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初めての異世界

第3話 ヒロシの想い

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アラタの家を後にした僕たちは、日が暮れるまで魔族領の城下町に暮らす魔族たちの暮らしを眺めた。

「今日1日どうでした?ヒロシ殿」

「はい、思いのほか魔族の人達はフレンドリーで、驚きました。」
僕は率直な気持ちをミハイルさんに伝え、それを聞いたミハイルさんは小さく頷いていた。

「1度魔王城に戻りましょ。御夕食の用意がされていると思いますので」

魔王城に戻り、部屋で用意されていた着替えに着替えると同時にミハイルさんが呼びに来た。

「よく、お似合いですよ、ヒロシ殿」

「あ、ありがとうございます。」
長い廊下を歩くこと3分くらいして食堂とおもわれる、扉をミハイルさんは開けた。

「おぉ!ヒロシ殿、ささ、座ってくれ」

「はい、失礼します」

「食事は料理長が腕によりをかけて振舞ってくれるからな!」
僕は魔族の料理に一抹の不安を感じながら食事が来るのを待った。
けど、料理長が持ってきた食事は意外と普通で味はとても美味しかった。

「それで、ヒロシ殿、急で悪いのだが返事を聞かせて貰えないだろうか?」

「はい、1日魔族の暮らし、この世界に住む人間がやった行為、見させてもらいました。僕としては、協力してもいいと思いますけど、日本にいる家族が心配していると思うんです。」

「そうか、それもそうだな、ヒロシ殿にも家族がいるのだったな、今すぐに決めろとは言わん、今日はもう遅い、部屋で休んで明日答えを聞かせて欲しい、それでも構わないだろうか?」

「分かりました。」
席をたち食堂?を出ようとした時、魔王様からとんでもない事を聞いた。

「ヒロシ殿に伝えないといけないことがある、それはな、、、、、、」
食堂?を出て部屋に戻った僕はベッドに横になり、今日あったことを改めて思い出していた。

「この世界のことはイマイチよくわかってないけど、みんな優しくて温かった、それにまさか呼び出した条件が死にたがっているものもしくは、世界に未練がないと思っているものだったなんて。」
僕は目を閉じて地球での日常を思い出してみた。

「父さんは、僕が産まれて直ぐに浮気していたらしい、それでも僕が中学に上がるまでは、いやいやながらも家に帰ってきていた、それも最近は帰ってこなくなったけ、確かその時からかな?母さんも家を出て行ったのは、高校に入ってからはいじめが日常になって、先生に助けを求めても無駄だったな、地球では誰からも必要とされない、けどこの世界では魔王様は僕のことを必要としてくれるかもしれない、どうせ帰っても僕の帰りを待っている人なんていないし、この世界に留まろ。」
そう決意した僕は気づいたら深い眠りについていた。

僕は久しぶりに夢を見た。地球の夢。学校から帰っても明かりがついていない寂しい家。「ただいま」と僕の口から4文字の言葉が虚しくこだまする。

母さんは、父さんからのお金を一切使わず僕に残していた。これが唯一の救いだった。学校では虐められ、近所の母親からは僕が通る度いつもの如くヒソヒソと僕の家族の話をする。

両親の祖父母は既に他界しており、親戚も遠くにいて助けて貰えない、嫌で嫌で仕方がなかった日々、あの日は確かビルの屋上に居たんだったけ、学校を休みずっと空を眺めていた。

飛び降りる勇気すらなく、死にたいと願っても死ぬ度胸もない、助けを心の底から願ってもヒーローは助けに来ない。

目が覚めた時は既に日が昇っており、ミハイルさんが部屋の前に居て、扉をノックしてきた。

「ヒロシ殿、お目覚めになっていますか?」
僕は扉を開け、ミハイルさんに「おはようございます」と挨拶をし、着替える時間をちょっとだけ貰い、食堂?にミハイルさんと向かった。

「ヒロシ殿、昨日はよく眠れたかな?」

「はい、お陰様で久しぶりにぐっすり眠れました。」

「おお!それは良かった。それでは朝食を用意してある、一緒に食べよう」
僕が席に着くと同時にパンとスープが出された。パンはいつも食べているパンよりちょっと硬い、スープはそのまま飲むと塩辛くパンに付けて食べるのが普通らしい。

「それで、ヒロシ殿、昨日の応えを聞きたいのだが、よろしいだろうか?」
僕は咀嚼していた、パンを飲み込み、1呼吸置いて返事した。

「昨日考えました、僕には元いた世界に帰っても待っている人はいないので、魔王様の手伝いをしたいと思います。」

「本当にいいのか?呼んでおいてこんな事言うのもおかしいが、次帰れるとしたら200年後だぞ?それでも、いいのか?」

「はい、僕は地球では、ずっと下を向いて歩いていました、けどここでは前を向いて歩いていこうと決めたんです。だからもう迷いません、戦うのは難しいかもしれないけど、僕は僕ができることをやりたいです。」
この日地球では、1人の少年が突如としていなくなったことがニュースになった話はまた別の機会に。
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