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■Ⅴ■ON INDIA■
[4]ムーンの不思議 ▼ 殴った対象 (M&C)
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──色々とまとめ直す必要が出来たから、まぁちょうどいいか……。
クウヤはメリルの端の椅子に座り直して、得た情報を整えることにした。
まず──
・メリルはメイド用アンドロイドではなく、マリーアという女性の「分身」である。
・おそらくマリーアはメリルが直接帰りたがったヨーロッパの『ムーン・シールド』上にいる。
・シドの父親がメリルの開発者で、現在はシドがメンテナンスを行なっている。
・メリルの表層はホログラムでカモフラージュされているが、そのシステムには『ムーン』が使われている……
投影自体は飽くまでもデジタル信号である筈なのに、心の揺らぎが影響を及ぼすという──その不可思議な構造に、クウヤは一つ思い当たる節があった。
啓太に誘われ、メリルと出逢うキッカケとなった『グランド・ムーン』。あそこで流れていた映像が精神に及ぼす「影響」は、ホログラムのシステムとは逆方向とはいえ何処か似ている気がしたのだ。
『これがココ『グランド・ムーン』の特徴であり、自慢とするところだよ。気持ちを映像に集中させると、五感全てを掌握されて、一種のヒーリング効果が得られるんだ。こんなもの、夜遊びに来た大人には無用の代物だと思うでしょ? でもこの癒し効果の中には特殊なエクスタシー・プログラムが組み込まれていて、これと現実を交互に体験することで、麻薬みたいな悦楽状態に浸ることが出来るのさ』
──あれも『ムーン・システム』から来るものだとしたら──
「お待たせしてしまったでしょうか?」
「ん? あっ、いや……目、覚ましたのか」
突然目の前から声が掛けられ、クウヤは一瞬ビクついてしまった。
「どうやらタイマー設定されていた模様です。長らくお待たせ致しました」
「タイマー? あぁ、スリープ・モードがってことか」
納体袋ごとメリルの上半身が起き上がり、クウヤの方へ向きを変えた。腰掛けるように膝下を下ろし、ジッパーを下から引き上げる。何処まで開くのかとドキドキするクウヤの心配をよそに、メリルは膝までを露出させて静かに床に着地した。
「こちらが前腕から剥離された機器でございますね?」
同じく露出した右手で、寝台に放置されたままの二つの部品を取り上げた。
「ああ……どうだ? 右腕、問題ないか?」
確認するように右手右腕を小刻みに起動させて、メリルは「問題ございません」とクウヤに相対した。
「そうか……とりあえず良かったな」
ついさっきまで聞かされていた事実が余りにも残酷で、メリルと目を合わせるなど出来そうにもない。脳内はどうにか整理出来ていても、クウヤの心はまだまだ波立っていた。
「クウヤ様」
「……う、うん」
右腕以外触れさせるなという約束も、実際叶えることが出来たと言えるのだろうか? 細部までは見えていないが、ある程度のプロポーションが判別出来る域までを、挙句自分までもが見てしまっている。実質触れてはいないものの「人目に晒す」という意味では触れているのも同然だ──と思えば、やはり一発殴っておけば良かったと、クウヤは少しばかり後悔した。
「おそらくシド様がわたくしの過去についてお話されたかと思いますが」
「……う、ん……」
そんなことを思い返しながら下げていた視線を何気なく元へ戻したが、見事にメリルのそれとかち合って、ついたじろいてしまった。が、メリルはそんなことはお構いなしに淡々と話を続けた。
「シド様が仰ったことが全て真実とは限りません。どうぞ「話半分」として心に留め置いてくださいませ」
「半分……?」
──そんな風に言われたら、何を信じていいのか全く分からなくなるのだが……。
この目の前で話しているメリルは、アンドロイド・メリルなのだろうか?
それともシドが話した通り、別の地から遠隔操作しているマリーアなのだろうか?
この声は言葉は──マリーア自身の声と言葉、なのだろうか──!?
「……分っかんねぇ……」
無意識にボヤキを吐き出して、クウヤは髪を搔きむしった。混乱したこの状況を誰かに納得させてもらいたくて、気付けばメリル自身に問いかけていた。
「今、俺が喋っているお宅は……一体、誰なんだよっ!?」
「……」
噛みつくような口調で心の声を投げつけられたメリルは、ほんの一瞬、鼓動がトクンと一鳴りするほどの刹那に、全てを失ったような、誰かに突き放されたかのような、初めて人間のそれと分かる哀しそうな表情を見せた。そしてそれを目撃してしまったクウヤは、ハッと息を止めていた。
「わたくしは……わたくしでございます、クウヤ様。マリーアは十四歳で、あの時両親と共に亡くなったのです」
「ごめっ……メリル……悪かった……」
「どうぞお気になさらずに。ダイニングでお待ちください。着替えてまいります」
先に瞳を逸らして踵を返したのはメリルの方だった。その背筋はいつものようにピンと伸びていたが、何処となく寂しそうに見えたのは……その声の主がマリーア本人のものだと感じられたからだろうか?
──ごめん、メリル……いや……マリーア、か……。
「本当、大バカだ……殴られるべきは、俺……だ、な……」
周りの人間に翻弄されてきたのは彼女の方なのだ。それを分かっていながら、まるで心臓を抉り取るような行為に出てしまった自分の頬へ、クウヤは一発拳を入れた──。
クウヤはメリルの端の椅子に座り直して、得た情報を整えることにした。
まず──
・メリルはメイド用アンドロイドではなく、マリーアという女性の「分身」である。
・おそらくマリーアはメリルが直接帰りたがったヨーロッパの『ムーン・シールド』上にいる。
・シドの父親がメリルの開発者で、現在はシドがメンテナンスを行なっている。
・メリルの表層はホログラムでカモフラージュされているが、そのシステムには『ムーン』が使われている……
投影自体は飽くまでもデジタル信号である筈なのに、心の揺らぎが影響を及ぼすという──その不可思議な構造に、クウヤは一つ思い当たる節があった。
啓太に誘われ、メリルと出逢うキッカケとなった『グランド・ムーン』。あそこで流れていた映像が精神に及ぼす「影響」は、ホログラムのシステムとは逆方向とはいえ何処か似ている気がしたのだ。
『これがココ『グランド・ムーン』の特徴であり、自慢とするところだよ。気持ちを映像に集中させると、五感全てを掌握されて、一種のヒーリング効果が得られるんだ。こんなもの、夜遊びに来た大人には無用の代物だと思うでしょ? でもこの癒し効果の中には特殊なエクスタシー・プログラムが組み込まれていて、これと現実を交互に体験することで、麻薬みたいな悦楽状態に浸ることが出来るのさ』
──あれも『ムーン・システム』から来るものだとしたら──
「お待たせしてしまったでしょうか?」
「ん? あっ、いや……目、覚ましたのか」
突然目の前から声が掛けられ、クウヤは一瞬ビクついてしまった。
「どうやらタイマー設定されていた模様です。長らくお待たせ致しました」
「タイマー? あぁ、スリープ・モードがってことか」
納体袋ごとメリルの上半身が起き上がり、クウヤの方へ向きを変えた。腰掛けるように膝下を下ろし、ジッパーを下から引き上げる。何処まで開くのかとドキドキするクウヤの心配をよそに、メリルは膝までを露出させて静かに床に着地した。
「こちらが前腕から剥離された機器でございますね?」
同じく露出した右手で、寝台に放置されたままの二つの部品を取り上げた。
「ああ……どうだ? 右腕、問題ないか?」
確認するように右手右腕を小刻みに起動させて、メリルは「問題ございません」とクウヤに相対した。
「そうか……とりあえず良かったな」
ついさっきまで聞かされていた事実が余りにも残酷で、メリルと目を合わせるなど出来そうにもない。脳内はどうにか整理出来ていても、クウヤの心はまだまだ波立っていた。
「クウヤ様」
「……う、うん」
右腕以外触れさせるなという約束も、実際叶えることが出来たと言えるのだろうか? 細部までは見えていないが、ある程度のプロポーションが判別出来る域までを、挙句自分までもが見てしまっている。実質触れてはいないものの「人目に晒す」という意味では触れているのも同然だ──と思えば、やはり一発殴っておけば良かったと、クウヤは少しばかり後悔した。
「おそらくシド様がわたくしの過去についてお話されたかと思いますが」
「……う、ん……」
そんなことを思い返しながら下げていた視線を何気なく元へ戻したが、見事にメリルのそれとかち合って、ついたじろいてしまった。が、メリルはそんなことはお構いなしに淡々と話を続けた。
「シド様が仰ったことが全て真実とは限りません。どうぞ「話半分」として心に留め置いてくださいませ」
「半分……?」
──そんな風に言われたら、何を信じていいのか全く分からなくなるのだが……。
この目の前で話しているメリルは、アンドロイド・メリルなのだろうか?
それともシドが話した通り、別の地から遠隔操作しているマリーアなのだろうか?
この声は言葉は──マリーア自身の声と言葉、なのだろうか──!?
「……分っかんねぇ……」
無意識にボヤキを吐き出して、クウヤは髪を搔きむしった。混乱したこの状況を誰かに納得させてもらいたくて、気付けばメリル自身に問いかけていた。
「今、俺が喋っているお宅は……一体、誰なんだよっ!?」
「……」
噛みつくような口調で心の声を投げつけられたメリルは、ほんの一瞬、鼓動がトクンと一鳴りするほどの刹那に、全てを失ったような、誰かに突き放されたかのような、初めて人間のそれと分かる哀しそうな表情を見せた。そしてそれを目撃してしまったクウヤは、ハッと息を止めていた。
「わたくしは……わたくしでございます、クウヤ様。マリーアは十四歳で、あの時両親と共に亡くなったのです」
「ごめっ……メリル……悪かった……」
「どうぞお気になさらずに。ダイニングでお待ちください。着替えてまいります」
先に瞳を逸らして踵を返したのはメリルの方だった。その背筋はいつものようにピンと伸びていたが、何処となく寂しそうに見えたのは……その声の主がマリーア本人のものだと感じられたからだろうか?
──ごめん、メリル……いや……マリーア、か……。
「本当、大バカだ……殴られるべきは、俺……だ、な……」
周りの人間に翻弄されてきたのは彼女の方なのだ。それを分かっていながら、まるで心臓を抉り取るような行為に出てしまった自分の頬へ、クウヤは一発拳を入れた──。
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