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第三十三話
しおりを挟む「ハッハー、楽勝だな」
ライカンスロープの爪はフルプレートメイルを紙の様に切り裂きハリヌーク軍を肉塊に変えていく。僕は速さを生かしながら一人づつ確実に始末して常に動き続けた。
「プリシラさん、囲まれない様にして下さい」
「バックは任せたぞ!」
こっちも忙しいんだから、任せられるより「する」方が好き。噛まれる恐怖も刺される心配も少ないから…… 流石に二人では全部を倒しきれない。だが第七部隊も追い付いて攻撃に加わってきた。
「団長~。大丈夫ですか~」
一息付けるより気が抜ける。もう少しシャキッと出来ませんかね。オリエッタ達が流れ混んで来てくれたお陰で後方に引き状況の観察が出来る。
オリエッタはホームランを量産し、クリスティンさんの前は胸を押さえて苦しむ人の山、プリシラさんについてはもう敵に同情するくらいです。
「■■■■、毒の吐……」
神速でルフィナに近付いて後ろから頭をはたく。
「味方を巻き込むなって何回言ったら分かるんですか!」
敵も味方もルフィナの毒を喰らって、のたうち回る者やすでに絶命している者もいる。敵はどうでもいいが味方は後ろに運ばないとヤバイかもしれない。
「何をするのであるか。少し毒の吐息を飲んでしまったである」
少しくらい飲んだって死にやしねぇよ。元々、毒を作ってるのは自分だろう。自分自身の毒で死ぬもんか。
それより倒れている味方を後方に下げないと。投石機は止まっているから怪我人を運べばソフィアさんみたいな回復系の魔法使いが治してくれるはずだ。
第七部隊の戦線はプリシラさん達三人でも維持が出来そうな勢いで味方は巻き込まれまいと遠巻きに見て、敵も倒れた人を下げる事も無く、回復させる所からプリシラさんに二度殺される様な悲劇だった。
「だ、団長。少しだけ毒が回りそうだ……」
ふらつきながら僕に訴えるルフィナを抱き止めて下がり、味方にルフィナの穴を埋めてもらった。馬鹿な。自分自身の毒で死ぬのか。半分冗談で叩いたのが不味かったのか。
「ルフィナしっかりして下さい。すぐにソフィアさんの所に連れて行きますから」
僕がルフィナを抱えようとすると、ルフィナはこれを制して
「まずは毒を吸いだして欲しいのである。毒がある状態で動かされると毒の廻りが早くなるのである」
そうなのか。良くは分からないけど毒を吸い出すってのは聞いた事がある。毒を吸い出してソフィアさんの所に神速で運ぶ。吸い出す傷口ってどこだ?
「口である。毒の吐息が不発してしまって口内に毒が貯まってしまったようである。……少し頭がモウロウとするのである。私はちゃんと話せているであるか」
ヤバい。意識が混濁しているのか。叩いたりしなければよかった。調子に乗ってるルフィナを叱責する為でもあったけど事態は思っていたより深刻だ。
「すまないルフィナ。すぐにソフィアさんの所に連れて行きますからね」
どうやるのが正解か分からないけどルフィナの唇を奪い吸い上げてから吐き出す。確か口で吸ったりしたら吸った人も毒に犯されるって…… 関係ねぇよ。今は毒を少しでも吸い出してソフィアさんの所に届ける。
唇を奪い、吸い上げて、吐き出す。
唇を奪い、吸い上げて、吐き出す。
唇を奪い、吸い上げて、舌を絡めてキスをする。
唇を奪い、吸い上げて、舌を絡めてキスをする。
あれ? 途中から吐き出してないから。
「プハァ~。なかなかの美味。戦場での接吻は美味である」
言い終わると呆然としている僕をおいて、一人立ち上がりローブに付いた土を払い落としていた。敵との距離は五メートルくらい。そこでは剣や槍で殺し合い、命がけの攻防が行われている五メートル後ろで僕はルフィナと深いキスしてました。
「ど、毒は……」
「自分自身の毒で死ぬ馬鹿なネクロマンサーなどいる訳は無いのである」
ですよね~。心配した僕が悪いのか? 以前、似たような事があった気がするけど勘違いか? 力が抜けるね。
「味方を殺さないで戦線に戻って下さい。くれぐれも味方を巻き込む事は無い様にして下さい」
「承知したである。死ぬ馬鹿者は敵である」
根本的に考え方が違うのだろうか。僕の説明が悪いのだろうか、今だに頭を抱えボキャブラリーの無さに気落ちする。とにかく倒れている味方を下げないと。ルフィナの事はそのあとだ。
僕と何人かで怪我人を第七部隊の後ろまで引きずり第八部隊に手を振って怪我人がいるので救助がいるサインを出し何人か残して前線に戻った。
前線では白百合団が凶悪に活躍中、味方も戦いに加わり僕達、左翼は優勢に戦いを推し進める様に見えた時、間を割くように頭上からゴーレムが降ってきた。
おそらく投石機を担当していた者であろう、その体格は約七~八メートルほど。それが巨大な棍棒を降り下ろすのに恐怖しないものは白百合団以外にいない。
クリスティンさんだけは後方に下げないと。ゴーレムに心臓はないし、何より運動神経が人並み以下のクリスティンさんがゴーレム相手に戦える訳がない。
クリスティンさんを肩に抱き上げ神速を使って後方まで跳び抜ける。クリスティンさんはアーマーを着ていても神速を使えば問題なく運べるくらい軽い。もう少し食べて豊満とまでは言わないが肉付きがいい方が良い。
もちろん傭兵の仕事においてと言うことで、決して抱き心地をどうとか言っている訳ではない。
肉を付けると言う事は筋肉を付けると言う事になり、より丈夫なアーマーや攻撃力の高い武器を持てると言う事で決して豊満な胸を揉みほぐしたいとか言っている訳ではない。
この事に付いては後で話そう。誤解が無いようにじっくりと……
「クリスティンさんはゴーレムがいる間は下がって、ここにいる怪我人を見ていて下さい。第八部隊から回復系の魔法使いがくる予定になってますから」
「あ、……私も。……キスを」
騒乱の中で消え入りそうな声を出してクリスティンは訴えかける様に僕を見つめていた。あの乱戦の中で見てたのかよ。しかもクリスティンさんより後ろにいたのに見える訳がないよ。
でも見えてたんでしょうね。ここで怒らせても仕方がないし、ルフィナだけは不公平だと思えうのは僕だけだろうか。
腰を抱き寄せ固いアーマーと僕の皮鎧が密着しクリスティンさんと唇を合わせた。こっちが押してるし少しぐらい時間をもらっても構わないだろう。
時間をかけて舌をからませてから離すと同時に、目の前をプラチナ色の光が貫いた。
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