軍将の踊り子と赤い龍の伝説

糸文かろ

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第一章

赤い龍の伝説 3

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「そうか。ご両親は、これほど立派に聖舞師になった我が子を心から誇らしく思っているのだろうな」
 しかしリエイムは否定するどころか大きく頷いたので、サニは予想しなかった反応に押し黙った。心に敷いた防御壁が、行き場を失ってしまう。
「スーラや院の規則について俺はよく知らないのだが、聖舞師は普通、どれくらいクレメントにいるものなのだ?」
「聖舞師になった歳から数えて少なくとも十年はクレメントに派遣されます。その期間が過ぎれば、聖舞師として変わらずこの地にとどまる者もいれば、スーラの聖舞院に戻る選択もできます。空きがあればですが」
「ということは、ご年配でも戦場に赴く聖舞師も、中にはいらしゃるということか? 百歳でも現役?」
「自らが望む限りは。百歳はさすがに見たことがありませんが」
「サニはどうなのだ?」
「私は、派遣期間が終わればスーラに戻ることを希望しています。院では素晴らしい先生方が舞術の指導をしてくださいました。私もその一員になり、立派な聖舞師の育成の為一翼を担えればと思っています」
 元々席数が少ないため、聖舞院で教鞭を執るのは狭き門だ。そのためには派遣されたクレメントでまずは両国に大きく貢献せねばならない。専属にならず無所属でいるのはそのためでもある。決まった軍がいなければ、多く戦地に行けるからだ。
「なるほど。サニは、良き師になれそうだな。もちろん戦場で舞っている姿を見たときもこの上なく天職だと思ったが」
 他意のない率直な感想に、猜疑心がするするとほどかれていく。初対面のときも思ったが、リエイムは人の警戒心を解くのがうまい。それはきっと、勝手な審判を下さないことに理由がある気がする。人は、対面した人物を無意識に自分の経験から枠にはめてしまいがちだ。こういう見た目だからこう考えるだろう。この職業だからこういう性格に違いない。そんな判断を一切下さず、見た人をありのまま受け入れているのだと、話していると気づいてしまうのだ。
 だからサニも、本音が口から滑り出ていた。
「両親に会えなくて平気でも……たまにスーラの森が無性に恋しくなるときはあります。私の背丈までうっそうと生い茂る草や何千年も生きた巨大な樹木など、自然に宿る怖いくらいの脅威さを見るのが、好きでしたので」
 サニは目を閉じ故郷の景色をまぶたの裏に思い浮かべた。
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