全てを失った僕は生きていけるのだろうか?

ナギサ コウガ

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47.僕の異能は誰かのために

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 キュメネ邑からの帰路で見つけた女性を運びつ熟練度があがった”快癒”を使って治癒が成功した。
 女性は未だに気絶したままだけど悪い部分は治したから大丈夫だと思うけど。洞穴についてから気づけばいいな。
 
「姉さん!あ、お兄さんもいる!も~二人とも遅いよ~!」

 え?
 あれは・・・ロッタ?何故こんな所に?洞穴はまだちょっと遠いけど。なんでここに?
 そういえば本家の家族はイキシ邑から避難してきたとアイナさんが言っていたっけ。でもなんでこんな所に。
 ああ、そうか。ロッタもアイナさんと同じ異能を持っているんだった。僕らが近づいてきたのも探知できたんだ。ソリヤ家本家の皆は凄いんだなぁ。
 アイナさんが手を振ってロッタに応えている。ロッタは僕とアイナさん以外で人が二人いるのに気づいたようだけどアイナさんがいるから安心しているみたいだ。

「ロッタただいま~。ちょっと手間取ちゃったのよ~。でもケイくんは無事に連れて来たからそれで許してね~」
「うん!お兄さん無事で良かったね!あとわたしが知らない女の人が二人いるね?」
「そうよ~。後で説明するね。まずはケイくんが背負っている女性の手当が先ね。寝床はできている?」
「あるよ。ママ用の寝床は別に作っているから大丈夫」
「ありがと~。ケイくん。あと少し大丈夫?」
「問題無いですよ。見た目より体力はあるんですから」
「うふふ。ケイくんが体力無いなんて私は思ってないわよ~。助けた女性はまだ眠っているのね」

 様子を伺いつつ僕の隣にぴったりと体を寄せてくる。
 う・・アイナさん距離近いっす。そんなに近づかなくても様子は見れますよね?反対側でエリナさんの冷たい視線が厳しいっす。・・・ロッタ。何?そんなに面白そうな顔しないでね。
 色々な視線を耐えつつ洞穴に入っていく。ロッタが率先して案内してくれる。とはいっても一本道だから迷うはずもないのだけど。
 アイナさんがロッタに経緯を説明しつつ奥に入っていく。
 僕達がキュメネ邑に様子見をしてきた事。
 そして襲撃されたけど逃げて来た事。
 エリナさんは僕が助けた女性で一緒に洞穴で暮らしている事。
 背負っている女性はついさっき助けた事。
 雑談混じりで説明していたらロッタが作ったという寝床があった。そこは一番奥で既に誰かが寝ていた。
 聞けばアイナさん達のお母さんだという。体調が悪く寝ているばかりだから僕は邑で会っていないとの事。だから知らなかったのか。
 お母さんの近くで座っていた男性は分家の人だそうな。荷物の運搬の役割で同行してもらったそうだ。僕らが戻ってくるまで警護してくれていたんだと。今日は遅いので明日の早朝に大急ぎで邑に戻るらしい。簡単に挨拶しただけなんで覚えていられるかな?
 アイナさん達のお母さんが寝ている近くに準備された寝床に背負った女性を下ろす。怪我や疲労は治したから、いつ目覚めてもいいんだけど起きない。睡眠不足だった可能性はあるかもしれないか。
 ゆっくりと下ろして寝床に横にする。ふう、疲れた。でも気づかない程度に自分に”快癒”を使えば結構楽になる。”快癒”の使い方にも慣れて来た証拠だろうな。この異能は他の異能と比べて反動の代償が今の所少ない気がする。結構使えるよな。
 
「ひとまず寝かせておきましょうね~。随分と疲れていたようだし。私達も引っ越し?の最中だしね~」
「ああ、そうでした。この奥は枝分かれしているので自由に使ってください。僕達は途中の空間を生活の場に使ってますので気にしないで使ってください」
「それなんだけどね~。これからお世話になるじゃない?可能な限り一緒に行動したいのよ~。見ての通り母は寝ている時間が多いからいつも一緒とはならないのだけど。ケイくん達が使っていた所は食事やくつろぎの場にしたいのだけど。どうかしら?」

 アイナさんの提案にどうしようかエリナさんを見る。

「私は別に構いません。寝床を移すのは数日待って欲しいので、暫くは私達の寝床も兼ねる事にしてもらえたらと思います」
「ふうん。分かったわ~。でも寝所はゆくゆくは男女別にしたほうがいいと思うわ」
「恋人や夫婦であれば構いませんよね?」
「え?ええ、そ、そうね。でも今は違うわよね~」
「はい。でも明日はどうかは分かりませんわよ」
「それは二人が同意すればだけど。ねぇケイくん?リナさんとはそいう間柄なの?」

 おおう!?
 何か飲んでいたら吹き出しそうな話をエリナさんがしている。アイナさん困っているじゃないですか。あれ?何で困っているんだろ?ロッタは興味深そうな目で僕達を見ているし。
 あれ?
 ん?どういう事?
 あ~、どうしよう。みんなの視線が集まって来る。アイナさんのお母さんまで・・・。
 これはまずい。

「あ~、え~っと。それはどうしたもんか。まずは僕達もそうですけどアイナさん達も長い距離移動して疲れていますよね。諸々の話は明日にしませんか?ね?それでは失礼します」

 色々分からなくなってきた。もう中途半端だろうが今日は誤魔化すしかない。エリナさんを隔離しないと。
 僕は強引にエリナさんの手を取って僕達が寝泊りしている空間に移動する。アイナさんが話の途中と言っているけど今日は勘弁を。対策を整えたら明日ちゃんと話そう。
 エリナさんの手を握っているのだけど緩めても手は離れない。ふと見るとソリヤ家の視線が届かないと判断したのかフードを取って顔を見せてくれている。
 その表情は柔らかで、穏やかで。
 やっぱりエリナさんは美しいと思う。それだけに顔や体の酷い火傷をなんとかしてあげたいと思う。これからソリヤ家の人達と暮らすのだから憂いは無い方がいい。
 あれ?そういえばソリヤ家の人達はいつまでいるんだろう?邑が危ないから避難してきたと言っているけど。期間は全く聞いていなかったぞ。
 やっぱり明日色々確認しないとな。

「今アイナさんの事考えているでしょ?」

 ・・・ドキリ。
 エリナさんの握る手の力が強くなる。す、鋭い。
 なんでそんなに鋭いの?
 と、いう表情を僕はしていたのだろう。

「顔に書いているよ。ケイくん嘘つくの苦手だものね」
「え?そうなんだ。自分じゃ表情に出ていないと思っていたんだけど。そんなにわかりやすいんだ」
「微妙な違いだと思うわ。昨日の夜あたりからなんとなく分かってきたかな?他の人には分からない違いよ」
「そうなんだ。それはよかった」
「そうよ。でも私は結構分かるからね。何か言いたい事あるんでしょ?さっきのやりとりでなく助けた女性関連で」
「本当に分かるんだ?エリナさんには隠し事は無理なんだという事が分かったよ。でも言葉で伝えなくても伝わるなら楽かもね」
「だから理解してね。私は治療を望んで無いわ」
「うっ・・・」

 驚いた。なんでそんなに理解されているんだ。ある意味怖すぎる。以心伝心どころじゃない。僕の思考はだだ漏れなのか?
 それにしても何故治療を受け付けてくれないんだ?

「何故?と思っているでしょ?ケイ君が思っている程私は外見を戻したいと思って無いわ。こんな容姿の私に近づいてくる人はいい人か慈悲のある人、外見に騙されない人。その判断基準になるから」
「でもソリヤ家の人達には容姿隠しているでしょ?危地を救ってくれたアイナさんにすら頑なに顔を隠していたよね?それって嫌われたくないからでしょ?」
「・・・・ええ。私はソリヤ家の人達の考え方が分からないわ。でもソリヤ家の凄さは知っている。あの人達に嫌われたら最悪この洞穴の生活は諦めないといけないわ」
「ソリヤ家の人達は違うよ。でもエリナさんは不安があるのでしょ?万が一があるから」
「そうよ。それ程この顔が醜いのは私が理解しているわ。どんな優れた人でも醜い容姿を見た途端に避けるのよ。それは前の邑で存分に理解しているわ。だから怖いのよ」
「なら簡単だ。大人しく僕の”快癒”を受けてくれ。助けた女性をきっちり治したのは分かっているんでしょ?」
「分かっているわ。でもケイくんは使った後の反動を甘く見ているわ。多分自覚していないでしょ」
「他の異能と較べて反動は軽いかなと思っている。”快癒”を使っている間は自分の治癒能力が全く無くなっているのを自覚しているけど。でも治癒している時には無防備なんだから変わらないと思うし」

 エリナさんはため息をつきながら続ける。
 ん?

「”快癒”を他者に使うの反動はそれだけじゃないのよ。他者の傷病の重度によるけど治癒をした分だけケイ君がもともと所有している治癒の力を喪失するのよ。既に一割は無くしているわ。これから私に使ったらもっと失うのよ。失ったものは緩やかに回復するみたいだけど相当時間がかかるわ」

 驚いた。そんな反動があったんだ。さすがエリナさんの”啓示”の異能だ。天眼クラスだからなのだろう。でも、その程度であれば想定内だ。

「心配してくれてありがとう。でもその程度であれば問題無しだね。時間がかかってもゆっくりと戻るんだよね?」
「でもね、その間はケイ君自身の治癒能力は通常より落ちるのよ。キュメネ邑で襲撃された時の重傷も瞬く間に治癒できたけど。今の状態だと倍以上の時間がかかると思う。それって結構なデメリットよ。更に私に治癒を使ったらもっと治癒速度はおそくなるの分かっているの?」

 やっぱり僕の事を心配してくれているんだ。でも、その程度は僕のデメリットじゃない。

「委細承知だよ。エリナさん聞いて」

 僕はゆっくりとエリナさんの瞳を見る。出会ってから活力にあふれていた緋色の瞳には涙が溢れている。泣くもんかと堪えているの丸わかりだよ。
 穏やかに微笑んだつもりだけどエリナさんに伝わるだろうか。
 エリナさんは口を真一文字に結んで僕を見つめ返す。
 うん、僕はこの女性が背負っている色々な負担を取り除いてやりたい。それが僕に出来る事ならば躊躇う必要は全くない。

「まずは僕の事心配してくれてありがとう。でも僕は既に死んでいるとも考えているんだ。今生きているのは様々な人に助けられたからだよ。エリナさんもその一人。最初はソリヤ家の面々にも助けられた。だから少しでも生きている恩を返したいんだ。僕には記憶が無いって事は話したよね?過去が無い僕には誰かの役に立つ事でしか生きている実感がないんだ。今はエリナさんの為に行動したい。治療できる能力も得た。それを使いたいと思うのはあたり前だよね?」
「う・・・うん。ケイ君はそう言うと思った。それ言われたら断れないの知っているのに言うのはズルい」
「はは、ごめんね。でも僕に生きている実感を与えて欲しいんだ。誰かのために力になりたい。今までも、これからも。その中でもエリナさんが最優先だ。だから心の傷が増える前に外面の傷を治させて欲しいんだ」

 暗がりだけどエリナさんの頬が染まっているのが分かる。言ってしまったけど誤解与える言い方だったかな?
 誤解?誤解ってどういう意味だ?う~ん。今更だ、エリナさんに納得してもらう為ならなんでも言うぞ。
 さあどうする?とばかりに僕はエリナさんの返事を待つ。
 少し恥ずかしそうに俯いていたけとゆっくりと顔を上げて僕を見てくれる。

「ほんとズルい。それでも私の為に治癒能力を無くしてしまうんだよ。いざという時に”快癒”が使えない時は生死に関わるのよ」
「全く喪失するって事じゃないよ。そもそも”快癒”が上手く使えな期間にはそうならないように注意すればいいんだよ。今はエリナさんの傷を治すのが優先。これは僕の中での決定事項。エリナさんが拒んでも僕は治療するから。眠っている時にもできるんだから諦めて欲しいな」
「ほんと頑固ね。分かったわ。ケイ君の治療を受け入るわ」
「ありがとう。それじゃ早速始めるよ」
「その前に一言言わせて」
「うん?・・・どうぞ」

 随分と沈黙があった後。
 何かを決意したエリナさんは顔を赤く染めたまま口を開く。
 
「他人に治癒をするのは相手に触れていなくてもできるんでしょ?」
「あ、うん。多分大丈夫だと思う。今もエリナさんの治療しないといけない範囲が見えているから。手をかざせばこの距離でも大丈夫みたい」
「今後誰かを治療する時には触れないで治療して。私はキレイに治してもらいたいから・・しっかりくっついて治して欲しいの」

 両手を広げてエリナさんはハグをしろとアピールしてくる。表情は真っ赤でややパニックになっているのか?
 ・・・何か。
 とても可愛らしい。色々思う所はあるけど断るつもりはない。ゆっくりと近づいてエリナさんの華奢な体を抱きしめる。・・柔らかい。
 僕の首に腕が回されしっかりと抱き合う状態になる。これは色々ご褒美です。でも治療優先デスヨ。
 
「それじゃ治癒始めるね」

 エリナさんの真っ赤になった耳元で囁く。くすぐったいのか軽くみじろきながらコクリと静かに頷いてくれる。
 結構な治癒能力は必要になるのは僕もエリナさんも分かっている。
 それでも僕は治したい。エリナさんは受け入れてくれた。絶対に失敗しないように”快癒”を慎重に使う。
 
 ”快癒”の異能を使えばあとは僕の治癒能力がエリナさんの酷い火傷の部位に到達する。ぴったりと抱き合っているから浸透が早いみたいだ。これなら問題なく治せそうだ。
 治癒されている感覚にむず痒さがあるのかピクリと動くのだけど離れないようにしっかりとホールドする。エリナさんも強く抱きついてくれる。

 静かな時間が経過する事暫く。
 
 酷い火傷の治癒が完了する。他にも少し悪い部位があったからついでに治療しておいた。エリナさんの健康はこれから僕が毎日面倒見るつもりで治療したんだ。
 うん。これで大丈夫。本当にキレイな体になったよ。

「治療完了だよ。夜だから目では確認は難しいけど火傷の部位は触れると分かるよ。綺麗になったのは明日の朝確認しようね」

 名残惜しいけどゆっくりと体を離す。エリナさんは腕のロックをなかなか外してくれなかったけど何度かお願いしてやっと離してくれた。
 そして恐る恐る自分の顔の左側を触って確認する。
 うん、暗いけどよく見えるよ。本当にキレイに治った。濁っていた左目も綺麗に澄んでいるのが分かるもの。
 僕の言葉はいらなかったようだ。
 エリナさんの綺麗な緋色の左目から涙が零れてくるのが見える。

「・・・ありがとう。この傷はこれからずっと背負っていかないといけないと諦めていたの。でも誰もが受け入れてくれる傷では無いのも分かっていたの。これからは人目を忍んで死んだように生きていくんだと思っていたんだ」

 生憎と涙を拭く綺麗な布が無いので僕の指で拭う。するとエリナさんは僕の手に頬を擦りつけてくる。本当に柔らかくモチモチしている。あの酷い火傷は跡形も無い。本当に良かった。
 気づいたらもう一つの腕でエリナさんを抱きしめていた。エリナさんもしっかりと抱きついてくる。そして静かにすすり泣いているようだ。

「エリナさんの重荷の一つを取り除けて良かった。これからも僕が出来る事はなんでもするから遠慮しないでね」

 返事の代わりにしっかりと抱きついてくるエリナさん。僕もより艶やかになったエリナさんの金髪を撫でる。
 本当に良かった。
 これでソリヤ家の面々とも向き合えるだろう。
 エリナさんと僕の距離も少し近づけたかなと思う。

「ケイ君。・・私あなたに伝えたい事があるの」

「何?」

「今はまだ言えない。私の中で自信がついたらいつか言うわ」

「分かった。それまで待っているよ」

「・・・それまで側に居てよ」

「分かった。エリナさんの側にいるよ」

「ありがとう」

 エリナさんは僕の胸に顔を埋めているから表情は分からない。
 でもなんとなく分かる。
 多分僕にも時間は必要だから。
 つい数日前には生きるか死ぬかの状態だったのに。

 この夜がずっと続けばよいのに。
 本当に良い夜になったと思う。

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