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私にはしてくれなかったこと

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 恐らく、それほど年が離れているようには見えないシルバミだけれど、実際に生きてきた年月は親子以上に離れているからだろう。

 それに――。

 きっとブレイズが不在がちだった理由が、自分のためだったのだと教えてもらえて嬉しかったから。

 だから頭に載せられた彼女の手を、案外素直に受け入れることが出来たんだと思う。

 シルバミの告白にムスッと黙りこんでしまったブレイズを見て、彼女の語ったことは嘘じゃない、と確信できて……。それがまた、パティスが胸の奥に感じていた痛みを和らげてくれた。

「さて、と……。誤解も解けたみたいだし……私、そろそろ行くわね」

 唐突にシルバミがそんな風に告げたものだから、パティスだけではなく、ブレイズも驚いたらしい。

「……お、おい! 行くって……」
 ちょっと前に越してきたやかたに帰るだけなんだろう?と問いかけたブレイズだったが……。

「まさか! ここにいたらまた貴方にこき使われるかも知れないもの。だからね、さっさと引っ越しちゃうことにしたの」
 ブレイズに小さく舌を出してべぇー!としてみせると、シルバミがクスリと笑う。

「それにね、私、そんなに野暮やぼじゃないもの」
 言いながら、そのまま歩き出したシルバミを思わず追ったパティスに、
「このまま近くに居たら二人の邪魔をしたくなっちゃう」
 パティスにだけ聞こえるぐらいの小さな声でそう告げて、シルバミは地下室を出て行った。

 だからその言葉の後にポツリと告げられた、
「それに彼、私が寝込んでた時、会いには来てくれたけど、看病したいなんて言ってくれたこと、一度もなかったんだから」
 という言葉だけは、誰の耳にも届くことはなかった。
 



終わり
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