軍将の踊り子と赤い龍の伝説

糸文かろ

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第二章

サニの決意 3

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「この力は、桁違いに強すぎる。剣術や戦略なんかじゃ比べものにならない驚異的な武器になり得てしまう。だからなのか最近、自分が吐く炎で焼け死んでいく兵たちを、何度も何度も悪夢に見るんだ。セディシア兵も、クレメント兵もみんな黒焦げになって、世界が火の海になるのを俺はただ一人で呆然と眺めている夢を」
 大きく上下する肩は、小刻みに震えていた。
 それはかつて伝説の龍が抱いた孤独だっただろうかと、サニは想像することしかできない。
「俺が龍に変化したことは、もうセディシア王の耳まで届いているに違いない。じきに国兵を総出で動かして俺を捕まえに来るだろう。今まで血眼になって探していた伝説の生き物が実在していたとわかれば、何が何でも手に入れたいだろうからな。でも、セディシアに捕まるのが嫌だったらクレメントの龍になってセディシア兵をこのまま殺しつづければいいのか? 何が正しいのか正しくないのか、もう俺にはわからない」
 ここ数日、緊急事態に備えて声を使わない意思疎通の方法を決めておくため、リエイムは何度も龍に変化していたが、迷いなどおくびにも出さなかった。
 でも実際はこうして心の中で誰にも悩みを打ち明けられず、ずっと悩んでいたのだ。
 リエイムの、全方位に気遣いを怠らない性格を考えれば当たり前なのに、そのことに気づけなかった自分が馬鹿みたいだった。
「身体能力が高いことも耳が異常にいいことも暗闇でも良く見れることも、人より優れているから戦の役に立つ。龍の能力を持っていてラッキーだと、軍将になるまでは思っていたよ。でも今はそんな風に楽観的になれない」
 そういえば初日、軍将なのになぜ先頭を歩くのか、訪ねたことを思い出した。遺憾なく発揮していた軍将の能力を、本人は実のところよく思っていなかったのだと伝わってくる。いつも前向きなリエイムらしくないと言いかけるが、自分が彼の何を知っているのだと口をつぐむ。
「……俺は……化け物だ」
 声帯を震わせ、一言リエイムは告げる。その絶望的な声に、心臓がぎしぎしとすりつぶされるような気がした。
「あなたは、化け物なんかじゃありません」
 リエイムは更に苦しげに喉の奥から低い声を振り絞った。
「いっそのこと、この世に龍なんかいなければ、誰もこんな風に争わなくていいのかもな」
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