無理やり攫ってきておいて、運命の番と出会ったからと捨てられました

九条 雛

文字の大きさ
21 / 33

第21話

しおりを挟む
 もう? ……もう、何なのでしょうか……?

 私には、リカルド様の眼差しの意味が分かりません。
 裏切ったのは彼のほうだというのに、どうしてそんな目を、するのでしょうか……?

 胸の内が、どろどろとしたもので埋め尽くされていくようでした。
 私は、リカルド様をキッと睨み付けました。
 鼻の奥がつんと痛み、嫌な予感はしているのに、勝手に口が開きます。

「あなたにそんな事を――ッ!?」

「行くぞ。ハロウズ侯、連れは気分が優れぬようなのでな。一旦失礼する」

 言われる筋合いはありませんッ! と言いたかったのか、言う資格はありませんッ! と、言いたかったのか。
 自分でも解っておりませんでしたが、どちらにせよ、言葉は最後まで発せられる事はありませんでした。
 私はフィルに腕を引かれて、その場から退散させられました。

「ま、待ってくれッ! フィリップ殿下!」

 そんな声が聞こえましたが、フィルは立ち止まる事なく、私をテラスへと連れ出しました。
 広い庭園と、多くの馬車、貴族たち。遠くには、城壁が見えます。
 ……あの女のいる離宮は、ここからは見えないようでした。

 私はフィルを睨み付けました。

「どうして邪魔をするんですかッ!」

「お前が傷付くからだ」

「――っ! 傷なんて、付きませんッ! 余計なお世話です!」

 嘘でした。
 あのまま感情に任せて喋っていれば、私は後悔する事になっていたと思います。
 ですが、何も言い返すことができないのも、苦しいです。
 私の心に溜まった『どろどろ』は、一体どうしろというのでしょうか? 

「……余計な世話ぐらい、焼かせろ。お前は俺の『共犯者』だ。心配は、する」

「っ、なんですか、それ……」

 意味が分かりません。だから、感謝もしない事にしました。
 私はそっぽを向いて、嘘吐きの『共犯者』に問いかけました。

「……名前、フィルっていうのは、愛称だったのですね。フィリップ殿下?」

「ああ、親しい者は、フィルと呼ぶ」

「…………私にそう呼ばせるのは、周囲に『聖女との繋がり』っていうのを、アピールするためですね?」

「それもあるが」

 フィルは一度言葉を区切って、それから、

「お前は俺の『共犯者』だ。ならお前が俺を『フィル』と呼んでも、何もおかしくはないと思った」

「なんですか、それ……」

 やっぱり、意味の分からない事を言いました。
 この人は、『共犯者』を友達か何かと、同列に考えているのでしょうか?

「……俺を『フィル』と呼ぶのは、今ではもうお前だけだ。……さて、落ち着いたならばもう行くぞ。予定の消化が少し狂ったが、俺の『共犯者』である聖女様には、皆の前でダンスを披露してもらわねばならん」

 すっと、差し出された手を、私は半眼で見下ろしました。

「……もう少し、気の利いた誘い文句はないのですか」

 今の私は滅茶苦茶、傷心なんですけど……。正直踊る気分じゃありませんよ。
 フィルは困ったように眉根を寄せて、それから仏頂面で言いました。

「では聖女様、どうか俺と踊って頂けませんか?」

 点数を付けるならば2点です。……まあ何点だろうと、私に断る選択肢はありませんけど。
 私は大きく溜息を吐き出してから、『共犯者』の手を取りました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

どんなあなたでも愛してる。

piyo
恋愛
遠征から戻った夫の姿が変わっていたーー 騎士である夫ディーノが、半年以上の遠征を終えて帰宅した。心躍らせて迎えたシエラだったが、そのあまりの外見の変わりように失神してしまう。 どうやら魔女の呪いでこうなったらしく、努力しなければ元には戻らないらしい。果たして、シエラはそんな夫を再び愛することができるのか? ※全四話+後日談一話。 ※毎日夜9時頃更新(予約投稿済)&日曜日完結です。 ※なろうにも投稿しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜

水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。 魔王乱立の時代。 王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。 だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。 にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。 抗議はしない。 訂正もしない。 ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。 ――それが、誰にとっての不合格なのか。 まだ、誰も気づいていない。 欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。

【完結】 ご存知なかったのですね。聖女は愛されて力を発揮するのです

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 本当の聖女だと知っているのにも関わらずリンリーとの婚約を破棄し、リンリーの妹のリンナールと婚約すると言い出した王太子のヘルーラド。陛下が承諾したのなら仕方がないと身を引いたリンリー。  リンナールとヘルーラドの婚約発表の時、リンリーにとって追放ととれる発表までされて……。

処理中です...