もう一度、やり直せるなら

青サバ

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5章 目標に向かって

5-1 好きな人の初めて知った一面 1

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 地区大会まで、約2週間。

 放課後のコートには、いつもより張り詰めた空気が漂っていた。

 駿は額の汗を拭いながら、今江先生の球出しを必死に追いかける。鋭く打ち込まれるボールに反応するだけで精一杯で、1本終える頃には肩で息をしていた。

「球拾いお疲れ」

「代表メンバーに選ばれなかったからな。そっちこそ、今江先生の球出し相手とか地獄だろ」

 隆二が苦笑する。

「ほんときつい。悪いけど、この後の祐希との練習、少し代わってくれない? 休憩したい」

「了解」

 短く礼を言い、校舎へ向かった。

 上履きに履き替えた時、不意に体育館の方から羽根を打つ乾いた音が響く。

 ――パンッ。

 胸がわずかにざわついた。

 理由は分かっているのに、足は自然と体育館へ向かっていた。

 中ではバドミントン部とバスケットボール部が同時に練習しており、熱気がこもっている。邪魔にならないよう端を歩きながら視線を巡らせると――

 コート中央で、果奈が跳び上がった。

 鋭いスマッシュが相手コートへ突き刺さる。

 スコアは一方的だった。

 中学時代、県大会ベスト8。今でも個人戦シード常連。

 頭では知っていたはずなのに、実際に試合をしている姿を見ると印象がまるで違う。

 迷いがない。

 1球ごとに、勝つための選択をしている。

(日常で見てる果奈と……全然違うな)

 楽しそうに笑う姿しか知らなかった。

 けれど今、コートに立つ果奈は――競技者だった。

(俺は、あんな顔でプレー出来てるか?)

 胸の奥が静かに熱くなる。

 その時。

「すみません、危ないので移動お願いします」

 マネージャーに声をかけられ、慌てて頭を下げた。

 トイレを済ませ、今度は寄り道せずコートへ戻る。

「浅村、遅かったな。何かあった?」
「いや、ちょっとな」

 果奈を見ていた、とは言わない。

 代わりにラケットを握り直した。

 さっきまでの重さが、少し消えている気がした。


 模擬戦の相手は祐希だった。

「浅村先輩、よろしくお願いします」
「こちらこそ」

 試合開始。

 序盤からラリーが続く。

 これまで何度も負けてきた相手だ。だが今日は、不思議と焦りがなかった。

 1本、 1本。

 果奈の動きが頭をよぎる。

 無駄な体勢で打たない。
 次を考えて返す。

 ゲームを奪われても、崩れない。

 気付けば最終ゲーム。

 デュースが続き、呼吸が荒くなる。

 マッチポイント。

 サーブを打ち、前へ出る。

 返球は甘かった。

 迷わず打ち抜く。

 祐希も取ろうと、球を追うが、ギリギリで届かず、試合を制した。

「……勝った?」

 初めて祐希に勝った実感が、遅れて押し寄せる。

「最後のショット、ナイスでした」

「ありがとう。でも、たまたまだよ」

「そんなことないです。今日の先輩、代表戦の時より動き良かったです」

 祐希がにやりと笑う。

「さっき抜けてた時、好きな人でも見て、英気を養ってたんですか?」

「ち、違うって。ただトイレが長引いただけ!」

 動揺した声に、近くで隆二が肩を震わせていた。

 あとで絶対問い詰める。

 その後の模擬戦も、全勝だった。


 夕焼けが、ゆっくりと色を変えていく。

 さっき体育館で見た果奈の姿が、まだ頭から離れない。

(追いつきたい)

 初めて、はっきりそう思った。

 好きとも、憧れとも違う。

 けれど――

 同じコートに立つ以上、隣に並べる自分でいたい。

 ラケットを握り直し、静かに歩き出した。
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