勇者は隠者になりたい

ナギサ コウガ

文字の大きさ
11 / 29

The Man

しおりを挟む

「なんだ、あんたか。珍しい」

 日中で明かりが入らない一室。
 本の山に埋もれていた男がゆっくりと顔をあげる。
 面倒くさがりなのか髪は乱れ、無精ひげが伸びている。が、その目は生気を失っていないようだ。
 その様子を見た訪問者は安心したような笑みを浮かべ何日も人が座っていない椅子にどっかりと腰を降ろす。
 
「案外大丈夫そうだのう。安心しだぞ」

「・・・積極的に世を捨てた訳じゃない。部屋に閉じこもっているのもそろそろ飽きて来た」
「なんじゃ?もう知っとるのか?」

「・・・知っている。あんたじゃ対処できないのか?」
「判断に困っておる。利がありそうであり、害がありそうでもある。お主はどう思う?」

 訪問者は笑みをうかべたまま男を眺める。言っている事と表情が一致していない。言葉程困っていないようだ。
 
「それを判断するのはあんただ。俺じゃない」
「ふむ。・・・できれば穏便に出て行って欲しいのじゃがな」

「・・・話はしているんだろ?」

 男は興味がないのか本のページをめくっている。視線は既に訪問者に向いていない。
 突然の訪問で無視を決め込んでいるのか、親しい間柄だからの態度かは読めない。

「だから困っておるのじゃ。お主が出張って話をつけてもらえぬか。どちらかというとお主の仕事の範囲じゃぞ」
「・・・根拠は?」
「勘・・じゃな」

 男の視線が訪問者に戻る。その眼光は鋭い。適当な発言は許さぬとばかりだ。
 訪問者も心得ているとばかり笑みを絶やさぬまま受け答える。

「ふぉっふおっ。あれは儂には対処できぬ。じゃから目的違いだと、さりげ~なく伝えているつもりじゃ。で、さりげ~なく去って貰えると有難い。できれば穏便に済ませたいのじゃ」

「・・俺が穏便に済ませられると?とうとうボケたか?」
「詳しくが知らぬが約定があるのであろう?平和的に解決せねばのう」

「・・どこまで何を知っている?事の次第によっては・・」
「おおう。なぜ荒事に及ぼうとする。儂は話し合いにきただけじゃぞ」

「どこがだ。名声はともかく力は衰えてないだろうが」
「悲しい事に年には勝てぬよ。今では全盛期の半分あるかどうかじゃて」

「一般人相手には十分な過剰戦力だ。安心して散ってこい」
「お主は変わらぬのう。じゃが今は誰が狙われているか知っているであろう?」

 男の視線が再度訪問者に戻る。いつのまにか瞳の色が変わっている。何者であろうと焼き尽くされそうな黄金の瞳だ。一般人であれば睨まれただけで失神しそうな威圧がかかる。
 訪問者は涼しい顔で笑みを浮かべている。
 二人とも人外に位置するケモノのようだ。

「・・・まさか。泳がせてないだろうな?アリアーヌに何も教えていないのか?」

 何かが爆ぜるような圧力は部屋に満ちていく。息ができない程の圧力だ。
 訪問者はそれを受けても涼しい顔を保っている。

 男の質問を肯定しているのか、否定しているのか。

 その表情からは何も読み取れない。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...