【完結】【R18】結婚相手を間違えました

鷹槻れん

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37.それぞれの再出発

私だけ幸せになってもいいの?

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 モールに着いてすぐ、そう結葉ゆいはを連れて携帯ショップに行った。

「お前の携番けいばん変える手続き、今日のうちに済ましちまおうと思ってんだけど……いいか?」

 前にこの話を出したら、結葉ゆいはに悲しそうな顔をされたのを覚えているそうだ。

「――うん。それで大丈夫だよ。私のせいで色々手間をかけさせちゃってごめんね」

 だけど今日の結葉ゆいはは、そうが一度打診していて心の準備ができていたからだろうか。

 前みたいに戸惑いに揺れる視線を向けられなくて、そうは密かにホッと胸を撫で下ろしたのだ。


「ほら、謝んのは無しっちゅったろ?」

「う……。え、えっと……。私のために色々気遣ってくれて有難う?」

 語尾が疑問形になったのは、結葉ゆいは的には、別に絶対変えないといけないとは思っていないのかもしれない。

 でも、そうとしては元旦那の親に今の番号を知られている以上、どうしてもこのままにはしておけないと思ってしまったんだから仕方がないではないか。

 ちょっと強引だけど、結葉ゆいはもOKを出したんだし、と気を取り直して、そのまま強引に話を進めさせてもらおうと心に決めた。





 店舗スペースに入るなり即座に「本日はどう言ったご用件でしょうか?」と案内スタッフが近付いてきた。

「電話番号を変更したくて。……今から映画観てくるんで来られるの、十三時いちじ過ぎになると思うんですけど」

 そうがそう言うと、相手はすぐさま手にしていた端末で時間指定付きの来店予約をしてくれて。

 これである程度はタイムロスを防げたかなと思ったそうだ。


***


そうちゃんって恐竜とか怪獣とか出てくるの好きだよね」

結葉ゆいはもだろ」

「え? 私、怪獣はそんなに好きじゃないよ?」

 結葉ゆいはは子供の頃から恐竜が出てくる映画が結構好きで、そうせりと一緒にワクワクしながらレンタルしたものをどちらかの家で観ていた。

 大抵は結葉ゆいはの家のテレビより大きいから、という理由でそうの家に行くことが多かったけれど、そうせり結葉ゆいはは余り好きではない怪獣モノも好きみたいで、割と夢中になって観ていたのを覚えている。


「ちょっと待って? 一緒に観てくれてたのってお義理だったってこと?」

「かなぁ~?」

 クスクス笑ったら「ひっでぇ~」とそう結葉ゆいはを小突いて。

「あっ。けど……今日映画が始まる前に予告で流れてた、倒した後の怪獣の死体をどう処理するか?みたいな映画は面白そう!って思ったよ?」

 そうが観ていた怪獣モノでも、街をパニックにおとしいれた怪獣が、人々の努力で撃退されたり倒されたりするシーンが結構あったけど、倒した後の怪獣の亡骸なきがらをどうするか?にスポットを当てたものはほとんどなかった気がする。

 何かの映画で、遺体の一部をオークションにかけて金持ちに売り捌く闇の組織みたいなものが描かれていたのを観たことがあるけれど、結葉ゆいはが知っているのはそれぐらいだ。

「『モンスターのあとしまつ』だっけか。まぁ確かに面白そうではあったけど、俺はどっちかってぇと元気に動き回ってる怪獣見んのが好きなんだよなぁ~」

 言いながらも、そうは「けどあれはあれで観れたらって思うし、上映され始めたらまた一緒に来ような?」と打診してくれて。

 結葉ゆいはは「うん」と頷いた。

 そうしながら、〝私、そうちゃんからの気持ちにちゃんと答え出せてないのにいいの?〟と思ってしまった結葉ゆいはだ。

 ソワソワと横を歩くそうの顔を見上げたら「ん~? どした?」と気付かれてしまってドギマギする。

「な、何でもないっ」

 結葉ゆいはだってそうのことは大好きだ。
 今だって、目が合っただけで心臓がトクンッと大きく跳ね上がって、それを強く実感させられてしまった。

 そもそも幼い頃からずっと片想い――ではなかったみたいだけれど――をしていた相手だ。

 好きだって言われて、嬉しくないわけがないし、舞い上がらないわけがないではないか。

 でも。

(私だけ幸せになってもいいの?)

 そんなことを思ってしまって、心に歯止めがかかる。

 そうを諦めるためにした偉央いおとの見合いだったけれど、結葉ゆいはの失恋の痛みを癒してくれたのは、紛れもなく偉央いおだったのだ。

 結葉ゆいは偉央いおのことを確かに愛していたし、大好きだって思っていた。
 一時はそうよりも好きになれたと思えたから結婚したのだし、家族として偉央いおのそばにいて、偉央いおのことを大切にしたい、しなくちゃいけないと思っていた。

 だからだろうか。

 そうの気持ちに応えようと思うたび、偉央いおの「結葉ゆいは、お願い。帰ってきて?」という言葉が脳裏に蘇ってきてギュッと胸を締め付けられるのは。

 その痛みは、恋心とはもちろん違うと断言出来る。

 そんなものは辛い結婚生活のなかで、徐々にすり減っていって、偉央いおの元を去るころには消失していたはずだから。

 あえて言うならば〝家族としての情〟なんだと思う。

 でも、その情が結構厄介で、結葉ゆいはが何かをしようと思うたび、心の片隅でモヤモヤと仄暗ほのぐらくすぶるのだ。

 離婚の話し合いを始めてからの偉央いおは、穏やかに現実を受け入れてくれているように見えたけれど、それはそうが常に同席していたからかも?とも思ってしまって、結葉ゆいははどうにも踏ん切りがつけられない。

 偉央いおは基本的にとてもプライドの高い男性だったから。

 もしかしたらそうが同じ空間にいることで気を張っていた可能性だってあるなって思って。

 別れた相手への後ろめたさから、新たな一歩が踏み出せないと言ったら、きっとそうには溜め息をつかれてしまうだろう。

 そうして、ひょっとしたら偉央いおにだって、「前に進む勇気が持てない理由を僕に転嫁しないで?」と怒られてしまうかもしれない。

 だけど結葉ゆいはは頭の片隅でそれを考えてしまわずには居られないのだ。

 そうが、「結葉ゆいはは気持ちを切り替えるのが下手だ」と言ったのは、結局自分のそう言うところを指しているんだろうなと思った結葉ゆいはだった。
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