飛ばない魔法は魔法じゃない!? ~no distance,no magic~

セビィ

文字の大きさ
8 / 8

第七話 確信

しおりを挟む
まえがき
やっと一日が終わった。
今日も大きな出来事もなく過ごせた事に安心しながら帰路に付くアルベルト。
そこに待っていたのは……。




















「アルベルト=ランケス君、かしら」

 学院から寮に向かう途中の街路樹《がいろじゅ》。
 不意に後ろから声を掛けられ、アルが振り返るとそこには腕組みをした一人の少女が道の真ん中に立っていた。
 吹き抜ける風が金色の髪をなびかせ、まるで宝石のように煌《きら》めく碧《みどり》色の瞳で真っすぐ見つめられた事でドキリとアルの胸が弾んでしまう。

「そ、そうだけど……。君は……?」

 美しい少女の存在に見惚《みと》れてつい呆けていたアルだったが、すぐにそんな考えを振り払っておずおずと口を開いた。

「ごめんなさい。私の名前はセルヴィア=ワーグハーツ。貴方と同じ学院の一年生よ」
「そうなんだ……。僕に何か用ですか……?」

 丁寧におっとりとした口調で応対するアルだが、内心は早く話を終わらせて帰りたい気持ちで一杯だった。
 同じ学院の生徒ならばアルの「不発」の事は耳にしているだろうし、それを知った上で自分の方から友好的に話しかけてくれるような変わり者はそうそういない。
 実際に声を掛けてくる生徒の多くはアルと一度も会話をした事のない奴らで、能力がないのにこの学院に在籍し続けているアルに対しての不快感と侮蔑をこめた感情を言葉に乗せてぶつけてくるような連中ばかりだったからだ。

「あら、随分とそっけないのね」
「すみません……」

 自分の言葉を受けて本当に申し訳ないとも思っていないのに、条件反射のように謝ってきたアルにわずかな苛立ちが生まれ、セルヴィアは語気を強めた。

「私と貴方は同じ学年なの。だから対等な口調でお願いしたいんだけど?」
「はぁ……」

 この子は何が言いたいんだろう。
 生返事を返したアルがついに直接的に何かをされるのではないか、と心配になって周囲を見回して警戒を強めるが誰もいない。

「何をしているの?」
「いや、別に……」

 挙動不審なアルを訝しげに見てから、ふと自分の登場の仕方が悪かった事と、彼の境遇に考えを巡らせて最初の接し方を失敗したわね、とセルヴィアは胸中で悔やんだ。
 だが同時に、このまま後にも引けないと覚悟を決めてセルヴィアは話を続ける。

「私、貴方の秘密を知っているの」
「え?」

 その一言でアルはまるで背中に冷水を掛けられたように体の体温が下がったように感じた。

「ざ……」

 言葉を発しようとするが上手く声が出せない。
 緊張でアルの口内が一瞬にして渇いていく。
 動揺から震えそうになる唇とキュッっと結び、至って平静を装う為に大きく息を吸ってからため息のように吐き出した。

「残念だけどっ……。僕が魔法を打てない事は学校の誰もが知ってるから……。秘密にはなり得ないよ。それじゃあね……」

 彼女の言う秘密がだと決め込んで一方的に話を終わらせてその場を去ろうとするアルだったが、事態はそう上手くは動かなかった。

「あら? それは私の言っている秘密ではないわね。……霧の日の火災騒ぎ、と言えば分かってもらえるかしら?」
「っっ……!?」

 アルの心臓がうるさいくらい早鐘《はやがね》を打つ。
 何でその事を? 見られていた?
 これを公表されて……僕が犯人だと言う事が明るみにでたらとても厳しい処罰が下るだろう。
 謹慎や停学?
 最悪の場合放火犯として学院を追放されるかも知れない。
 認める訳にはいかない。
 ここは何としてでも乗りきらないと。

「霧が出ていた日の火災? 初めて聞いたよそんな出来事。それにどうしてそれが僕の秘密とやらに関係あるの?」
「私、見たの。ランニングをしている時に木が燃えて倒れたのをね」

 具体的な内容の目撃情報に、アルの心はいきなり折れそうになる。
 だが、アルの記憶では周囲に人はいなかったように思えるし、誰かに呼び止められたりもしなかった。

「まさか! それが……僕だって言いたいの?」

 アルの言葉に「ええ」と自信満々に頷くセルヴィア。

「フォルテナ学院の制服を着た銀の髪型の人影を見たの。学年は一年生。まだ情報が必要かしら?」
「そんなの……銀髪なんて僕じゃなくてもたくさんいるじゃないか……。それこそ霧が濃くて君が見間違えた可能性だってあるよ!」

 アルの言葉を聞いたセルヴィアがニンマリと満面の笑みを浮かべた。
 アルは何もボロは出していないはずだと動揺を隠して平静を装う。

「あらあら? 私は火災があったなんて、一言も言ってないけれど?」

 しまった! とアルは胸中で舌打ちした。

「そ、それは……君がランニングをしてたら目撃した、って…」

「私は朝にランニングしてた、なんて言ってないわよ?」
「……」

 やられた。こいつは可愛い顔をした悪魔だ、とアルは胸中で毒づくがもう手遅れのようだ。

「それでもシラを切るというのなら自警団に通報して調査が入ると思うけど……」
「……僕をどうするつもり?」

 小さくため息をついてせめてもの抵抗でセルヴィアを睨み付けた。

「え?」
「それを自警団に言って、僕を退学にするつもり?」
「まさか」

 そう言ってセルビアは首を振ってから何かを思い出したらしく「あ」と声を上げた。

「でも貴方が木を焼いたお陰で私は恥をかかされたから、それは謝ってほしいわね」
「意味が分からないんだけど……」

 アルの呟きを聞いて、セルヴィアが眉を上げてビシィ! とアルを指さす。

「貴方ね! さっきは悪いと思っていなかったのに謝ったじゃない。矛盾してるわよ!?」
「それはこっちの台詞だよ。火をつけた犯人を捜してたくせに何もしないだなんて矛盾してるよ」

「矛盾はしていないわよ。私は貴方にお願いがあって来たの」
「お願い……?」

 こういう圧倒的不利な状況で出されるお願いは「お願い」とは言わない。
 「命令」だ。

「そう。
「断ったら?」
「私は悪を滅ぼす正義を執行する為に、自警団に見た事を報告しないといけなくなるわね……」
の内容によるよ……。その代わり森での一件は誰にも言わないで欲しい……」
「いいわよ。元から誰かに言いふらしたりするつもりはなかったわよ」
「そ、そうなの……?」

 さっきと言っている事が違う……とアルは胸中でツッコむ。

「うん。私はあの日からずっと貴方を捜していただけ」
「ぼ、僕を……?」
「そう。アルベルト=ランケス、貴方を」

 出会った時のように。
 セルヴィアが真っ直ぐアルを見つめる。

「……どうして、僕なんかを?」

 問いかけるアルだったが、答えは返ってこなかった。
 セルヴィアはくるりと身を翻すと、背中を向けて歩き始める。

「アル。今夜十一時に、学院の実技訓練場にいらっしゃい。その時に話しましょう」
「え!? 深夜に学院に忍び込むのはまずいって!!」

「こんな誰かが来るかもしれない場所や森で貴方の秘密について話せないでしょう?」
「そ、それはそうだけど……」

「さっきの一件は秘密にしておいてあげるから、その代わりに今晩、来なさいよね」
「え……うーん……」

 森の放火未遂と学院侵入容疑、どっちが重い罪なんだろう……とアルは考えてみたがどうやら放火の方が罪が重そうだと判断して、アルは覚悟を決めた。



 ・ ・ ・ ・ ・



 時刻は十一時前。
 辺りは闇に包まれて人っ子一人いない。
 時折吹く風が、厚着をしている体の体温を徐々に奪っていく。

「誰もいませんように……」

 アルはボソリと神に祈りながら校門を乗り越えて敷地内へと侵入した。
 幸い見回りの先生や警報装置などは発動しなかったのでそのまま校舎へは向かわずにまっすぐ実技訓練場の方へと歩いていく。

「こんな時間にこんな場所に呼びつけるだなんて……あの子は一体なんなんだろう……」

 僕を捜していた。
 何のためにだろう?
 とにかく僕が学院に残るためにはここに来るしかなかった。
 
「訓練場……開いてるのかな……」

 訓練場の取っ手に手を掛けて押してみる。

 ギィ……

 鍵はかかっておらず、訓練場の扉が音を建てて開く。

「し、失礼しまーす……」

 真っ暗な建物内に恐る恐る足を踏み入れて周囲を見回す。
 この長い廊下を進むと、修練場だ。
 実際に見た事はないが、コロシアムの廊下もこんな感じで続いているんだろう。

 そして廊下から門を一つくぐると……そこは訓練場だ。

「来たわね」

 訓練場の中央。
 そこに立っていたのは夕方言葉を交わした少女。

 セルヴィア=ワーグハーツだった。











あとがき
月明かりに照らされた金髪の少女。
そして少女に対峙する銀髪の少年。
貴族と平民。
身分は違えど互いに先天性の障害を持つ二人。
二人が今―――運命の出会いを果たす。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

【完結】私は聖女の代用品だったらしい

雨雲レーダー
恋愛
異世界に聖女として召喚された紗月。 元の世界に帰る方法を探してくれるというリュミナス王国の王であるアレクの言葉を信じて、聖女として頑張ろうと決意するが、ある日大学の後輩でもあった天音が真の聖女として召喚されてから全てが変わりはじめ、ついには身に覚えのない罪で荒野に置き去りにされてしまう。 絶望の中で手を差し伸べたのは、隣国グランツ帝国の冷酷な皇帝マティアスだった。 「俺のものになれ」 突然の言葉に唖然とするものの、行く場所も帰る場所もない紗月はしぶしぶ着いて行くことに。 だけど帝国での生活は意外と楽しくて、マティアスもそんなにイヤなやつじゃないのかも? 捨てられた聖女と孤高の皇帝が絆を深めていく一方で、リュミナス王国では次々と異変がおこっていた。 ・完結まで予約投稿済みです。 ・1日3回更新(7時・12時・18時)

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...