雀の六三郎の約束

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雀の六三郎の約束

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兵庫にある妹すずめのお雪の無事を確認したすずめの六三郎と、すずめの兄貴の次三郎は、仲良く東京の下町まで帰ってきました。帰ってくると、母親すずめのおふゆが二人を迎えてくれました。
「おや、帰ってきたのかい?長旅だったね。お風呂が沸いてるよ。入っておいで」
二人におふゆがそう声をかけます。
 「やっぱり、故郷はいいな~兄貴!」小さな体ながら、すずめの中でも一番飛翔する能力に長けた六三郎は、風呂に浸かりながら、兄貴の次三郎に言いました。翼のところどころが、一年前と比べ物にならないくらい大きく成長していました。それは、六三郎が東京から兵庫の茶屋町のお雪のところまで飛んでいったという冒険の賜物でした。一年間の冒険が六三郎を大きく育てました。
「そうだな~六三郎。お前は、明日からどうするんだ?」
「そんなのわからねーよ、兄貴。おいらは、風の向くまま気の向くまま、明日のお天道様に聞いてみるよ。そういえば、おいらがいない間に、おいらあての文が届いてないか、伝書鳩の伝七郎に聞いてみるよ。」そう言って仲良く二人は、お風呂に入ったのでした。


あくる日、伝書鳩の伝七郎を訪ねるとなんと彼は病にふせっているではないですか。
「どうしたんだ、伝七!体の調子が悪いのか?」
「ああ、六三郎か。実は・・・・・・」
伝書鳩の伝七郎が六三郎の語ったところによると、どうしても届けなければいけない手紙があるのに、仕事の途上で、翼に怪我を負ってしまったということでした。
「その手紙ってのは、これかい?」
「ああ、そうだ。」
「どこまで、届けなければいけないんだ?」
「鹿児島までだ。返書を預かって、三ヶ月以内に帰ってこないと、俺は仕事を
うしない、路頭に迷い。物乞いをしなくちゃいけない。そうすると、怪我を治すための薬が買えないんだ。それに・・・・・・許嫁のお豆との間の子供もどう育てたらいいのか?わからねえ。一家離散だ・・・・・・」
「そいつは困ったな・・・・・・仕事をなくしたって生きてくのにはへっちゃらだけど、お前がそんなに意気消沈してる顔を見たくない。お腹の子供だって、かわいそうだ。それに、怪我を治すのに薬だっている。わかった。おいらが、代わりに飛んで、手紙を届けてこようか?」親友の伝七が困っているところを見かねて、六三郎は「何が自分にできるか」を考えてそう言いました。
「ほ、本当かい?六三郎。頼めるとありがたいよ。約束だぞ!六三郎!俺の代わりに行って生きて帰ってきてくれ!」
そう言って今にも泣き出さんばかりの破顔の笑顔で伝書鳩の伝七郎は六三郎に手紙を託すのでした。


旅すがたに着替えた六三郎は大きな編笠に青い衣装を纏い、伝書鳩屋の仮見習いとして、伝書鳩屋に入ることになりました。
(三ヶ月で、この手紙を届けなくちゃいけねえのか、こいつは厄介だ。)
小さな体で弾丸のように飛んでいくことができる六三郎でしたが、悩ましいことが一つあります。それは、西から東へと吹く偏西風の存在でした。風を味方につければ、行きはいいのですが、帰りが辛い困難な壁になります。
しかも、今は秋も深まる季節、最も寒い季節を風を一心に浴びて、進まなければなりません。しかも、行く先々で、食べ物も調達しなければなりません。冬はどの生き物にも困難な季節なのです。そして、「冬の寒さに呼吸が白くこおり、心臓が早鐘のように脈をうって止まろうとも進もう!」という強い決意がなければ、三ヶ月という短い期間で帰ってくるのは、不可能です。それでも、六三郎はキリリと空を見上げると、切り裂けない空気のまくが存在する大空を睨みつけながら思いました。
(大空の中の、かぜと空はいつだってオイラの味方だ!)


最初に通ったのは、富士山でした。行きの道でまだ、吐く息も白くないために自由に飛びながら、富士山を眺めます。
(兄貴を探してる時は、苦労したぜ)
今回の旅は、次三郎を探していた全国行脚の旅とは違って、目的地がはっきりしています。富士山の周りを徘徊しなくても、そのいみでは大丈夫なわけです。富士山はまだ雪化粧をあまりしていませんでした。ただ、「帰りの道で、雪化粧をした富士山を見ながら、必死に偏西風に争いながら飛ばなければいけない」と思うと、六三郎は身の縮こまる思いです。


次に訪れたのは奈良でした。
奈良の大仏を見ながら、次三郎を探す旅に出ていた日々の気楽さを思い出しました。あの頃は、己の命ひとつしか、責任がともなっていなかったのですが、今は違います。自分の死はすなわち、伝七の人生に関わってきます。空気の集中して流れる風を読みながら、縫うように空を飛翔します。


次に訪れたのは、兵庫にあるお雪の茶屋町でした。
お雪のことは心配でしたし、会いたい気持ちもありましたが、ここは我慢をしました。
なぜなら、手紙を待っている人がいるからです。そして、仮とはいえ、六三郎は
今は伝書鳩ならぬ、伝書すずめです。


次にくぐり抜けたのは、関門海峡でした。渦潮のまく瀬戸内の穏やかな海を見ながら、飛んでいると、ゆったりとした子供の頃が思い出されました。
(そうだ!お雪の団子屋で、お団子を買ってみんなで食べたかったな。)
と思いましたが、後悔後にたたずでした。


そうして、飛んでいくと一月ほどもたった頃、鹿児島の桜島につきました。
手紙を届ける相手に無事に手紙を届けると、
相手から返書を届けるように言われ、
東京の下町の伝書鳩屋に持って行くことになりました。
桜島が夕日の中で赤くそびえ立っていました。
その夕焼けに染まる赤い桜島を見ながら、
共通の友人である鳩のお豆のことを六三郎は思い出していました。


ちょうどその日は、桜島の夕焼けのように美しい日でした。
旅支度を終えて、ひと段落をしていると、そこに伝七の許嫁のお豆が現れました。
「私と伝七さんとその子供のために、鹿児島まで行ってしまわれるのですね。」
伝七の許嫁のお豆が神妙な顔で六三郎に言います。
「おいらは、独り身だからな。死んで困るやつなんかいない。」
六三郎は呟くように言いました。
「そんなことはありません。あなたのお兄さんの次三郎さんもお母さんのおふゆさんも、
妹のお雪さんも、それに・・・・・・それに、あなたの友達で私の許嫁の伝七さんも
それから、それから、この生まれてくる子供もみんな、あなたが生きて、帰ってくるのを
心から待ち望んでいます。約束ですよ。生きて帰ってきてください」そうお豆はお腹をさすりながら力強く六三郎に
「旅の無事を祈っている。」ことを伝えました。そんなことを桜島の夕焼けを見ながら思い出した六三郎でした。


季節が秋から冬に変わった日、六三郎が、ちょうど兵庫に差し掛かる頃、大きな嵐がやってきました。途中で、軒先で雨宿りをしながら飛ぶのですが、なかなか思うように飛べません。まるで、両翼をもがれたように空気の中を重い水しぶきを上げながら飛ぶしかないのです。
(ちっ、厄介な雨だぜ。)
一週間ほど、この雨は六三郎を追いかけるように九州から中国地方にやってきています。次第に、雨雲は大きくなり、雨雲が嵐になりました。嵐の中を飛ぶのは流石に簡単ではありません。容易に飛ぶのは、風を味方につける六三郎でも無理です。でも、このすずめは己の命の限りに力を翼に変え、嵐の中を飛びます。
突然、稲光が落ちて、落雷しそうになります。それでも、六三郎は風と戦うのではなく、風を友達に変えて、嵐の中を飛びます。体は雨に打たれ、吐くいきは白くこおり、体温はものすごいスピードで下がります。六三郎は小さな体に積み込まれた肺を大きく吸って高く上昇します。地面を飛んだ方がいいのに、どうして彼は地面スレスレを飛ばないのでしょう。
六三郎が空高く飛んでる理由は、雨雲のさらに上に行こうというものでした。空気がうすく、大気の存在しない高さまで飛べるわけがありません。そのことを知らない六三郎は地面を進んで、安全な道を探すのではなく風の中を選んだわけです。雨雲の中に突入すると
次から次に稲光が走ります。積乱雲の中を、六三郎は飛びます。稲光が、「ピカッ!」とひかり、右、左、また、右、左へと次から次へと走りますが、六三郎は驚異的な飛行能力で回避し続けます。
小さな奇跡の連続と言えます。ところが、運というものは続かないもので、六三郎の翼に雷がかすります。小さな電流と共に、衝撃を受けた六三郎は「もう、自分の人生も終わりか・・・・・・」と思って、急降下して、地面にぶつかりそうになります。
(オイラの人生も終わりか・・・・・・すまない。伝七・・・・・・)
と六三郎が思っていると、台風の目である光の隙間からよく知った顔が見えるではないですか。
「お~い!六三郎!迎えに来たぞ~」
(あ!あれは、兄貴の次三郎だ!)
六三郎が、弱々しく飛んでいるところに、あの兄貴の次三郎がなんと助けに来てくれたではありませんか!
「あ、兄貴!助かった!おいらは、もう無理だ!て、手紙だけでも、オイラの代わりに届けてくれ!」
そう六三郎が地面スレスレを飛びながら言うと、
「ばか言ってんじゃない!!己の生き方に照らして、よく考えてみろ!
このまま、嵐に負けてくたばるか?最後まで、すずめの六三郎らしく
伝書すずめを続けるか!約束を果たせないで終わっていいのか?」
六三郎は目をぱちくりさせた後、
大きくちゅんちゅんと鳴きながら言いました。
「兄貴!おいらは、死なねえよ!おいらは不死身の六三郎だ!だから、約束を果たして、生きて東京に帰るんだ!」
「そうだ!飛べ!六三郎!力の及ぶかぎり!伝七の分も飛ぶんだ!俺が先にたって、風を
切り裂いてやる!」
次三郎はそういうと、六三郎の飛行の前に飛び、風よけになってくれます。六三郎の飛行を
助けようという企みです。そして、六三郎は、痛んだ方の翼をあまり動かさず、片方だけの翼を調節しながら、巧みに水平を調節しながら飛ぶのです。飛行機が片方のエンジンが動かないとき、一方のエンジンだけで飛ぶのと同じ原理です。しかし、この方法はいうはやすし
行うはがたしで、飛行に円熟味がないとできません。六三郎の飛ぶということにかける執念はもはや達人の域に達していました。嵐の中を雷雨を雷を避けながら飛べたのは何も運だけではなかったということです。その六三郎の心の奥にあったのは、お豆の言ってくれた言葉でした。「みんな、自分の帰りを待ってくれている。そのために、自分は生きて帰らないといけない。」という思いが、六三郎を死線から救い出してくれたのです。
(待ってろよ。伝七!必ず、やり遂げてみせる!)
雪化粧に染まる冬の富士を頼りない力強さのなさで、でも、確実に六三郎は兄の次三郎の翼に守られながら、進みます。
(待ってろ!みんな!オイラはオイラは力の限り飛んでみせる!)
六三郎は這うような低空飛行で次三郎の先導のもと東京まで帰るのでした。


東京に着くと
次三郎に医者に連れて行かれた後に、伝書鳩の伝七のところを訪れました。
「六三郎!俺は!俺は!」
「な~に、気にするな!伝七。こんなのかすり傷よ」
伝七は六三郎のボロボロの姿においおい泣きはじめました。旅立つ前はあんな立派だった旅姿のはずの六三郎は、生きて帰るという約束は果たせたものの
濡れネズミのようにボロボロでぐしゃぐしゃでした。
「ほら、これ、返書だ。約束は果たしたぜ。」
そういうと六三郎は太陽のように笑いました。
その笑顔を見て伝七も心が少しホッとしましたが、
医者に言わせると、「もう翼は動かせい。」と言われたのを聞いていたので
自分に責任を感じていました。
「六三郎!俺にできることは、なんでもする。だから、なんでも言ってくれ」
「そうかい?そんなこと言われても、おいら、照れるなあ~。
ま~でも、一緒にリハビリでオイラと飛んでくれるかい?」
「飛ぶぐらいなんでもないお安いご用だよ。他には何かあるかい?そうだ!生まれてくる鳩の俺の子供の名前を六三郎にしよう。」
「よせやい。六三郎なんて。照れるじゃないか」
六三郎が体を身をよじって照れていると
伝七は「どう言えば六三郎のこの恩義に報いることができるのだろう」と思いました。
「何もいらないよ。それに、オイラが生き残れたのは、オイラ一人の力じゃねえんだ。だから、何もいらねえ。健康なだけがオイラの取り柄よ。約束は果たしたぜ!伝七!生きてこの通り帰ってきた。だから、リハビリを頑張って翼を治して、そしたらよ・・・・・・そしたらよ・・・・・・オイラは不死身の六三郎として、また旅に出るんだい!」
そう言って笑いました。あんなに危険で恐ろしい旅だとしても六三郎は冒険する人生を選んだわけです。親友との約束も果たせましたしね。さてはて、この話の六三郎がどうなったかは筆者も知りません。お豆ちゃんの赤ん坊の六三郎の方は元気に育ったようです。しかしながら、行方がわからなくなっているこの雀の六三郎は医者には「治せない」と言われた傷も治して、新たな冒険の旅に行ったと私は思っています。
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