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第30話
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「リカルドォッ! あの女を殺しなさいッ!!」
ミーシャ・フェリーネが叫びます。
その途端、今までぼうっと佇んでいただけだったリカルド様が急に剣を構えて、私に向かって近づいてきました。
「っ、リカルド、様……」
彼の動きはとてもゆっくりで、まるで見えない糸で操られているかのように、どこかぎこちないものです。
けれども確かに、リカルド様はミーシャの命令を聞き、私を殺そうとしているようでした。
「邪魔はさせないと、言ったろう?」
振り上げられた剣と私の間に、フィルが素早く割り込んできます。ギィンと、金属のぶつかり合う硬い音が響き渡りました。
「さあ! 早く行け!」
「……っ」
振り下ろされた刃を剣で受け止め、フィルが鋭く声をあげます。
リカルド様が私を殺そうとした事はショックでしたが、打ちひしがれてもいられません。私はフィルの言葉に従い、床に突き刺さる『聖剣』へと向かいます。
「待ちなさいよォッ!」
目の前に、ミーシャ・フェリーネが立ち塞がりました。
以前に顔を潰された恐怖が蘇り、足が竦みそうになります。勇気を出して彼女を睨み返しますが、私は力では獣人に敵いません。どうすれば……。
「お前の、お前のせいでえええッ! リカルドはァァァッ!」
「……私のせいで、何ですか? あなたのせいで、リカルド様はおかしくなってしまったのではないですか!」
お前のせい、と怒鳴られて、思わず私は言い返しました。
運命の番だなんてもっともらしい嘘を並べて、この女は卑怯な儀式で彼を操っていたのです。そして今も、リカルド様に私を殺させようとけしかけました。
「リカルドがお前の事ばかり気にするからァッ! 私は何度も儀式をしなきゃなんなくなったんでしょうがァ! 死んで詫びろォ! この醜い猿女ァッ!!」
ブスになった顔をぐしゃぐしゃに歪めて、ミーシャ・フェリーネが絶叫します。
醜いのはどう見ても、今の彼女の方でした。
ミーシャが伸ばしてきた腕を、私は慌てて避けました。
鋭い爪で引っ掻いてくるつもりなのか、ミーシャはさらに滅茶苦茶に腕を振り回します。
「アァァッ! この耳無しの猿女ァッ!!」
「っ……」
背後では、フィルとリカルド様の戦う音が響いています。
そちらを見ると、リカルド様はそれまでの呆けた様子が嘘のように激しく剣を振るっていました。
獣人同士の戦いは例によって激しさを増し、私には剣の動きが目に追えないほどです。あれではさすがに、フィルもこちらまで手が回らないと思います。
「死ねぇッ! 害獣がァッ!!」
「っ、このっ!」
怒鳴られ、振るわれた腕をさらに避けたところで、私は反射的にミーシャ・フェリーネの頬を張りました。
バチン! と乾いた音が響き渡り、ミーシャの顔が仰け反ります。
私はさらにもう一度、彼女の頬を張りました。
……あれ? 避けれる、それに叩ける……?
どうやらミーシャは儀式のやり過ぎで、とても弱くなっているようでした。
ならば顔を潰された仕返しを……と暗い感情が湧き上がりかけ、私はすぐに思いなおします。
ここへ来たのは、元の世界へ帰るためです。
彼女が脅威でないのなら、今のうちに早く『聖剣』を引き抜いて、フィルとの『共犯者』の契約を果たすべきでした。
「がっ――」
「……え、フィル」
ミーシャを両手で突き飛ばし、私は『聖剣』の前へと走り寄ります。
しかしその瞬間、すぐ隣にフィルが弾き飛ばされて転がってきました。
飛び散った赤い液体が、魔法陣の放つ青い光に照らされています。
フィルはお腹を押さえて丸まっていました。
倒れたまま起き上がる気配のない彼の口から、ごぽりと血が吐き出されました。
ミーシャ・フェリーネが叫びます。
その途端、今までぼうっと佇んでいただけだったリカルド様が急に剣を構えて、私に向かって近づいてきました。
「っ、リカルド、様……」
彼の動きはとてもゆっくりで、まるで見えない糸で操られているかのように、どこかぎこちないものです。
けれども確かに、リカルド様はミーシャの命令を聞き、私を殺そうとしているようでした。
「邪魔はさせないと、言ったろう?」
振り上げられた剣と私の間に、フィルが素早く割り込んできます。ギィンと、金属のぶつかり合う硬い音が響き渡りました。
「さあ! 早く行け!」
「……っ」
振り下ろされた刃を剣で受け止め、フィルが鋭く声をあげます。
リカルド様が私を殺そうとした事はショックでしたが、打ちひしがれてもいられません。私はフィルの言葉に従い、床に突き刺さる『聖剣』へと向かいます。
「待ちなさいよォッ!」
目の前に、ミーシャ・フェリーネが立ち塞がりました。
以前に顔を潰された恐怖が蘇り、足が竦みそうになります。勇気を出して彼女を睨み返しますが、私は力では獣人に敵いません。どうすれば……。
「お前の、お前のせいでえええッ! リカルドはァァァッ!」
「……私のせいで、何ですか? あなたのせいで、リカルド様はおかしくなってしまったのではないですか!」
お前のせい、と怒鳴られて、思わず私は言い返しました。
運命の番だなんてもっともらしい嘘を並べて、この女は卑怯な儀式で彼を操っていたのです。そして今も、リカルド様に私を殺させようとけしかけました。
「リカルドがお前の事ばかり気にするからァッ! 私は何度も儀式をしなきゃなんなくなったんでしょうがァ! 死んで詫びろォ! この醜い猿女ァッ!!」
ブスになった顔をぐしゃぐしゃに歪めて、ミーシャ・フェリーネが絶叫します。
醜いのはどう見ても、今の彼女の方でした。
ミーシャが伸ばしてきた腕を、私は慌てて避けました。
鋭い爪で引っ掻いてくるつもりなのか、ミーシャはさらに滅茶苦茶に腕を振り回します。
「アァァッ! この耳無しの猿女ァッ!!」
「っ……」
背後では、フィルとリカルド様の戦う音が響いています。
そちらを見ると、リカルド様はそれまでの呆けた様子が嘘のように激しく剣を振るっていました。
獣人同士の戦いは例によって激しさを増し、私には剣の動きが目に追えないほどです。あれではさすがに、フィルもこちらまで手が回らないと思います。
「死ねぇッ! 害獣がァッ!!」
「っ、このっ!」
怒鳴られ、振るわれた腕をさらに避けたところで、私は反射的にミーシャ・フェリーネの頬を張りました。
バチン! と乾いた音が響き渡り、ミーシャの顔が仰け反ります。
私はさらにもう一度、彼女の頬を張りました。
……あれ? 避けれる、それに叩ける……?
どうやらミーシャは儀式のやり過ぎで、とても弱くなっているようでした。
ならば顔を潰された仕返しを……と暗い感情が湧き上がりかけ、私はすぐに思いなおします。
ここへ来たのは、元の世界へ帰るためです。
彼女が脅威でないのなら、今のうちに早く『聖剣』を引き抜いて、フィルとの『共犯者』の契約を果たすべきでした。
「がっ――」
「……え、フィル」
ミーシャを両手で突き飛ばし、私は『聖剣』の前へと走り寄ります。
しかしその瞬間、すぐ隣にフィルが弾き飛ばされて転がってきました。
飛び散った赤い液体が、魔法陣の放つ青い光に照らされています。
フィルはお腹を押さえて丸まっていました。
倒れたまま起き上がる気配のない彼の口から、ごぽりと血が吐き出されました。
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