無理やり攫ってきておいて、運命の番と出会ったからと捨てられました

九条 雛

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第22話

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 景色がぐるぐると回っております。

 いつも練習していたより、やけにゆっくりなペースだなーと思っていたら、だんだんといつものペースになってきて、フィルが私を持ち上げてぐるんぐるんと回転しました。
 私は手を広げて天井を仰ぎました。シャンデリアがピカピカと眩しいです。目も回りそうです。やっぱり、獣人の方々のダンスはペースが激しいと思います。

 ひと段落すると、なぜか拍手が巻き起こりました。私は、ゆっくりと周囲を見回しました。
 ……なぜか、踊っている方々はだいぶ減っていました。皆さん休憩でしょうか?

 いえ、これは、休憩というより、観客……?

「凄い……。まさか聖女様が、『天空を舞う乙女』を踊れるとは……」

「見事なステップだ。豹の一族とて、ああは完璧には踊れぬぞ……」

「まるで『翼を持つ一族』の再来のようだ……」

 なんだか、むず痒くなるポエムみたいな単語が聞こえます。なんですかそれ……? 必殺技?

 私はフィルの顔を見ました。耳がピクピク動いていました。口元が、妙に真一文字に結ばれております。
 そっちもピクピクしてますね。笑うのを堪えていませんか?

「……あの、フィル? なぜ皆さん、踊らないのですか? もう私たちの他には、一、二組くらいしか……」

「素晴らしいです、聖女様。感服しました」

「へっ? あ、はい。どうも……?」

 フィルに質問していると、ふいに、近寄ってきた獣人の方に声をかけられました。
 長くて白い、兎耳の方です。男性のバニーさんなのですが、その場合、なんと呼称するのが正解なのですかね? バニーガールではないので、バニーボーイ……?

 ちなみに、どう見ても三十代後半くらいの方です。もはやバニージェントルメン。

「私は尾が短いもので、尻尾でのリードができませんでな。妻も兎の一族でして。よろしければ、尾と耳を使わずに意思を通わせる方法を、ご教授いただけたらと思います」

「え、えっと、目線……ですかね?」

「ほう」

 にこにこと笑顔で尋ねてくるので、私は反射的にそれっぽい事を言いました。
 私はフィルの目なんか見ていないので、完全に嘘っぱちです。それに口にしてから思い至ったのですが、バニーさん夫妻には長い耳があるので、参考にならないと思います。

 バニーの貴族様は頷いて、フィルと短い会話を交わし、奥方様のところへ戻って行きました。
 今さらちょっと後悔してます。正直に、ひたすら反復練習ですよと白状したほうが、良かったかもしれません。

 ……というかですね。

「……フィル、騙しましたね?」

「何がだ?」

「いつも練習していたこれです。完全に、上級者向けのダンスじゃないですか」

「……気付いていると思っていたが? バートンの奴は、『久々に良い教え子ができた』と張り切っていたな」

 私だって、おかしいと思わなかったわけではありません。
 でも最初の練習のときから、フィルはぶんぶんと私を振り回しましたし、バートンさんとの練習は、『初歩』と言われて教わったうちから、息切れを起こすほどでした。

 元々彼らとの体の作りも、そして文化も違うのですから、これが獣人の普通のダンスだと言われたら、普通なんだと思って必死に覚えますよ……。他にやる事も、あまりなかったですし。

 というか、バートンさんの教え方が上手かったのもあると思います。
 周りは感心しているようですが、いまだに私はフィルと踊るより、バートンさんと踊るほうが上手く踊れます。フィルとだと、80点くらいの出来栄えです。バートンさん、彼は一体何者なのでしょうか……?

 物思いに耽り、フィルに向けていた視線を逸らすと、ふと視界の端に、リカルド様の姿が見えました。

 壁際付近に佇むリカルド様は、目が合うと私から視線を逸らし、そしてもう一度、私を見ました。
 睨むような、恨むような、もはや憎んでいるような、そんな目でした。私は顔を伏せました。

「気にするな。奴は『病気』なだけだ。番という『病』が治れば、その心も元通りになるだろう」

「……はい」

 視線から庇うように体の位置を移動させ、フィルが慰めを口にしました。
 きっと、そうはならない。と思いましたが、私は小さく頷きました。

 ……どのみち、リカルド様とミーシャの番が解消されたとき、その場にはもう、私はいません。

「皆の者、静粛に! 国王陛下から、お言葉を賜れるぞ!」

 広間に、大きな声が響き渡りました。
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