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第二十三話
しおりを挟む剣を抜き邪魔な盾を捨てる。クリスティンさんが引くより先にオーガの心臓に剣を突き刺し背負う形で剣を肩口まで切り上げた。
「クリスティンさんは下がっていてください」
向かい合って言った言葉の是非も聞かず、アラナと戦っていたオーガの首を神速で跳ねた。
「アラナ、皆の所に行って」
あまりの速さに僕の姿を認識が出来た者は少なかったであろう。それほどの速さ。それほどの怒り!
「プリシラさん、大丈夫ですか?」
オーガとの間に割って入るように立つ僕にプリシラさんは、
「あ、あぁ…… 」
と、しか言えなかった。
「すぐに終わらせますよ。傷はソフィアさんに治してもらいましょう」
振り替えってオーガ五体が血まみれで倒れるまで、一分と経たなかった。簡単に死ぬくらいなら最初から死んでいろよ。プリシラさんの顔に傷をつける前にさ。
「プリシラさん終わりましたよ。傷はソフィアに治してもらいましたか?」
「あ、あぁ……。 大したことないよ……」
「後が残ったりしたら大変です。ソフィアさんプリシラさんをお願いします。 ……僕はちょっと休ませてください。……なんかおかしい…… 」
「だ、大丈夫ですか。魔法で……」
「プリシラを治せと言った!」
「 ………… 」
「すみません。プリシラさんをお願いします。僕は屋敷の適当な場所で休みます」
なんでソフィアさんに怒鳴ってしまったんだろう。気持ち悪い。頭の中がぐるぐる回る様な、よく分からない感じ。
屋敷にはもう傭兵達が入り込んでいたが、中は静かなもので僕は手近な部屋のソファに寝転んだ。心配したアラナは付いて来たけど。
「一人にして……」と言うと部屋のドアを閉めて外に出てくれた。アラナにまで心配をかけるとは情けない。しかし、さっきの気持ち悪さは何だったんだろう。チートは前にも使ったし剣も振った。変わった事はしてないつもりだったんだけど……
答えの出ない考えをしているうちに、気持ち悪さも取れて頭もスッキリし始めた。それと同じくしてドアの外が騒がしくなってきた。
ドアの外に出ると白百合団と騎士団が睨みあってる。とても「にらめっこ」や「ナンパ」をしているようには見えない雰囲気。一発ギャグでも放つか?
「どうしました?」
「貴様が団長か! 早くそこをどけ」
なぜか怒鳴られる僕。どうやら白百合団のみんなが休んでいる僕に気を使って、見聞に来た騎士団を追い払っていたらしい。いい所があるじゃない。
僕に話し掛けた騎士は白百合団を退かせて、ずかずかと割って入って来た。騎士に道を譲ったが、「女の躾くらいしておけ!」と譲った僕の肩を、なお押し退けて進んだので思わず殴ってしまった。
ヤバいなぁ。僕ってこんなに喧嘩っ早かったかな。チートを使ったからかな。それとも白百合をバカにされたからか。
高まる緊張。プリシラさんなんて怖い笑みを浮かべてるし、アラナは爪を出すし、クリスティンさんは…… 偉い。以前なら「不幸にも~」が発動されるのに、まだ誰も死んでない。もしかして全員をロックオン中か。
「止めなさい。双方、引くように」
年の頃は三十代前半かな。女性の歳を詮索するのは悪い癖。ローブを纏っているが顔は見せ、銀眼の鋭い目に端麗な顔立ち、ハイダ・クリーゼル伯爵。ここで会うはずの無い女性。ヌーユの戦いで死ぬ運命の女性。
「失礼しました。クリーゼル伯爵」
「ほう、私を知っていますか。どこかで会いましたか?」
「お噂をいろいろと……」
「良い噂だけを信じて下さい。 騎士団は見聞を。団長様はこちらへ」
伯爵様ともあろう人が傭兵風情に「様」を付けるなんてロクな事が無い。が、無視する訳にも行かないのです。彼女は雇い主ですから。
僕は伯爵様に促されて小さくもない部屋に入ると、いきなりの押し倒されて「愛してます」なんてシーンは想像だけに終わった。
「オーガと戦っていましたね」
いきなり来たが、美人とはもう少し楽しい話をしたい、一緒にお茶を楽しみたい、愛を語らいたい。
「はい。なかなか強かったです」
「嘘です。遠目でしたが見てました。あっと言う間に倒しましたね。オーガはその程度でしたか?」
良く見ている。もしかしてストーカー? 彼女の銀眼で見られると嘘も言えなくなりそうだ。嘘ではないんだけどね。
「強かったのは本当です。白百合団でも手こずりましたから。僕はちょっと特殊なんです」
「そうですか。……今回の件についてどのくらい知っていますか?」
「何も。 ……僕ら傭兵には何も伝えられませんから」
「そうですか。あのオーガの件はまだ内密にお願いします。いずれ公表するでしょうから」
「バレますよ。僕達が黙っていても他の傭兵は口が軽いですからね」
オーガ自体は強い。騎士でも三人で倒すのがセオリーになってるくらいで、傭兵なら十人がかりで襲うものだ。
強いのは当たり前として人間の味方に付く事はない。オーガには独自の社会性はあるが、人間なんてエサくらいにしか見ていない。
エサと協調する理由は無いから協調せざるを得ない理由がある。今回の鎮圧はそこら辺が問題なんだろう。考えてる事を察してかクリーゼル伯爵は続けた。
「今回の鎮圧はオーガが偶然居合わせた、と言う事です」
「分かりました。偶然居合わせたオーガも討伐した、ですね」
なるほどね、ある程度の筋道は出来てたのか。オーガが居たのは偶然で押し通る筋道ね。クリーゼル伯爵はニッコリ笑ってうなずいた。やっぱり綺麗だ。ソフィアさんもいずれこうなるのかな。ソフィアさんの方が胸は大きいけど。
今日は屋敷で泊まっていいと言う。適当な部屋を探して皆でゆっくり休むとしよう。ゆっくりと。休みたい。
「団長。戦時団則を行使したいです~」
適当な部屋を見つけて食料も用意され、暖炉には火がくべられていた。暖かい部屋に連れられて行った第一声がこれだ。 予想はしてたけどね。
「食べ物もあるんですね。暖炉に火を入れるのには少し早いですかね」
「この辺りは少し寒くなるって言ってました」
「そうなんですか。皆でゆっくり休みましょう」
「団長~。 戦時団則ぅ~」
話を反らしてるんだから乗れよオリエッタ。いいのか? 周りに見せても? 普通じゃない趣味は秘密にしておいた方がいいよ。
「それに付いては僕に話があります。今回の戦闘の件ですがオリエッタは壁を破り戦功があると思いますが、その後で味方も巻き込んでズタボロにしましたね。プリシラさん達はオーガと戦いましたが倒したのは僕で残りのオーガも僕が倒しました。戦時団則に乗っ取るなら僕が一番だと思うのですがどうでしょう」
どうだ! 一気に押し通してやるぞ。筋道は通ってる筈だ。異論が出る余裕すら与えないぜ。
「……そう言われてみればそうかもしれないな」
そうだろう。今回、一番活躍したのは僕だよ。プリシラさんも顔の怪我が消えて良かったよ。また今度、ゆっくり楽しもうね。剣は無しで。
「なので戦時団則に乗っ取って僕は休憩を……」
「なので戦時団則に乗っ取って団長を皆で楽しませよう!」
えっ!? 人の話を最後まで聞いて。
「最初はあたいだ。今まで通りに行くと思うなよ」
僕の右手にはクリスティンさんが左手にはアラナが右足にルフィナが左足にはオリエッタがしがみつきプリシラさんは腰に手を置き仁王立ちになっていた。ソフィアさんはドアが開かないようクローゼットをドアに立てかけていた。
「楽しませてもらうぜ!」
その一言に僕は休憩を諦めた。
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