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■.胡蝶の夢
しおりを挟むあの日も普通の朝だった。
違ったのは妹の我儘につきあったくらいかな。
高校生の妹がめずらしく寝坊したんだ。何かあったのかと母さんも心配していた。それくらい妹の寝坊は珍しい。
どうしたのかと心配する母さんに妹は勉強し過ぎたと躱していたと思う。
それよりも遅刻すると僕に車で送ってくれと言い出す。
困ったもんだ。
でもそんな妹のおねだりを僕は断れない。車の免許は取ったばかりだけど母さんにも褒められる程僕は運転が上手いらしい。
母さんも許してくれたから車を出して送る事にした。
妹は急かすように助手席に乗り込んでくる。手にはサンドイッチを持っている。・・・朝食は車の中か。確かに効率はいいな。
制服はきちんと着ていない。胸元のボタンもう少し締めとけよと言おうと思ったけど逆に煽ってくるから言わない。
せめて車中で整えてくれよ。学校の男共には見せてないよな?そんな姿。そんなナリは本人が嫌っているから多分大丈夫だと信じたい。
妹は学校ではちょっとした有名人だ。勉強もできスポーツもできる優等生。一年生だけど生徒会にも出入りしているらしい。母さんから聞いた話だと生徒会長が強引に誘ったらしいんだ。何らかの下心がある事を心配していたな。
尤もそんな心配は杞憂だと思うんだけどな。スポーツは出来るといったけど、それでも妹は手を抜いている。本気になったら僕でも敵わない。爺さんの道場で師範代のような事をしているくらいだ。
だから生徒会長が下心丸出して妹を襲ったとしても忽ち撃退されるだろう。それは僕がこの身で体験している。マジで強いんだよ。
見た目は華奢で壊れそうなのにな。細身なんだけどなんでか一部のパーツがでかい。母さんもでかいから遺伝なんだろうけど、だから道ですれ違う野郎共の目を引くらしい。
だから相当数告白もされたようだ。僕は結果を知らないけど遊びに出かけるときは家族か女友達しかいないから全て断ったんだろう。
そんな見た目完璧な妹にも欠点はある。
あるけど、それは家族しか知らない。
今は隣でサンドイッチのパンくずを口元につけながらスマートフォンをいじっている。髪の寝癖がちょっと残っているな。パンくずと一緒に注意してやらないとな。
「な~に?さっきからチラチラ見ているけど。言っておくけど前の日に何かあったから寝れなかったわけじゃないからね」
僕の視線に気づいた妹が言ってくる。ん?ああ・・・寝坊の言い訳か。違う件だった。そっちの件はなんとなくだけど心当たりがある。でも・・・違うと思うんだよな。
「そっちかよ。僕は違う事を気にしていたよ。そろそろ学校に着くけど寝癖と口元のパンくずが気になったんだよ」
「ちょ・・ちょっと。それ早く言ってよ。やだ、友達に見られてないよね」
助手席の妹は自分の勘違いに恥ずかしくなったのか、僕の指摘に恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にして身支度を整える。
「大丈夫じゃないかな。まだ大通だし、ココ通学路でもないからね。見ているのは車載カメラくらいじゃないか?」
「も~!パンくずは致命的よ。本当に早く言ってよ!」
「僕・・・一応運転しているんだけど。そんなに■■■を見ていられないよ」
「そりゃそうだけど。・・・・あ・・ん?車の運転してなければお兄ちゃんは■■■を見ていたいの?」
横目でチラリと見ると勝ち誇ったような目で僕を見る妹が見えた。おおう?どう勘違いしたらそうなる?ま、あながち間違ってはいないか。
「そうだね。■■■は綺麗だから。そりゃ見ていいならずっと見ていたいよ」
「な・・・■■■はそんなに綺麗じゃないよ。そりゃママみたいに綺麗になれたら良いとはおもうけどさ。手だって竹刀とかで荒れているし」
「そこは違うだろ?■■■は十分綺麗だよ。友達と遊びに行くとスカウトに会う事が多いんだろ。学校でも告白してくる男も多いと思うけどな」
「そ、そこは否定しないけど。でもガラじゃないから全部断っているし。目立ちたくないから部活だってやってないし。ほんとは生徒会の仕事もやりたくないし」
「三年の生徒会長だっけ?強引に誘ったんだろ?どういう人か知らんけど二人っきりにならないように注意しろよ。■■■は十分に男を惹きつける女性だからな」
「え?・・・うん。大丈夫。生徒会長は顔と授業の成績が良い事を鼻にかけているキザな人だから全然タイプじゃないし。そもそも男の人と二人っきりになるなんてあり得ないし」
「あ・・・ごめんな。変な事を思い出させちゃったな。まぁ、なんだ。嫌な事なら続ける必要はないと思うよ。クラスメイトや友達関係で断りづらいというのもあるかもしれないけどさ」
「・・・だね。良い子ちゃんもそろそろ疲れたし。会長の距離感を近づけようとする行動もそろそろ限界だし。頃合いかもね」
やっぱりな。生徒会長がどんな人物か僕は知らないけど少なくても相手の気持ちを考える人物ではなさそうだ。■■■は相当我慢して生徒会の活動に参加してそうだ。
そんな事を考えながら学校の近くのコインパーキングに車を入れる。この近くは通学路だけど近くに車をとめるにはここしかない。
車を降りて手続きをしている僕の隣で■■■は身だしなみを整えている。送るだけなら停車して妹を降ろせばいいのだけど今回は校門まで一緒に行くミッションが付帯している。
手続きが終わって歩き始めると妹は僕の左手に腕を絡めてくる。指はしっかりと握りこんでいる。これ・・・誤解されるぞ。しかも朝っぱらから。妹の表情はニコニコだ。
ま、仕方ないか。昨日のリアクションからなんとなく理由は分かるけど。
「やりすぎじゃないか?虫よけに使うのは良いけど。絶対誤解されるぞ」
「これくらいがいいの。生徒会長はきっと校門で待ち伏せしている。だからお兄ちゃん協力してよ」
やっぱりだ。相当しつこいんだな。でも大丈夫かな?
「・・・分かったよ。これで生徒会長は■■■に近づかないならいいよ」
「ありがと~!お兄ちゃん、大好き!」
妹は体ごと僕にしがみついてくる。これは・・・まずい。大好きは・・・家族の意味だよな。少し動揺しつつも道を歩く。
車で来たから時間はまだ余裕があるけど始業時間近くだから流石に学生の姿は少ない。彼らは妹を知っているようで僕達をチラチラ見ている。
分かってはいたけどなんか気まずい。本当にいいんだろうか?僕はいいけど妹に変な噂が出ないといいけど。
そんな事を考えながら視線を校門に向ける。僕の腕を握る妹の手から緊張感が伝わる。
成程・・・あれが噂の生徒会長ね。
成程・・・僕は仲良くなれないタイプかもしれない。容姿や勉強の成績もそうかもしれないけど金持ちのボンボンだな。これくらいしないと効かないかもしれない・・・か。
■■■の姿に気づき嫌らしい笑みがこぼれているのが見える。が、隣に僕がいる事が分かり明らかに敵意の籠った目になる。おいおい■■■の前でそんな目をしちゃいけないだろうが。
僕は■■■の耳に顔を近づけて囁く。こんな事をしなくても話はできるが目の前の男にダメージを与えるのが目的だ。
「■■■、あいつに僕が恋人だと分からせればいいんだね」
「うん。突然ごめんね。相談すると断れると思ったから」
やっぱりか。寝坊は妹の作戦だったんだ。となると目の前の男は相当しつこい性格のようだ。その男は最早容易に見せる事ができない表情になっている。既にアウトだろ?
僕達は無言で近づく。生徒会長は顔をやっと整えた。もう遅いけどね。
「おはよう■■■くん。珍しく今日は遅かったね。それで隣の人は誰かな?」
「・・・おはようございます。昨日話しました私が付き合っている人です。ですから会長のお誘いにはお断りします」
生徒会長は見る見る間に顔が真っ赤になっていく。怒りをこらえているのかもしれない。昨日のやりとりに何があったのかは知らないけど。望みが叶わないと理解してくれるといいのだけど。
「つ、連れてきただけでは証明にならない。本当に恋人だという証明が必要だ」
顔は湯だったままだ。あほか?
「■■■から聞いているよ。こんな事されると困るんだよな。そもそも君に証明をする必要は無い。■■■は俺の女だ。これ以上つきまとうのはやめて欲しいんだけどな」
言いながら僕は開いている手で妹を抱き寄せる。妹は僕の胸に顔を埋めしっかりと抱きついてきた。おおう?大丈夫か僕。
目の前の男は何かショックを受けたような顔になったけどまだ僕を睨みつけている。・・・これだけじゃ足りないかも。
「ともかくこれからは生徒会の仕事はさせないから。手伝いなら他の有能な人に頼んでくれ。それと■■■が困っているから先に校舎に入ってくれないか?お互い遅刻はしたくないだろ?」
校舎から教員が出てきたのが分かる。遅刻の確認かな?
僕の視線に気づいた生徒会長は振り向き教員の存在に気づく。そして僕のほうを振り向き何かを言いたそうだったが悔しそうな表情のまま校舎に向かっていった。
僕は抱きしめた妹をそっと離す。でもなぜか妹がしっかりと抱きついたままだった。
「もう大丈夫だよ。彼はこっちを見ていないから。それより先生が近づている。そっちがまずい」
なおも妹は離れない。これは参った。
何か言おうとした時に目の前が真っ白になった。
意識が一瞬で跳んでしまった。
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