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28.姉様は無事なのかしら
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「一体どうなっていますの?外があれほど騒がしいのに何故何も情報が来ないのです?奥に籠っているように指示のままですわよ。一体何日いればよいのですか?」
「はい。情報制限が入っているのです。姫様の護衛である某(それがし)にも何も無いのです。警護のため状況報告を要求しているのですが拒否されました」
「どういう事ですの?どう考えても緊急時ですわよね?あれ程派手に争いの音が聞こえて無事な筈がありませんわ?お母様は何か対策は立てられてますよね?」
「ご当主様とは面会ができません。某には姫の護衛するようにと長老様方から指示があるのみです」
「なんという無礼な。本邸にいる姉様は無事なのですか?わたくしより姉様の心配をするようにもう一度お話をしてきて頂戴」
「それが難しい状況です。家中は箝口令がしかれているようで誰も某に説明をしてくれないのです。姫巫女様の状況も分かりません。戦支度をしていたのは承知していますが戦果はどうなのかも入ってきません」
全く腹立たしい事ですわ。これほど情報が来ない事は今までありませんでしたわ。それにあのような大きな破壊音。絶対に何か大問題が起きているはずなのに。
最近お母様が良からぬ事を企んでいるのをわたくしは知っています。それとなく探りを入れているのですが話してくれません。
全てわたくしのためと言うのがお母様の唯一の回答です。
全く話す気は無いという事だけは良く分かりましたわ。
それにしても困りました。
わたくしの護衛であるトルスティも情報が来ていないようです。家臣間ですら情報伝達が禁じられる事は今までなかったはず。
・・・調べるしかないですわね。
でもわたくしにはその手段が殆どありません。今や側仕えの婆やすら最低限の世話しかしてくれません。何を聞いても「お許しください」しか言いません。
本当におかしいですわ。何か隠しています。
わたくしも愚か者ではありません。セランネ家に何か問題が起きているのは分かります。
何より蚊帳の外という状態が我慢なりません。
幸い今の所わたくしには危険は迫っていないようですわ。
難色を示すかもしれませんがトルスティに調べてもらいましょう。
わたくしの安全を確保するための情報が欲しいと言えば不承不承ですがやってくれますでしょう。
それに既にわたくしが何を企んでいるか分かったようですわ。ふむ、ならば大丈夫でしょう。
「トルスティ。あなたに調べて欲しい事があります」
察しの良いわたくしの護衛は諦めた表情で頷きます。
ええ、宜しくお願いしますわよ。
「我がセランネ家がどのような窮状にあるのか?もしくはこの邑・・・ネルヤ邑に何か起こっているのか?それを調べなさい」
「はい。承知しました。どの程度お時間を頂ければよいですか?本日中ですとそれ程情報は集められないかと」
「明日の早朝までではどうかしら?まずはそこで一旦区切りましょう。情報次第では対策が必要になるやもしれませんわよね?」
「確かに。それでは朝食の前にご報告に参ります」
「お願いね。ですが情報を取るために危険な行動は極力避けるように。あなたの本分はわたくしの護衛なのですから」
「重々承知しております。では失礼します」
まずはこれで良いかしら。
わたくし自身がしないといけない事は・・・・。
最悪の事態を想定した準備かしら。
「・・・・今何と言いました?」
翌日の朝。トルスティの報告をわたくしは聞く。
何と言えばいいのでしょう。わたくしの想像を遥かに超える事態が発生していたようです。
トルスティの表情は疲労しているようです。おそらく夜通し情報を集めていたのでしょう。
「はい。ネルヤ邑は風前の灯です。謎の二人組が邑の外壁を破壊。当面修復不能です。迎撃に出た武家の部隊三百名は壊滅。死亡は幸いありませんでしたが殆どが重傷です」
「それはどの方面からの情報ですの?」
「武家に某の馴染みがおります。その者より直接確認しました。第二隊で現場に駆けつけたそうです。第一隊三百名壊滅の確認をし負傷者を回収した者です」
「それでは間違いようが無いですわね。その他には何でしたか?」
「はい。邑長含めて上層部は混乱している模様です。夜を徹して会議をしているようです。会議内容までは流石に無理でした。ですがその会議には我が祭家は参加しておりません」
「お母様・・ご当主はどこにいるかわ分かりましたか?」
「そこについては一切不明です。本邸はかなり混乱しているようです。命令の出所がバラバラです。現在ご当主代理が指揮を取られていますが収拾できていない状態です」
「代行・・・お父様では無理でしょう。あの方は形だけの席次ですわ。この場合姉様が指揮を取るべきですわよ。何故姉様が出られないのですか?」
「確証をまだ得ておりません。その前提でありますが姫巫女様はおられないようです。どうやら一昨日本邸で姫巫女様に関して何か事件があった模様です」
「・・・話しなさい。確証はなくとも相応の確度の情報なのですよね?」
「はい。姫様もご存じの通り姫巫女様は巫女資格を失う怪我をされました。この度ご令妹様が控えの巫女になられるという発布がありました」
「ええ、当然知っております。まだ産まれて間もないわたくしの妹ですわよね。まだ巫女の能力が開眼しているわけでもないのに。お母様のお考えは強引すぎますわ。それが姉様と何か関係が?」
「姫様を姫巫女の座についていただくよう動いているようです。巫女資格を喪失された現姫巫女様は一昨日追放されたと。姫巫女様の護衛官や一人の側仕えを見つける事ができませんでした。こちらも一昨日邑を出たようです。つまり僅かな供と共に邑を出た可能性があります」
「そのような重大事!何故わたくしに届いていいのですか?お前も聞いていないのですよね?」
「はい。今思い起こせば定時連絡をしていた姫巫女様の護衛官との連絡が三日前から中止になっていました。理由は先方の業務過多でした。そのときに不審に思うべきでした」
「過ぎた事は仕方ありません。今も姉様の護衛官とは連絡がつかないのかしら?残った側仕えはどうしているの?」
「護衛官の控室にはおりませんでした。荷物棚も空になっており。屋敷から退出したかと。残った側仕えも同様に屋敷にはもうおりません」
「それで」
「邑の門警備の者に某の縁者がおります。その者と連絡を取りました。一昨日の早朝に姫巫女様の護衛官四名と二人の女性が外に出て行ったそうです。女性の一人はおそらく姫巫女様の側仕えでないかと申しておりました」
「成程ね。確証は無いけどかなり確度はありそうな話ね。そう・・・姉様は覚悟を決められたのね。でも何故その事がわたくしの元にこないのか不思議ですね」
「どうも我ら以外に箝口令が敷かれている気がします。姫様の側仕えに先ほど確認したのですが怯えて話になりませんでした。姫様に申し訳ないという一点張りでした」
「矢張りそうなのね。先程着替えをしている時に様子を聞いてみたのだけど。途端に緊張し始めたわ。お前の話で合点がいきましたわ。意図的にわたくし達は蚊帳の外におかれているのですね」
「はい。そうなります。ここからは某の想像で補完しております。あくまでも想像の域を出ない前提でお聞きいただけますか?」
途端にトルスティの表情が硬くなりました。
これは良くない事・・・わたくしの精神衛生にとって良くない話をする時のトルスティです。
何やら良くない予感がします。でも、これは聞かないといけない話です。
「良いですわ。お前が考え悩んだ末の事でしょう。話しなさい」
わたくしは覚悟を受け入れます。
トルスティは一呼吸おいてわたくしに推測を語ります。
「姫巫女様・・・・エリナ様は殺害されたか、もしくはそれに近い状態になっている可能性が高いと思われます」
「な・・・・殺・・・」
何を・・・トルスティは・・何を言っているのでしょう。姉様が殺された?なんで急にそのような事に。
今までの”家”での姉様の扱いはわたくしも不本意ながら知っております。別邸で暮らしているわたくしには姉様に会う機会がありません。
ですから人づてで何度もお伺いしていたのに。いつも返ってくる返答は「心配無用」の一言だけ。
仮に姉様が”家”を出たとしても急に殺害に及ぶ事に何故なってしまうのです?
いえ!まずはその推測の根拠を確かめるのが先ですわね。
「・・・理由を話しなさいな」
「はい。姫巫女様一行の出立後に裏者が別の門から密かに出たそうです。これは門警備の者から確認しているので確かです。当時の裏者の待機状況を確認しました。これ以上は姫様に詳しくは話せません。ですが追跡及び殺害を目的にした編成でした」
「・・・つまり姉様を亡き者にしようとしたと?」
「その可能性が高いです。そして、どのような些事でも裏者に指示ができるのはご当主のみです」
トルスティは苦しそうに推測の話を終えました。
ああ。
わたくしの母様が姉様を亡き者にしようとした。
そのような事をいくら推測とはいえトルスティが口にするのは・・・。
いいえ。
母様はそこまで姉様を・・・・。
母様の姉様の娘を・・・・。
・・・・姪を殺そうと企むなんて。
そこまで憎かったのでしょうか。
叔母様譲りの天眼を持つ姉様がそれ程憎かったのでしょうか?
信じられない。
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