全てを失った僕は生きていけるのだろうか?

ナギサ コウガ

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04.レヴァニティ

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 治療をしてもらっている際にアイナさんやロッタから色々話を聞く事ができた。
 でも僕は”迷い人”ではないと思う。
 そんなに貴重な存在ではないだろう。未だに記憶が戻らず空っぽな僕は何者なんだろうか。
 これから先どうしたらよいのかも分からないんだよ。そんな男が貴重な筈がない。
 常識やらなにやら全く思い出せないんだ。
 だけども・・・感覚的なのだけど目の前の出来事全てが違和感を感じる事ばかり。でも違和感の理由が全く思い当たらない。思い出せない。
 いずれにしてもこの世界を知る必要はあるんだ。何も知らずに生きていく事はできないのだから。
 それにだ、話を聞くことがきっかけとなって記憶が戻るかもしれないという思いもある。
 多分なのだけど・・・普段の僕よりは積極的に話しかけてみたと思う。多分だけどね。何も知らないのだから積極的になるしかないじゃないか。
 アイナさんとロッタはとても話しやすい。これは本当に助かった。会話が楽しいという気持ちになるんだ。
 奇妙な事に懐かしい気持ちが湧いてくる。彼女達は僕を知らなかった。なぜそんな気持ちになるんだろうか?
 もしかして類似した体験があるのかもしれない。でも思い出せない・・・もどかしい。体も相変わらず痛い。

 正直な所、彼女達以外の人とは話す気にはあまりならない。
 本当は話さないといけないのだろうけど。

 僕が話したくない理由は簡単だ。
 この邑の人達は基本的に暴力的だ。なんでもゴリゴリ力押しだ。力が全てなんだろうな。
 何かの拍子にこの邑の邑長に一度だけ会ってしまった。
 いかつい筋肉おやじという印象しか残っていない。
 軽く捻るだけで僕はねじ切れてしまうんじゃないかという筋肉量だ。あんな筋肉でよく動けるよな。アンバランスすぎる。
 だからなのか手加減というものがわからないようだ。おかげで僕の治りかけの怪我が酷くなった気がする。暫く出血が止まらなかったし。
 何を食べたらそんな筋肉がつくのか分からない。あれこそ化け物だろ。魔物だろう。人外だよ。
 脳ミソも筋肉だったらしく話が全くかみ合わなかった。
 邑の男達は筋肉が全てらしい。力の解決は暴力でしかない。
 僕のほっそりとした体格を見てがっかりしたようだ。面倒くさい雰囲気を隠さず話らしい話は全くなかった。
 後でアイナさんに聞いたらこの世界の男達はみんな筋肉で語るそうだ。考えるより力で語るのが常らしい。意味分からない。
 筋肉で話せる訳ないだろ。
 あり得ない。
 多分・・・僕の常識には無い考えだと思う。何しろ体格が違うのだ。子供を除けば男でほっそりしているのは僕だけかもしれない。
 そうなると”迷い人”と言われても間違いは無いのかもしれないな。でも、もっと遠い邑には僕のような人もいるかもしれないけど。

 まぁ、そんな事だから男連中とは話にならなかった。
 そこに輪をかけるようにエスコは論外だ。元々話にもならない。僕を人間として認めていないのかもしれないな。あの目は・・・。殺す気なんかじゃないかな?
 女性で他に会ったのはライラさんだけだ。
 彼女はどことなく冷たい。
 アイナさんとロッタには普通に話している。姉妹だからね。
 でも僕と話すときは距離感がかなりある。ライラさんとの会話はなんか気まずさが先行する。
 きっとライラさんは筋肉がある男が好みなのだろう。僕のようなヒョロヒョロは好みではないのだ。
 と、いうかあの筋肉が当たり前ならそうなるのが当たり前かもね。
 アイナさんは誰にでも僕と同じような対応をしているのかもしれない。そこは知らないから分からないけど。
 ロッタは幼いから奇妙な僕に興味があるんだろうな。僕は力でもロッタには負けているんだよね。どんんだけ凄いんだか。

 たまに薬とか必要品を持ってきてくれる邑人が来る。
 それは男達だ。殆どの人が僕に冷たい目を向ける。ま、細いからね。
 中には攻撃的な目線と口調で何か口汚くいう男もいたなぁ。僕のような男はこの世界では底辺なんだろうと思う。必要無い、もしくは役立たずって所かな。
 ・・・それは当たっていると思う。
 間違いでは無いしな。否定しようにも僕には彼らのような力は無い。競えるような何かがあるかも分からない。あ~思い出したい。

 ま、本当に、心底、歓迎されていないんだ。
 良く分かるよ。ほんと分かりやすい。
 まぁ、この邑の男達と戦っても勝てない。あの筋肉の力を使われたら僕の半端な技術では対処できないだろうな。
 ん?なんでそんな事を考えるのだろう。
 もしかして・・・。いや、思い出せない。僕には過去何かの体験があったのだろうか?
 分からない。

 アイナさん達から色々話を聞いた結果、ある程度は分かってきた。
 この邑の周辺地域はレヴァニティ地方と呼ばれているそうだ。あんまりそう言う人はいないそうだけど。僕はなんとも分からない。
 この地方は広い草原と点在する森、岩場、長い川がある地方らしい。
 穏やかな気候で寒い時期は殆ど無いらしい。同時に暑い時期もあまり無いらしい。だいたい乾燥している気候なんだと。

 僕が今いる邑はイキシ邑と呼ばれているそうだ。邑の名前の意味はわからないな。アイナさんも知らないそうだしね。
 この邑からずっと西にいくと広大な湖がある。そのためには何十日も歩く必要があるらしい。馬は移動手段として存在している。使えば徒歩の半分以下の日数になるみたい。でも馬は貴重。だから移動には徒歩がメインとなる。
 東は大きな河に遮られている。かなり広い河なんだと。この河を超えた人はいないそうだ。なんでも向こう岸が見えないとか。こちらも何十日も歩くそうだ。
 ちなみに西の湖も向こう岸は見えないらしい。なんて広いんだ。
 北には高い山脈がある。こちらも同様に山を超えた人はいないそうだ。単純に高く険しいんだって。標高が高い場所は雪が解ける事がないらしい。山の麓に着くまでもかなり遠いんだって。
 南側は果てしなく草原が続いているそうだ。こっちは誰も果てまで歩いた人はいないらしい。
 いずれにしても広大な地域みたいだ。この邑の人は話に出た湖も山も河も見たことがないそうだ。
 邑周辺から遠くに行く人がそもそもいないんだって。
 生活は邑とその周辺で足りているから遠くに行く必要はないとの事。旅をするにも周辺には獣の群れがあるから十分な準備をしないと無謀らしい。
 邑に所属していれば普通に自給できている事になるんだろう。

 イキシ邑は二十程の家が集まって成り立っている邑なんだそうだ。
 人口は千人程。邑を守る戦力は三百人程度らしい。邑の外での生活は厳しいけど邑の中は平和らしい。
 邑の長は代々世襲でこの邑を守っている。あの筋肉は代々引き継がれているのか。力が全てならそうなるかぁ。
 邑を守るとは獣や外敵から邑を守る役目なんだと。やっぱり力押しだな。男達はいかつい連中ばかりだ。筋肉ゴリラだぜ。僕じゃ役にたたないな。
 邑の周囲には防護柵がある。獣や野盗を防ぐ目的に作っているそうだ。
 特に最近は野盗が多く出ているらしく邑から外に出るのは推奨ではないらしい。集団で移動するか余程の実力者(筋肉で勝てる人)で無い限り厳しいそうだ。
 邑の周辺の外はギリギリ安全らしい。いつでも邑の中に逃げられるからというのが理由らしい。
 暴力が支配する世界なのかな。
 ・・・・・怖すぎる。
 ほんと・・・あり得ない。

 ”家”という認識がこの世界にはあるそうだ。建物の家では無いんだ。ややこしい。
 親族の集まり、ある共通の目的で集まった集団の単位だそうな。
 これについては何か記憶にひっかかるものがあった。
 本家が当主となるのかと聞いたら当たりでした。
 う~ん。記憶・・・失っている訳ではないのかも。でもなんとなく思っただけで記憶は全く戻ってこない。
 ソリヤ家ではアイナさん達が本家の人。エスコは分家の人だそうな。分家の人がが家長代行なんて変だと思うけど。男が優位なのか?その辺りの事情は聞くことができなかった。なんか事情がありそうだし。
 どうもアイナさんはエスコに良い印象を持っていなさそうなんだよな。そこまでは部外者の僕に話すことはないだろう。
 
 それぞれの家は固有の役割を受け持っているとの事。
 役割とは?
 農作を担う家。建築を受け持つ家。衣服、道具を作る家。などという役割があるそうな。専門職の集団という考えかも。代々世襲して引き継がれるものらしい。
 分家が独立して別の家を興す事もあるそうだけど稀なんだそうな。だから基本家の数は増えない。
 減る事はそれなりにあるらしい。アイナさんの嫁ぎ先の家は潰れたそうだ。それで戻ってきたんだって。不祥事かなんかあったんだろうか?
 出戻りについては随分とさっぱりした表情で言っていたな。
 不本意な嫁ぎ先だったかもしれないな。これも深く突っ込んで聞くと地雷を踏みそうだし。何か話したそうだったけどさりげなく回避しておいたんだよね。色々ドロドロしてそうだし。

 僕を助けてくれたソリヤ家は代々狩猟の役割を持つ家だそうだ。だから僕を助けられたらしい。
 狩った獲物の肉、毛皮等を各家に卸しているそうだ。勿論無料ではなく物々交換をするのが役割なんだと。
 例えば農作物と交換。服と交換。不平等が無いような交換をしているそうだ。貨幣という認識は周辺の邑にもないらしい。
 ん?なんで僕は貨幣という単語を知っているんだろ?なんでだ?
 他の邑との交流や交易はあるそうな。ここイキシ邑は二つの邑と交流関係があるらしい。
 その他の邑とは交流が無いようだ。無いという事は友好関係ではないのかもしれないな。
 不定期にやってくる野盗は厄介らしい。それなりに邑に被害は出るとのこと。主に食料が盗まれるようだ。稀に女性も攫われるとか。どういう事?
 盗賊の出現地点は一定しているそうだ。で何らかの拠点はあるらしいのだけど邑の対応は野盗を撃退するだけで精一杯らしい。
 拠点を調べようとした事はないそうだ。ずっと南から来る事が分かっている程度。成程、南は鬼門という事だな。
 
 交流がある邑の一つに話題にでていた”巫女”がいる大きな邑がある。
 ネルヤ邑といい、この周辺の邑の中心となっている邑だそうだ。そりゃ巫女様がいらっしゃるんだ。そうなるよね。
 大規模な野盗、獣の大集団等が来た場合はネルヤ邑が中心となって防衛隊を組むそうだ。
 巫女の家である祭家が指揮するらしい。なんか私設軍隊のようなものを持っているんだって。
 なんかすげー”家”だな。家格が最上位というのも納得だ。
 
 ”家”の行動方針は家長が決めるんだって。代々本家の当主がなるらしい。
 家の中では家長の意見は絶対だそうだ。婚姻すらも家長に決定権があるとの事。なんか凄い。
 各家の家長が話し合いをして決めるんだって。婚姻する当事者同士の意思はあまり関係ないそうだ。
 自由恋愛ではないのか。なんて事だ。だって好き同士で結婚できないってことじゃん。
 それを踏まえて恐る恐るアイナさんに聞いてみた。アイナさんの結婚についてだ。
 アイナさんは嫌な顔もせずあっさりと答えてくれた。
 アイナさんは相手の家からの要求に断る事ができずに婚姻したそうだ。なんだそれ。酷い婚姻じゃないか。
 その婚姻は断る事ができなかったらしい。これは家の格が関係するらしい。実際には家同士の合意が必要だから家長代行のエスコが断ればそれで済んだそうな。
 でもエスコは断らなかったそうだ。
 表向きの理由はアイナさんの嫁ぎ先の家格がソリヤ家より高い家だったそうだから。それだけかい?
 向こうの相手がアイナさんを見染めて是非にと言う事で断りきれなかったっぽい。その家は邑長に近い格の家だったそうだ。
 でもアイナさんはその家の人とは会った事もないんだって。やっぱり表向きの理由だ。裏には何かあったんだろうな。
 いつの間にか決まっていたそうだ。本家の面々が知らないうちに話が纏まってしまっていたそうだ。本家の人達は憤慨していたそうな。
 エスコのヤツなら強引に進めそうだよな。アイナさん気の毒だな。なんと声をかけていいのやら・・・。
 と、僕が憤慨しても過去の事だし部外者の僕にはなんら意見をする事はできない。
 とにかく家が優先。その家長が決める事は絶対。家の一員の感情は基本関係無いという酷さ。
 あり得ない。
 
 ソリヤ家の家長代行はエスコだ。代行というからには家長はいるはずなんだよな。代行がつくからには何か理由があるんだのなと思う。
 聞いてみたら家長は不在との事。
 この話題についてはアイナさんは辛そうな表情で話してくれた。
 ソリヤ家の家長はアイナさん達姉妹の父親だそうだ。まぁ、そう思ってはいたけどね。
 狩猟に出た折に事故があり、行方不明となったそうだ。同行していたエスコがそう言っていたらしい。たまたまライラさんは同行していない時の事故だったそうだ。
 家長が死亡ではなく行方不明の場合は二年は戻ってくるのを待つらしい。もう少ししたらその二年になるそうだ。
 そうなると家長代行のエスコが家長になる可能性が高いそうだ。何かそれは嫌だな。
 ソリヤ家という家を守るつもりはあるのか?あるとは思いたいけどアイナさんの婚姻の事を考えるとなんとも嫌な感じしかしない。
 僕は所詮部外者ですから。
 
 格。
 家格を決める格。
 これは異能の質で決まるそうだ。沢山の異能を持っている、または抜きんでた異能を持っているかで決まるそうだ。
 でもさ・・・異能を秘匿したり嘘の申告をするんじゃないの?なんか家格の高い家はやっていそうな気がするな。
 ソリヤ家の面々はわざわざ”巫女”に視てもらって異能持ちであると証明してもらったそうだ。異能証明のお値段は異能判定をしてもらうよりはお安いそうです。
 それでも費用はかかる。でも”巫女”に異能証明をしてもらっえば誰も疑う事は無いんだって。正統派だね。
 ソリヤ家で異能持ちは本家の五人。分家に四人いるそうだ。ソリヤ家は五十人程所属しているらしいから一割か。
 他の家で同じ事をしている家はあまりないそうだ。家格の低い家は対価が払えないから仕方ないとしても家格の高い所でやらないのはおかしい。怪しいな。やっぱり詐称しているんじゃないか?
 家格の高い家を疑うわけにはいかないから誰も問い詰められないらしい。なんかよくある腐敗臭がするな。
 
 異能。
 聞いている感じだと超能力のような特殊能力なのかな。それだけで説明できないような気もするけど。
 常人には無い特殊能力だというのは理解できた。
 各家では異能の詳細は公開しない。秘伝かな?各家に代々伝わる先天性な異能もあるらしい。
 先ほど話題に出た”巫女”の能力が正にそれらしい。聞くととんでもない異能だよ。
 ソリヤ家の”追跡”もそうなんだろうけど。
 でも同じ異能を持っているからといって同等の能力が発揮できるわけではないのはソリヤ家の三姉妹の話でも分かる。
 これからの僕の生き方を考えると一つでも欲しいとは思うけど。望み薄だな。異能を全く意識できていないから。
 
 ”巫女”が持つ異能。
 それは人の異能を見つける能力のようだ。潜在している異能を見抜くそうだ。見抜いた異能の発現を促すのが役目との事。
 ”巫女”の能力は代々巫女本家の女性に遺伝するそうだ。”巫女”を輩出する家は祭家と呼ばれ事実上最上位の家格らしい。
 潜在的に異能を見抜くとはなかなかえげつない。聞くところによると普通の人では異能を感じることすらできないそうな。それを見出すのは凄い事なんだろうな。
 僕の中にもその異能がある可能性がある・・・・らしい。でも分からん。今は無い記憶にあるのだろうか?
 それにしても異能かぁ。
 異能は多種あるそうな。
 生産系、戦闘系、学術系等色々あるみたいだ。もうよく分からん。
 ソリヤ家は直系、つまり本家の家族には”追跡”という異能が遺伝するようだ。これは大別すると戦闘系の異能らしい。狩猟のためにある異能らしい。
 家格としては産家と呼ばれている。一般の家より家格が上らしい。だけど祭家と比べると格段の違いがあるようだ。聞いた感じだと天地の差があるみたい。
 武家と呼ばれる家もあるようだ。これは文字通り邑を守る武闘集団の模様。武家は一般の家より家格が低いらしい。邑を守っているのに武家の格が低いのか。
 よくわからない。
 
 ソリヤ家の異能は身体強化も常時されているそうなんだ。そのおかげで一般の成人男性より身体能力が格段に高いらしい。
 あんなに女性らしい体型をしているアイナさんでもごつい筋肉ダルマより強いんだって。驚きだ。
 それでも姉妹の中では一番身体能力は低いとか。なんとロッタが一番強いらしい。それだけでも異能というのがどれだけ特殊かと分かってしまう。
 でも身体能力の高さはライラさんなんだそうだ。
 理由は単純だった。
 ”追跡”という異能以外にも”狩猟神の加護”という異能も持っているそうだ。
 詳細は本人しか知らない。なんとなく名称で想像はつくけどね。
 狩猟を家業としている家では活躍しそうな異能だなぁ。
 ライラさんのように複数の異能を持つ人はかなり珍しいらしい。この邑で複数の異能を持っているのはライラさんしかいないんだって。
 異能一つですらこの邑では珍しいそうだ。
 異能持ちは全体の一割にも満たないらしい。まさしく異能だ。
 だから異能を持っていない人が”巫女”に視てもらっても異能が存在している可能性は低いらしい。
 この異能を子孫に残すためにソリヤ家の本家は分家から異能を持つ異性を迎えるそうだ。うわ~。
 アイナさんもうんざりした顔をしていたな。
 分家の四人は男女ともに二名なんだそうだ。二人の男は結構な年齢なんだって。なんと五十を超えているそうだ。うわ~。
 異能持ちが限定されている以上拒否はできないそうだ。アイナさんですら二十一歳。ロッタはまだ十四歳だ。年の差があり過ぎる。
 家長である父親が戻ってこなかった場合のアイナさんの予測だけど。妹二人がその五十を超えているおじさんを婿に迎える事になるのだろうと言っていたっけ。
 マジか・・・・。うん・・・考えるのはよそう。考えたくない。
 でもなんでアイナさんは他家に嫁いでいったんだろう。ソリヤ家の異能を考えると門外不出扱いだと思う。エスコの判断が分からない。”家”の事は考えていないのかな。

 『ケイくんに似たような異能があったらね』とアイナさんは言う。
 僕に何らかの異能があると言うんだ。なんでそう思うんだろう?嬉しい事ではあるけど生憎ちっともそんな感覚が無い。何の根拠でそう思うのか分からないよ。
 アイナさんが異能を意識したのは幼い頃からだそうだ。いつの間にか持っていたそうな。遺伝する異能は意識する必要がないのかもしれない。

 異能には色々な種類があると聞いた。アイナさんは博識だ。賞賛したら僕が知らないだけだと言われてしまったけどね。そりゃそうだ。
 異能によっては常に発動するものもある。念じると発動するものもある。特定キーワードを唱える事で発動するものもある。色々なんだって。
 そんなのどうやって自覚すればいいんだってことだよね。分かるわけがない。
 だから”巫女”に視てもらうのが結局早いという事になるらしい。そりゃそうだ。僕にも異能があるなら視てもらいたいよ。
 でも高額なんだよな~。”巫女”に視てもらうのは高い。一般の家だと半年分の収入が必要なんだと。とんでもないな~。高すぎるよ。
 それでも異能を所有している確率はかなり低い。”巫女”に視てもらっても異能が無いという事が殆どなんだって。それでも”巫女”を頼る人は多いらしい。
 聞いた話を踏まえると当然だよな。異能内容によるけど圧倒的に有利になるだろうな。
 偶発的に異能が発現する事もあるらしい。でも無いに等しい確率なんだって。仮に僕に異能があるのなら偶発的に発現するのを願うしかないか。
 それは海岸で一粒の砂を探すようなものだよな。

 怪我の回復を待ちながらもこれだけ話を聞いていたんだけど僕の記憶はさっぱり戻ってこない。
 所々でいくつか単語が戻ってきたけど。それっきり。
 まぁ、そう簡単に戻るわけもないか。
 この際記憶が戻る事を期待しても仕方ないのかもしれないな。
 全く新しいケイとして生きていくのもありかも。悩んでも何も解決はしないのだから。
 と、思ったりもしたのだけど怪我が癒えたらソリヤ家を追い出される僕にはそんな余裕はない。
 記憶をもどすより生きていくための知恵を身につけていかないと。
 期待よりも不安が圧倒的に多い。
 
 
 
 全てを失った僕は生きていけるのだろうか?

 それを考えると絶望感しかない。
 
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