もう一度、やり直せるなら

青サバ

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3章 それぞれの変化

3-2 一気に崩れる関係

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 人の気配がほとんどない場所まで来て、駿はようやく足を止めた。

 果奈は俯いたまま、指先を強く握りしめている。

「……俺が、もっと早く来ていれば」
 言葉が、自然とこぼれた。
「怖い思い、させなかったのに。本当に、ごめん」

 果奈は小さく首を振る。

「私の方こそ……ごめんなさい」
「辛島先輩に告白されてたこと、言わなくて……」

「なんで果奈が謝るんだよ」
 思わず、強い口調になる。
「悪いのは果奈じゃない」

 そう言い切った直後、胸の奥がひくりと痛んだ。
 ――相談してくれなかった。
 その事実が、じわじわと効いてくる。

「でも……」
 果奈は、震える声で続ける。
「全部、私のせいだよ。駿にちゃんと相談してたら、こんなことにならなかったかもしれないのに……」

 ぽろり、と涙が落ちた。

「そんなの、分かるわけないじゃん!」

 自分でも驚くほど、強い声が出た。
 果奈の自分を責める姿と、自分の無力さが重なって、感情が抑えきれなかった。

 果奈は涙を拭い、首を横に振る。

 その瞬間――
 校内放送のチャイムが、冷たく鳴り響いた。

「早川果奈さん。至急、教員室に来てください」

 果奈の肩が、びくりと揺れる。

「……呼ばれちゃった」
 無理に笑おうとして、うまくいかなかった。
「行ってくるね。駿、本当に……ごめん」

 深呼吸をひとつして、果奈は歩き出す。

 その背中は、今にも崩れてしまいそうで。
 引き止めたいのに、声が出なかった。

 果奈の姿が見えなくなってから、教室へ戻ろうとした。
 けれど、一歩が異様に重い。
 まるで床に、鉛を塗りつけられたみたいだった。

 

 教室に入るなり、視線が一斉に集まる。

「浅村、さっき早川さんとどこ行ってたんだよ」
「果奈、大丈夫なの?」

 次々に飛んでくる声。
 胸の奥がざわつくのを抑え、短く答えた。

「早川さんは、教員室に行ってる」
「俺は……大丈夫だから」

 それを聞いて、周囲は一度静まった。
 けれど、次の瞬間。

「なーんだ、浅村」
 妬み混じりの声が響く。
「早川さんと、付き合ってたんだな?」

 空気が、一気に変わった。

「え、マジで?」
「あの早川さんが?」
「最近、様子違うと思ってたけど……そういうこと?」

 噂は、勝手に膨らんでいく。

 何か言わなきゃ、と思うのに、言葉が見つからない。
 黙るしかなかった。

 ――ドン!

 突然、机を叩く音が教室に響いた。

「お前ら、いい加減にしろ!」

 怒鳴ったのは、直己だった。

「付き合ってるとか、どうでもいいだろ!」
「今、俺たちがやるべきことは、噂話じゃない!」
「2人を支えることだろ!」

 教室が、凍りつく。

 直己はそのまま、やってくる。

「……駿、大丈夫か」
「俺、こういうやり方しかできねえけどさ」

 その不器用な優しさに、胸が熱くなる。

「ありがとう、直己」

「当たり前だろ」

 やがて、午後の授業開始のチャイムが鳴った。

「まだ席を立っているのは何事だ!早く座れ!」

 教師の声で、クラスは慌てて日常へ戻っていく。

 

 そして、終礼。

 果奈の席は、最後まで空いたままだった。

 ぽっかりと空いたその場所が、
 今の自分の心と、重なって見えた。
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