軍将の踊り子と赤い龍の伝説

糸文かろ

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第一章

専属契約 2

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「私は……今まで、セディシアの民たちはみな皇帝をひたすらに崇めているとだと勘違いしていました。皇帝の望むことなら貧乏を受け入れ、戦に行っているものだとばかり……。私は……何も知らない愚か者でした」
「知らなくて当たり前だ。サニが、自分を責める必要はない。それに俺もセディシアの民と関わらなかったら、そう思っていただろうしな」

 夕日が地平線にゆっくりと落ちていく。
 赤く染まる大地を、ゆったりと前進する馬の背中からぼんやり眺めた。

 信仰を軽々しく捨てるなんて、サニには信じられないことだった。
 でも、自分は家族を失う辛さや飢餓の苦しみをまだ経験してない。もし自分がセディシアに生まれていたら、つらい環境下で彼らのように、もしかしたら他宗教に救いを求めたかもしれない。
 だから安易に彼らを避難することはできなかった。でもやっぱり、本音を探れば一度信じた神を捨てるなんてひどいことだとも思ってしまう。
 何重にも絡まった糸がほどけないようなもどかしさを心の内に感じていた。
 見えないことをいいことに、サニは下唇を噛み、パロモのたてがみを握った。
 背中から届くリエイムの声は、ごく優しげだった。
「『愛する人を思う気持ちこそ本当の信仰だ』……母上の言葉が、こんな綺麗な夕日を見るといつも頭をよぎるんだ。その意味はまだ、俺にはよくわからないが、いつかわかりたいと願う」
 こちらの戸惑いを全面に受け入れてくれるような、穏やかな声音だった。いつかわかりたい。その一言は心の奥底に深く響いた。今、答えを出さなくていいと言ってくれているような気がした。
 城に帰り、門の前でパロモから下ろしてもらうと、リエイムは改めてサニに向き直った。
「サニ、昨日城に帰ってくる際言っていた専属の話、真剣に考えてみてくれないか。戦場では舞術に惚れ込んだが、今日一日一緒にいてサニと組みたい気持ちが一層強くなった。言葉でうまく表現できないが、俺たちはきっと同じ思いを抱いていると思うのだ」
 サニは無言で、澄んだ灰色の瞳を見つめた。
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