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告白

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「すまん……」

 パティスの髪に顔をうずめたまま、彼女の耳元でブレイズがつぶやく。

 その謝罪が、前の言葉を引き継いでのものだと思ったパティスは、ゆるゆると首を横に振った。

「私こそ……勝手なことをしてごめんなさい」

 ブレイズの気持ちが例え自分以外の人に向いてしまったのだとしても……ちゃんと彼と話をしてから立ち去るべきだった。
 そう続けようとしたら、力ない声で「……そうじゃない」と言われた。その言葉の意味を測りかねたパティスは、ブレイズから少し身体を放して彼の顔を覗き込んだ。

 途端、パティスは目をみはらずにはいられなくなった。

「ブレイズ、どうしたの!?」

 明らかに体調が悪いことを物語るように、苦悶くもんの表情にゆがめられた彼の顔を見て、パティスは愕然がくぜんとする。


 そこでハッとしたように上空をあおぎ見て、悟った。暗い森の中にいて失念していたけれど、木々の隙間を縫うように広がる空の様子から、まだ陽が完全に落ちてはいないことを――。

 だからいつもはしないようなこんな重装備で彼はここへやってきたのだ。

 パティスは吸血鬼ではないから、その苦痛がどれほどのものか実際には分からなかったけれど、恐らく今ブレイズは全身を焼かれるような激痛にさいなまれているんだ、と思った。

 そう思って見れば、所々服の切れ目から覗くブレイズの皮膚は赤く焼けただれたようになっていた。

 その、余りに痛そうな惨状に、パティスは思わずブレイズを太陽からかばうように彼の上に覆いかぶさっていた。

「ごめんなさい、ごめんなさい……!」

 それ以外、何と言ったらいいのか分からなくて……うわ言のように謝り続けるパティスに、計らずも彼女の下敷きになってしまったブレイズが苦笑する。

「大丈夫だよ。こんなん、すぐに治る」

 そこまで言って、パティスの泣き濡れた頬に優しく手を触れると、

「それよりお前は怪我してないか?」

 着ている物の、あちこちが破れていたり泥まみれになって汚れたりしているけれどお前は大丈夫なのか?と問うてくる優しい声に、パティスは必死で首を縦に振った。

「大、丈夫……」

 しゃくりあげるように何とか一言そう言ったら、ブレイズがホッとしたように息を吐いた。

「……良かった」

 火傷だらけのくせに自分のことばかり気遣うブレイズに、パティスは胸を締め付けられるような思いに駆られる。

(やっぱり私はこの人が好き!)

 それは、どんなに封じ込めようとしても押さえきれない感情で。気が付くと、パティスはブレイズの頬に自分のそれを寄せるようにして抱きついていた。

「私、ブレイズが大好きよ……!」
 例え、ブレイズの心に別の女性ひとが居たとしても――。

 今までは、きっと言わなくても彼は気付いていると思っていたから口には出さずにいた気持ち。

 でも、改めてそう声に出してみると、本当にそうなのだ、という実感が湧いてきた。

 そして、それは彼女の告白を聞いたブレイズも同じだったみたいで――。
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