)と偶然再会する。再燃する恋心を止められず、沙羅は慶太と結ばれる。
バツイチになった沙羅とTAKARAグループの後継ぎの慶太の恋の行方は?
表紙は、自作です。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる