慟哭の10秒間

あす

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慟哭の10秒間

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「降りて...」

ハルはとっさに渋谷で山手線のドアからホームに駈け降りる。

電車は渋谷から恵比寿へ向かって発車後すぐに爆発した。私の乗っていた8号車は火の海となり、悲鳴はやがて慟哭へと変わった。

スマホを握った若い女性が壁にひどく打ち付けられ、床でもぞもぞと動いた後、直ぐに動かなくなった。

──

ハルは今日もSNSアプリ「LIME」でメッセージチャットを始めた。「おはよう!」青い矢印ボタンを押して送信する。

確か半年前だったと思う。気がついたら赤い矢印ボタンに変わっていた。

こんなのはアニメの中の空想の世界だけの話だと思っていた。しかし、この赤い矢印ボタンは現実にある。

量子力学が解明され、量子もつれの原理を元にして多重エンタングルメントが現実のものとなった、いわゆるタイムスリップである。

わずか10秒間という短い時間だけれども、過去の世界にメッセージが送れるようになった。

そしてこの機能は私のLIMEにしか存在しない。と言うことは、私にしかこのメッセージは送れないと気づいたのは、つい最近のことだった。

放課後、新宿から目黒の自宅に向かっていた。私はいつも戸袋の横に寄りかかり、たまに外を眺めながらスマホをいじっている。

渋谷を過ぎたその時、爆発が起こった。

必死にスマホを手に握りしめ、残された僅かばかしの力で文字を打つ。そして赤いボタンを押したところで意識が無くなった。

──

ハルは、渋谷駅のホームを歩きながら赤いボタンの意味を考えた。

そして一つの解にたどり着いた。
過去の私にメッセージを送っていたわけではない。

私は「エヴァレットの多世界解釈」を思い出す。

赤いボタンを押すことで量子もつれが起こったこと。

僅か10秒間だけだが私が別々の世界に2人存在したと言うこと。

そして向こうの世界のハルは、私に危険を知らせてくれて助けてくれたこと。

そして、ハルはもういない。

「ハル、ありがとう」

赤いボタン、それはパラレルワールドへの入り口だ。
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