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1.木の下の子リス
既視感
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それじゃなくても小柄に見える女の子が、刹那その手から逃れるようにギュッと身体を縮こまらせたのが見えた。
それを見た瞬間、実篤は思わず彼女に伸ばされた男の手を横合いからグッと握ってしまっていた。
本部からは警察が到着するまで「決して手出しはするな」と言われていたのに、これ。
本当は相手に声を掛けて、パン屋の女の子との間に立ちはだかるだけで事足りたはずなのだ。
「んだよ、おっさん。離せよっ!」
急に横合いから手を掴まれ、あまつさえグイッと捻られたのだ。
酔っ払ったガラの悪い男が、怒りの矛先を実篤に転嫁してこないはずがない。
だけど「そのほうがええわ」と実篤は心底思った。
「見て分かりませんかね? 運営の者なんじゃけど」
商工会から支給されている法被は、主催者側の証。
相手の男の方が少し背が高かったけれど、気迫で負ける気なんて、実篤にはさらさらない。
真っ向からジッと眼前の男を睨みつけたら、相手がヒュッと息を呑んだのが分かった。
そこでふと、昨夕田岡から言われた「社長、見た目怖いけぇ、ちょっと睨みきかせたらみんなよぉ言うこと聞いてくれますけぇね~」という言葉を思い出した実篤だ。
昨日は勘弁してくれと思った評価だったけれど、今はいっそこんな見た目で良かったとさえ思った。
仕事柄、不特定多数の人間と接する関係で、トラブルがないわけじゃない。
護身術に、と子供の頃からずっと空手をやってきた。
一応黒帯だし、いざとなったら自分はそれほど喧嘩が弱いとは思わない。
だけど、努めて揉め事を起こしたいわけではないのも確かなので、睨みを利かせただけで引き下がってくれるならそれに越したことはないとも思っている実篤だ。
「んだよ! 用心棒付きじゃとか聞いてねぇぞ!」
男が負け惜しみのようにそう喚いたところでようやく警官が到着した。
俺はまだ何もしちょらん!だの何だの言い訳をするのを「まぁまぁ」と宥められながら連れていかれる男を追って人だかりも野次馬たちの視線も、その男と共にそちらに流れていく。
それを見届けて周りが静かになった頃、実篤は背後に立ち尽くしたままの女の子に向き直った。
「……大丈夫?」
なるべく優しく声をかけたつもりだけど、その子はビクッと肩を震わせて実篤を涙目で見上げてくる。
「災難じゃったね。怖かったじゃろ。駆けつけるのが遅ぉなって悪かったね」
何とかその緊迫した空気を和らげてあげたくて、実篤は努めて静かな声音で語りかけた。
内心、怯えた目をした女の子の可愛さに相当やられつつ。
そうして同時に思っていた。
――この子、何か既視感あるんじゃけど、と。
それを見た瞬間、実篤は思わず彼女に伸ばされた男の手を横合いからグッと握ってしまっていた。
本部からは警察が到着するまで「決して手出しはするな」と言われていたのに、これ。
本当は相手に声を掛けて、パン屋の女の子との間に立ちはだかるだけで事足りたはずなのだ。
「んだよ、おっさん。離せよっ!」
急に横合いから手を掴まれ、あまつさえグイッと捻られたのだ。
酔っ払ったガラの悪い男が、怒りの矛先を実篤に転嫁してこないはずがない。
だけど「そのほうがええわ」と実篤は心底思った。
「見て分かりませんかね? 運営の者なんじゃけど」
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相手の男の方が少し背が高かったけれど、気迫で負ける気なんて、実篤にはさらさらない。
真っ向からジッと眼前の男を睨みつけたら、相手がヒュッと息を呑んだのが分かった。
そこでふと、昨夕田岡から言われた「社長、見た目怖いけぇ、ちょっと睨みきかせたらみんなよぉ言うこと聞いてくれますけぇね~」という言葉を思い出した実篤だ。
昨日は勘弁してくれと思った評価だったけれど、今はいっそこんな見た目で良かったとさえ思った。
仕事柄、不特定多数の人間と接する関係で、トラブルがないわけじゃない。
護身術に、と子供の頃からずっと空手をやってきた。
一応黒帯だし、いざとなったら自分はそれほど喧嘩が弱いとは思わない。
だけど、努めて揉め事を起こしたいわけではないのも確かなので、睨みを利かせただけで引き下がってくれるならそれに越したことはないとも思っている実篤だ。
「んだよ! 用心棒付きじゃとか聞いてねぇぞ!」
男が負け惜しみのようにそう喚いたところでようやく警官が到着した。
俺はまだ何もしちょらん!だの何だの言い訳をするのを「まぁまぁ」と宥められながら連れていかれる男を追って人だかりも野次馬たちの視線も、その男と共にそちらに流れていく。
それを見届けて周りが静かになった頃、実篤は背後に立ち尽くしたままの女の子に向き直った。
「……大丈夫?」
なるべく優しく声をかけたつもりだけど、その子はビクッと肩を震わせて実篤を涙目で見上げてくる。
「災難じゃったね。怖かったじゃろ。駆けつけるのが遅ぉなって悪かったね」
何とかその緊迫した空気を和らげてあげたくて、実篤は努めて静かな声音で語りかけた。
内心、怯えた目をした女の子の可愛さに相当やられつつ。
そうして同時に思っていた。
――この子、何か既視感あるんじゃけど、と。
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