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37.それぞれの再出発
私だけ幸せになってもいいの?
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モールに着いてすぐ、想は結葉を連れて携帯ショップに行った。
「お前の携番変える手続き、今日のうちに済ましちまおうと思ってんだけど……いいか?」
前にこの話を出したら、結葉に悲しそうな顔をされたのを覚えている想だ。
「――うん。それで大丈夫だよ。私のせいで色々手間をかけさせちゃってごめんね」
だけど今日の結葉は、想が一度打診していて心の準備ができていたからだろうか。
前みたいに戸惑いに揺れる視線を向けられなくて、想は密かにホッと胸を撫で下ろしたのだ。
「ほら、謝んのは無しっちゅったろ?」
「う……。え、えっと……。私のために色々気遣ってくれて有難う?」
語尾が疑問形になったのは、結葉的には、別に絶対変えないといけないとは思っていないのかもしれない。
でも、想としては元旦那の親に今の番号を知られている以上、どうしてもこのままにはしておけないと思ってしまったんだから仕方がないではないか。
ちょっと強引だけど、結葉もOKを出したんだし、と気を取り直して、そのまま強引に話を進めさせてもらおうと心に決めた。
店舗スペースに入るなり即座に「本日はどう言ったご用件でしょうか?」と案内スタッフが近付いてきた。
「電話番号を変更したくて。……今から映画観てくるんで来られるの、十三時過ぎになると思うんですけど」
想がそう言うと、相手はすぐさま手にしていた端末で時間指定付きの来店予約をしてくれて。
これである程度はタイムロスを防げたかなと思った想だ。
***
「想ちゃんって恐竜とか怪獣とか出てくるの好きだよね」
「結葉もだろ」
「え? 私、怪獣はそんなに好きじゃないよ?」
結葉は子供の頃から恐竜が出てくる映画が結構好きで、想や芹と一緒にワクワクしながらレンタルしたものをどちらかの家で観ていた。
大抵は結葉の家のテレビより大きいから、という理由で想の家に行くことが多かったけれど、想は芹と結葉は余り好きではない怪獣モノも好きみたいで、割と夢中になって観ていたのを覚えている。
「ちょっと待って? 一緒に観てくれてたのってお義理だったってこと?」
「かなぁ~?」
クスクス笑ったら「ひっでぇ~」と想が結葉を小突いて。
「あっ。けど……今日映画が始まる前に予告で流れてた、倒した後の怪獣の死体をどう処理するか?みたいな映画は面白そう!って思ったよ?」
想が観ていた怪獣モノでも、街をパニックに陥れた怪獣が、人々の努力で撃退されたり倒されたりするシーンが結構あったけど、倒した後の怪獣の亡骸をどうするか?にスポットを当てたものはほとんどなかった気がする。
何かの映画で、遺体の一部をオークションにかけて金持ちに売り捌く闇の組織みたいなものが描かれていたのを観たことがあるけれど、結葉が知っているのはそれぐらいだ。
「『モンスターのあとしまつ』だっけか。まぁ確かに面白そうではあったけど、俺はどっちかってぇと元気に動き回ってる怪獣見んのが好きなんだよなぁ~」
言いながらも、想は「けどあれはあれで観れたらって思うし、上映され始めたらまた一緒に来ような?」と打診してくれて。
結葉は「うん」と頷いた。
そうしながら、〝私、想ちゃんからの気持ちにちゃんと答え出せてないのにいいの?〟と思ってしまった結葉だ。
ソワソワと横を歩く想の顔を見上げたら「ん~? どした?」と気付かれてしまってドギマギする。
「な、何でもないっ」
結葉だって想のことは大好きだ。
今だって、目が合っただけで心臓がトクンッと大きく跳ね上がって、それを強く実感させられてしまった。
そもそも幼い頃からずっと片想い――ではなかったみたいだけれど――をしていた相手だ。
好きだって言われて、嬉しくないわけがないし、舞い上がらないわけがないではないか。
でも。
(私だけ幸せになってもいいの?)
そんなことを思ってしまって、心に歯止めがかかる。
想を諦めるためにした偉央との見合いだったけれど、結葉の失恋の痛みを癒してくれたのは、紛れもなく偉央だったのだ。
結葉は偉央のことを確かに愛していたし、大好きだって思っていた。
一時は想よりも好きになれたと思えたから結婚したのだし、家族として偉央のそばにいて、偉央のことを大切にしたい、しなくちゃいけないと思っていた。
だからだろうか。
想の気持ちに応えようと思うたび、偉央の「結葉、お願い。帰ってきて?」という言葉が脳裏に蘇ってきてギュッと胸を締め付けられるのは。
その痛みは、恋心とはもちろん違うと断言出来る。
そんなものは辛い結婚生活のなかで、徐々にすり減っていって、偉央の元を去るころには消失していたはずだから。
あえて言うならば〝家族としての情〟なんだと思う。
でも、その情が結構厄介で、結葉が何かをしようと思うたび、心の片隅でモヤモヤと仄暗く燻るのだ。
離婚の話し合いを始めてからの偉央は、穏やかに現実を受け入れてくれているように見えたけれど、それは想が常に同席していたからかも?とも思ってしまって、結葉はどうにも踏ん切りがつけられない。
偉央は基本的にとてもプライドの高い男性だったから。
もしかしたら想が同じ空間にいることで気を張っていた可能性だってあるなって思って。
別れた相手への後ろめたさから、新たな一歩が踏み出せないと言ったら、きっと想には溜め息をつかれてしまうだろう。
そうして、ひょっとしたら偉央にだって、「前に進む勇気が持てない理由を僕に転嫁しないで?」と怒られてしまうかもしれない。
だけど結葉は頭の片隅でそれを考えてしまわずには居られないのだ。
想が、「結葉は気持ちを切り替えるのが下手だ」と言ったのは、結局自分のそう言うところを指しているんだろうなと思った結葉だった。
「お前の携番変える手続き、今日のうちに済ましちまおうと思ってんだけど……いいか?」
前にこの話を出したら、結葉に悲しそうな顔をされたのを覚えている想だ。
「――うん。それで大丈夫だよ。私のせいで色々手間をかけさせちゃってごめんね」
だけど今日の結葉は、想が一度打診していて心の準備ができていたからだろうか。
前みたいに戸惑いに揺れる視線を向けられなくて、想は密かにホッと胸を撫で下ろしたのだ。
「ほら、謝んのは無しっちゅったろ?」
「う……。え、えっと……。私のために色々気遣ってくれて有難う?」
語尾が疑問形になったのは、結葉的には、別に絶対変えないといけないとは思っていないのかもしれない。
でも、想としては元旦那の親に今の番号を知られている以上、どうしてもこのままにはしておけないと思ってしまったんだから仕方がないではないか。
ちょっと強引だけど、結葉もOKを出したんだし、と気を取り直して、そのまま強引に話を進めさせてもらおうと心に決めた。
店舗スペースに入るなり即座に「本日はどう言ったご用件でしょうか?」と案内スタッフが近付いてきた。
「電話番号を変更したくて。……今から映画観てくるんで来られるの、十三時過ぎになると思うんですけど」
想がそう言うと、相手はすぐさま手にしていた端末で時間指定付きの来店予約をしてくれて。
これである程度はタイムロスを防げたかなと思った想だ。
***
「想ちゃんって恐竜とか怪獣とか出てくるの好きだよね」
「結葉もだろ」
「え? 私、怪獣はそんなに好きじゃないよ?」
結葉は子供の頃から恐竜が出てくる映画が結構好きで、想や芹と一緒にワクワクしながらレンタルしたものをどちらかの家で観ていた。
大抵は結葉の家のテレビより大きいから、という理由で想の家に行くことが多かったけれど、想は芹と結葉は余り好きではない怪獣モノも好きみたいで、割と夢中になって観ていたのを覚えている。
「ちょっと待って? 一緒に観てくれてたのってお義理だったってこと?」
「かなぁ~?」
クスクス笑ったら「ひっでぇ~」と想が結葉を小突いて。
「あっ。けど……今日映画が始まる前に予告で流れてた、倒した後の怪獣の死体をどう処理するか?みたいな映画は面白そう!って思ったよ?」
想が観ていた怪獣モノでも、街をパニックに陥れた怪獣が、人々の努力で撃退されたり倒されたりするシーンが結構あったけど、倒した後の怪獣の亡骸をどうするか?にスポットを当てたものはほとんどなかった気がする。
何かの映画で、遺体の一部をオークションにかけて金持ちに売り捌く闇の組織みたいなものが描かれていたのを観たことがあるけれど、結葉が知っているのはそれぐらいだ。
「『モンスターのあとしまつ』だっけか。まぁ確かに面白そうではあったけど、俺はどっちかってぇと元気に動き回ってる怪獣見んのが好きなんだよなぁ~」
言いながらも、想は「けどあれはあれで観れたらって思うし、上映され始めたらまた一緒に来ような?」と打診してくれて。
結葉は「うん」と頷いた。
そうしながら、〝私、想ちゃんからの気持ちにちゃんと答え出せてないのにいいの?〟と思ってしまった結葉だ。
ソワソワと横を歩く想の顔を見上げたら「ん~? どした?」と気付かれてしまってドギマギする。
「な、何でもないっ」
結葉だって想のことは大好きだ。
今だって、目が合っただけで心臓がトクンッと大きく跳ね上がって、それを強く実感させられてしまった。
そもそも幼い頃からずっと片想い――ではなかったみたいだけれど――をしていた相手だ。
好きだって言われて、嬉しくないわけがないし、舞い上がらないわけがないではないか。
でも。
(私だけ幸せになってもいいの?)
そんなことを思ってしまって、心に歯止めがかかる。
想を諦めるためにした偉央との見合いだったけれど、結葉の失恋の痛みを癒してくれたのは、紛れもなく偉央だったのだ。
結葉は偉央のことを確かに愛していたし、大好きだって思っていた。
一時は想よりも好きになれたと思えたから結婚したのだし、家族として偉央のそばにいて、偉央のことを大切にしたい、しなくちゃいけないと思っていた。
だからだろうか。
想の気持ちに応えようと思うたび、偉央の「結葉、お願い。帰ってきて?」という言葉が脳裏に蘇ってきてギュッと胸を締め付けられるのは。
その痛みは、恋心とはもちろん違うと断言出来る。
そんなものは辛い結婚生活のなかで、徐々にすり減っていって、偉央の元を去るころには消失していたはずだから。
あえて言うならば〝家族としての情〟なんだと思う。
でも、その情が結構厄介で、結葉が何かをしようと思うたび、心の片隅でモヤモヤと仄暗く燻るのだ。
離婚の話し合いを始めてからの偉央は、穏やかに現実を受け入れてくれているように見えたけれど、それは想が常に同席していたからかも?とも思ってしまって、結葉はどうにも踏ん切りがつけられない。
偉央は基本的にとてもプライドの高い男性だったから。
もしかしたら想が同じ空間にいることで気を張っていた可能性だってあるなって思って。
別れた相手への後ろめたさから、新たな一歩が踏み出せないと言ったら、きっと想には溜め息をつかれてしまうだろう。
そうして、ひょっとしたら偉央にだって、「前に進む勇気が持てない理由を僕に転嫁しないで?」と怒られてしまうかもしれない。
だけど結葉は頭の片隅でそれを考えてしまわずには居られないのだ。
想が、「結葉は気持ちを切り替えるのが下手だ」と言ったのは、結局自分のそう言うところを指しているんだろうなと思った結葉だった。
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