異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第六話

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 朝まで寝れなかった。それでも一時間くらいは寝れたか。プリシラさんはかなり良かった。喰われなかったし、片腕を折られたくらいで済んだ。
 
 
 次はクリスティンさんかアラナかな。体育会系は我慢を知らないから。それにしても大人しいクリスティンさんがドアの前に立って何を聞いていたのだろう。
 
 ドアのノックの後に無言でクリスティンさんが入ってきた。ノックの後は「失礼します」とかあるだろうに。失礼には失礼で返そう。
 
 「おはようございます。どうしましたかクリスティンさん?」
 
 ベッドから裸のまま起き出し、朝から元気な下半身も起き出したままクリスティンさんに挨拶してみた。
 
 「……おはようございます、団長。    ……昨日の尋問が終わりました」
 
 動揺しているのか、普段のままか、表情では読めないクリスティンさん。このまま近づいたらどうなるか試してみたい。
 
 「お疲れさま、昨日の人はいったい誰だったんですか?」
 
 僕は歩みを止めず近づく。クリスティンさんはジリジリと後退りしていく様にも見えるが表情は変わらない。 ギリギリまで攻めてみるか。
 
 胸が痛む。心臓をギュッと捕まれているような感覚。息が出来ない。胸に手を添えても何も変わらず痛みが走る。
 
 これがクリスティンさんの「不幸にも心臓発作」か。これはスゴイ。前にも何度かあるけどパワーアップでもしたのか。痛みで顔が歪む。言葉も出せない。膝から崩れ落ちる。
 
 「……失礼します」
 
 ドアを抜けて何事も無かったかの様に帰るクリスティンさん。離れるほど痛みも遠退き、呼吸も出来る。
 
 「ガハァ!」
 
 自分でも信じられないくらい大きく息をした。クリスティンさんの「不幸にも~」はヤバイだろ。ノーアクションで心臓を捕まれるなんて防ぎようがない。
 
 クリスティンさんは白百合団でも、いや街や王都でも比べられないくらい美人だけど比べられないくらいヤバイ人だ。今日はクリスティンさんの番だったな。ちょっと憂鬱。
 
 
 
 寝ぼけているプリシラさんに下に集まる様に伝え、置き土産のキスマークを付けてから服を着て……    上着は切り裂かれてボロボロだったので捨て、パンツだけを履いて別れた。最後に手を振ってたから来るだろう。もしかして、追い払う為に手を振ったのかも知れない。
 
 「おはよッス、団長」
 
 やっぱり朝は元気な挨拶が、一日を気持ち良く働かせてくれる。アラナはその辺りが分かっているのだろう。いつも元気なアラナの笑顔が、僕の折れた腕の痛みを消してくれる。
 
 「おはよう、アラナ。気持ちのいい朝だね」
 
 砦の攻略は上手く行ったし、怪我人はプリシラさんの矢が刺さった小さな傷と僕の折れたら腕くらいだ。ハートルーク伯爵もきっと満足してくれるに違いない。
 
 「団長、朝ごはん食べたッスか?    用意が出来てるッスよ」
 
 なんて気が利くんだろうアラナは。見習って欲しい人が二人ほど思い付くよ。上で寝てるやつと、怪しい黒魔術を使うやつ。
 
 「まだだけど、先に報告を受けようかと思ってね。みんなで食べながら聞こうか」
 
 もしかして、アラナの手作りかな。料理の腕前は知ってるだけに期待が持てる。長い移動のある傭兵稼業、料理の一つも出来ないとね。見習え!    二人!
 
 「団長の為に作ったッス。食べて欲しいッス」
 
 報告は後だ。そんなもんはアラナの料理の前にはどうでもいい。夜通し働いてお腹も空いてるし、先に食事をしてから報告を聞こう。僕はアラナの後に着いて、食堂ではなさそうな部屋に入った。 
 
 「どうッスか!?    うまそうッスよね?」
 
 窓の無い部屋の真ん中に、木箱が一つ。その上には羽をむしられ丸焼きになった鶏肉が置かれて、汚れた木のコップとエールらしきものがあった。
 
 そこまではいい。そこまではいいんだが、ローソクの置き方が木箱を大きく囲むように何本も立てられ、見方によっては魔方陣の中に置かれた生け贄。
 
 これがルフィナだったら速攻で逃げる。生け贄は僕になるだろうから。悪魔か天使か呼ぶのにつかわれるのはゴメンだ。
 
 だけど、これを用意したのはアラナだ。少し方向性が違うけど、危ない物はないだろう。ただ、朝から油ギッシュな鳥の丸焼きはどうだろうか。
 
 「ありがとう、アラナ。ここに座っていいのかな」
 
 振り返って聞く間も無く、猛然と僕の両足にタックルを決めるアラナ。右手で受け身を取ろうとすると、身体を捻ってひそれを許さないアラナ。朝食だよね?    これからの時間は……
 
 「ぐふぇ!」
 
 背中を強打した事も痛いが右膝に鋭い痛みが走る。いったい何がしたいんだ!   やっぱり「儀式」か!?    悪魔でも呼ぶつもりなのか!?
 
 「団長、どうッスか?    プリシラ姉さんに似てるッスか?」
 
 似てる?    何が似てるの?    身長、体重、バスト、ウエスト、ヒップは全てプリシラさんの方が上だぞ。毛の色だって赤毛と銀灰色で似てないのに。
 
 「ど、どこが……」
 
 折れた左腕、ひねられた右膝。狂暴さが似てると言って欲しいのか?    戦っていた白百合団のメンバーより怪我してるってどうよ。
 
 「美味しい食事と雰囲気のあるローソクッスよ。団長も見たッスよね。プリシラ姉さんと同じッス」
 
 その辺りは真似てみたんだね。方向性は合ってると思うけど、少しカーブが掛かったかな。タックルだからフォークボールか。
 
 「それは良いとして、この僕達の状況はどうなるの!?」
 
 「押し倒したッス」
 
 それは分かる。それも方向性が違う。前のめりに倒れた僕が手を着いて怪我を防ごうとした時、それを防ごうとして身体ごと捻ったアラナの力に乗せられ、背中を強打、右膝損傷、立ち技最強でも決めたかったのか!?
 
 「食事はどうなるのかな……」
 
 「食べさせてあげるッス。僕は団長を食べるッス    ……これもプリシラ姉さんの真似ッスね」
 
 はにかむ顔が、また可愛い。    ……バカか!?    どうしろって言うんだ。腕が折れてるんだよ、膝が痛いんだよ。膝の痛みに効くテレビショッピングや次の日には届けてくれるネットショッピングはないんだよ!    まずはソフィアさんを呼んで来い!
 
 「やっぱり団長の身体って最高ッス」
 
 上に乗ったアラナのグラインドで僕が気持ち良かった事は認めよう。ただ抱き合いながら鶏肉を切り分け食べさせてくれたり、エールを口移しで飲ませてくれる時、無理に押し込むのは止めてくれ。
 
 アラナが満足するまで団則の報酬は払われ続け、満足する以上に鳥の丸焼きを食べさせられた。アラナの手は僕の身体を優しく這う様に撫でたが、鋭い爪は容赦が無く、上半身を切り刻んだ。
 
 「アラナ、大丈夫ですか?    下に集まって下さいね」
 
 にへへっと、笑うアラナの意識はここに有るのだろうか。返事の様に返していたし、大丈夫だろう。むしろ大丈夫じゃないのは僕の方か……
 
 左腕骨折、右膝損傷、上半身を鋭い爪で切り刻まれ血だらけ。救急車を呼んでも良いくらいだ。それでも白百合団の団長職に着く以上、休んでなんかいられない。
 
 ソフィアさんを探そう。ソフィアさんの魔法に掛かれば、どんな傷だって治してしまう。昨日のプリシラさんを射った人だって直ぐに治してしまったのだから。
 
 足を引きずり、腕を押さえ、血だらけになって歩く僕をルフィナが見付けたらゾッとする。間違いなく追い込みを掛けられる。
 
 だが日頃の行いが良い僕を神様は見捨てなかった。    ……あのいい加減な神様よりソフィアさんに見捨てられなかったのが至高の喜びだ。
 
 「どうしたんですか!?    大丈夫ですか!?」
 
 見れば分かると思うけど、全治一ヶ月くらいだと思うよ。そこはソフィアさんの得意な魔法で、ささっと治してもらわないと。
 
 僕はソフィアさんに連れられ砦の医務室に向かった。魔法だけでは対処出来ない事もあるので、薬品や包帯等が置かれている棚もあり、ちょっとした保健室だ。
 
 白衣とは違うが白いローブ姿のソフィアさんは保健の先生か。僕はベットに寝かされ乾き始めた血を濡れた布で拭いてもらった。
 
 「ボトムスも脱いでもらっていいですか?    膝や腰の方も見たいので」
 
 魔法なら見ないでも良いのではと思うが、先生が言うなら従おう。これで、ソフィアさんが赤いミニスカートのスーツ姿に白衣で、なおかつ眼鏡を掛けてくれたら僕の理想の保健の先生が出来上がる。
 
 僕は大人しくボトムスを脱ぎ、パンツ一丁でベットに寝転んだ。身体の血は拭いてもらったし、後はソフィアさん任せだ。睡眠時間も少なかったし、保健室のベットで仮眠を取らせてもらおう。
 
 僕がウトウトと微睡みに入る暇も無く、折れた腕に感じる柔らかい感触。何気なく見ればソフィアさんが口を着けているような……
 
 「ソフィアさん……    魔法は……」
 
 「魔法を掛ける為の事前準備です。団長は気にしないで眠っていていいですよ」
 
 魔法の知識が無い僕は、先生が「イエス」と言えばそれに従う以外は無い。昨日の人には事前準備なんて無かったのに、僕には有るなんて……
 
 先生が普段と違うことをすれば患者は不安に思う。事前準備とか言ってるけど、本当は「癌検診」とかじゃないよね。日頃の不摂生から胃にポリープくらいは有りそうだけど。
 
 不意に口をなぶられる。ソフィアさんの舌が入って来て、口の中の物を全て舐め尽くす勢いに僕は防戦も出来ずにヤられるがままだった。
 
 「はい?」
 
 ソフィアさんは何事も無かった様に、アラナに切り裂かれた僕の身体の傷口を舐め回した。うん、気持ちいい。    ……そうじゃねぇな。ソフィアさんはいったい何をしたいんだ!?
 
 「ソフィアさん、これは……」
 
 これは癌検診より愛撫だろ。魔法で治してくれるのかと思ったのにソフィアさんは何をしたいか、僕の迷いが判断を鈍らす。
 
 自慢のペティナイフが涼しくなったと思うと、すぐさま粘液混じりの暖かいものに包まれた。何事!?    身体を起こして下を見れば、在るべき所にある物はソフィアさんの口の中へ。
 
 「ソ、ソフィアさん!」
 
 上目遣いのソフィアさんと目が合う。が、何事も無かった様に僕のペティナイフを咥え続け、部屋の中には淫らな音が。
 
 これも治療の一貫なのだろうか。保健の先生と生徒の秘めた行為を勝手に想像しながら、僕は官能の世界へと落ちていく。
 
 「ご馳走さまでした」
 
 ソフィアさんの治療は思っていたより早く終わってしまい、もう少し頑張れ自分と、ペティナイフに言い聞かせた。
 
 「あの……    痛みが取れてないのですが……」
 
 「ああ、そうでしたね。■■■■、治癒。これで大丈夫です」
 
 官能の時間は十分足らず、治癒時間は一秒足らず……    少なくとも心は癒された。ソフィアさんの治癒は偉大だと改めて思った。
  
 
 プリシラさんにキスマークを着けてから二時間。僕はみんなを待たせているのかな?
 
 
 
   
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