26 / 33
第26話
しおりを挟む
床下に潜り込むと、フィルが手を差し伸べているのが見えます。
私は這うようにして、そちらへ向かいました。ドレスの裾が、凄く邪魔です。
「行くぞ。頭を上げるなよ」
「――っ」
ぐいっと引っ張られ、庭園のほうへと連れ込まれました。
なんというか今さらですが、ここまでする必要はあるのですかね? 普通に扉から出たらダメなのですか。
手を引かれたときに頭を打ちそうになったのもあり、私は半眼でフィルを睨み付けました。
フィルが耳配せ(と言ったらいいのでしょうか)した方角を見ると、お城の兵士さんたちが、遠くで馬車を見ています。
彼らの目を欺くために必要という事なのでしょう。結構、無茶だと思いますが。
この辺り、やっぱり基準が獣人族なのだなぁと思います。やり方が忍者じみています。
「こっちだ」
「速いです、もう少しゆっくり、」
「止まれ。……よし、行くぞ」
「もうっ!」
兵士さんたちの目を避けて、庭園の中を進みます。
奥へ進むほど、緑の壁のような生垣が増え、周囲の様子はまるで迷路のようになっていきました。
庭園を見下ろすバルコニーが見えなくなったあたりで、やっとフィルは私の手を離しました。
彼が背筋を伸ばしたので、私も屈めていた姿勢を戻します。緊張もあり、短い時間で結構疲れました。
ダンスの練習をしていなかったら、運動不足で付いて来れなかったかもしれません。
「……ここだ」
「ここ、ですか? 何も無いように見えますが」
「少し待て、確か、この辺りに……」
庭園の中すらも抜けて、私とフィルは城の裏手側のような位置へと辿り着きました。
フィルが屈みこみ、草原をわさわさと探っています。
私はまるで泥棒の片棒を担がされているような気分で、辺りの様子を窺いました。
しんと静まり返った夜の闇が、私たちを包み込んでいます。
先ほどまで参加していたはずの舞踏会の喧騒は、遥か昔の出来事のように思えました。
「あったぞ。これで……」
ぶつぶつと呟きながら、フィルが地面を持ち上げます。
カモフラージュのための草が植わっている蓋が退けられると、地面にはぽっかりと深い穴が開いていました。
覗き込むと、真っ暗な中へ階段が続いているのが薄っすら見えます。
平時なら、絶対に入りたくないような空間でした。
「……なんだか、秘密の入り口みたいですね」
「みたい、ではなくそれそのものだ。まあ、秘密の『出口』といったほうが正しいのだろうが」
気を紛らわすためだけに述べた私の感想に、フィルが律義に返事をしました。
彼はポケットから小さな石を取り出すと、そのままさっさと穴の中へ入って行ってしまいます。
ふわりと、青白い光が暗闇を照らし出しました。
あの石は『発光ジェム』というそうです。懐中電灯のようなものですね。動力は電気ではなく魔力ですが。
付いていかないわけにもいかないので、私も恐る恐る、階段へと足を踏み入れました。
フィルの持つ灯りがあるとはいえ、穴の中は奥のほうまでは見通せません。
まるで切り取られた闇の中、私たちと石階段だけが浮かび上がっているような光景でした。
空気はじっとりと湿っており、淀んでいるのを感じます。
履いている靴の踵が高いので、進むのがとても怖いです。
「……ここは城が攻め込まれたときに、王族が逃げるための隠し通路の一つだ」
私にペースを合わせてか、ゆっくりと階段を下りながら、フィルがぽつりと言いました。
踏み外さないよう足元に注意をしながら「そうなんですね……」と相槌を打ってから、私はふと気になって彼に問いかけます。
「……それって、あのライオンの王様も、知っていたりしないのですか?」
私は這うようにして、そちらへ向かいました。ドレスの裾が、凄く邪魔です。
「行くぞ。頭を上げるなよ」
「――っ」
ぐいっと引っ張られ、庭園のほうへと連れ込まれました。
なんというか今さらですが、ここまでする必要はあるのですかね? 普通に扉から出たらダメなのですか。
手を引かれたときに頭を打ちそうになったのもあり、私は半眼でフィルを睨み付けました。
フィルが耳配せ(と言ったらいいのでしょうか)した方角を見ると、お城の兵士さんたちが、遠くで馬車を見ています。
彼らの目を欺くために必要という事なのでしょう。結構、無茶だと思いますが。
この辺り、やっぱり基準が獣人族なのだなぁと思います。やり方が忍者じみています。
「こっちだ」
「速いです、もう少しゆっくり、」
「止まれ。……よし、行くぞ」
「もうっ!」
兵士さんたちの目を避けて、庭園の中を進みます。
奥へ進むほど、緑の壁のような生垣が増え、周囲の様子はまるで迷路のようになっていきました。
庭園を見下ろすバルコニーが見えなくなったあたりで、やっとフィルは私の手を離しました。
彼が背筋を伸ばしたので、私も屈めていた姿勢を戻します。緊張もあり、短い時間で結構疲れました。
ダンスの練習をしていなかったら、運動不足で付いて来れなかったかもしれません。
「……ここだ」
「ここ、ですか? 何も無いように見えますが」
「少し待て、確か、この辺りに……」
庭園の中すらも抜けて、私とフィルは城の裏手側のような位置へと辿り着きました。
フィルが屈みこみ、草原をわさわさと探っています。
私はまるで泥棒の片棒を担がされているような気分で、辺りの様子を窺いました。
しんと静まり返った夜の闇が、私たちを包み込んでいます。
先ほどまで参加していたはずの舞踏会の喧騒は、遥か昔の出来事のように思えました。
「あったぞ。これで……」
ぶつぶつと呟きながら、フィルが地面を持ち上げます。
カモフラージュのための草が植わっている蓋が退けられると、地面にはぽっかりと深い穴が開いていました。
覗き込むと、真っ暗な中へ階段が続いているのが薄っすら見えます。
平時なら、絶対に入りたくないような空間でした。
「……なんだか、秘密の入り口みたいですね」
「みたい、ではなくそれそのものだ。まあ、秘密の『出口』といったほうが正しいのだろうが」
気を紛らわすためだけに述べた私の感想に、フィルが律義に返事をしました。
彼はポケットから小さな石を取り出すと、そのままさっさと穴の中へ入って行ってしまいます。
ふわりと、青白い光が暗闇を照らし出しました。
あの石は『発光ジェム』というそうです。懐中電灯のようなものですね。動力は電気ではなく魔力ですが。
付いていかないわけにもいかないので、私も恐る恐る、階段へと足を踏み入れました。
フィルの持つ灯りがあるとはいえ、穴の中は奥のほうまでは見通せません。
まるで切り取られた闇の中、私たちと石階段だけが浮かび上がっているような光景でした。
空気はじっとりと湿っており、淀んでいるのを感じます。
履いている靴の踵が高いので、進むのがとても怖いです。
「……ここは城が攻め込まれたときに、王族が逃げるための隠し通路の一つだ」
私にペースを合わせてか、ゆっくりと階段を下りながら、フィルがぽつりと言いました。
踏み外さないよう足元に注意をしながら「そうなんですね……」と相槌を打ってから、私はふと気になって彼に問いかけます。
「……それって、あのライオンの王様も、知っていたりしないのですか?」
36
あなたにおすすめの小説
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
どんなあなたでも愛してる。
piyo
恋愛
遠征から戻った夫の姿が変わっていたーー
騎士である夫ディーノが、半年以上の遠征を終えて帰宅した。心躍らせて迎えたシエラだったが、そのあまりの外見の変わりように失神してしまう。
どうやら魔女の呪いでこうなったらしく、努力しなければ元には戻らないらしい。果たして、シエラはそんな夫を再び愛することができるのか?
※全四話+後日談一話。
※毎日夜9時頃更新(予約投稿済)&日曜日完結です。
※なろうにも投稿しています。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜
水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。
魔王乱立の時代。
王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。
だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。
にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。
抗議はしない。
訂正もしない。
ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。
――それが、誰にとっての不合格なのか。
まだ、誰も気づいていない。
欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。
【完結】 ご存知なかったのですね。聖女は愛されて力を発揮するのです
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
本当の聖女だと知っているのにも関わらずリンリーとの婚約を破棄し、リンリーの妹のリンナールと婚約すると言い出した王太子のヘルーラド。陛下が承諾したのなら仕方がないと身を引いたリンリー。
リンナールとヘルーラドの婚約発表の時、リンリーにとって追放ととれる発表までされて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる