異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第二百二十三話

 
 事は上手く進んでいる。戦略に関しては……
 
 
 「まだ攻め込まねぇのか?」
 
 準備は整って来ている。マノンさんの指示は有能で物質の搬入や輸送の手段は整って来ているんだ。問題があるとすれば戦術面でだ。
 
 アシュタールは補給も無しに戦いたがるしロースファーは往復ビンタを喰らわせてでも、やる気を出させたい。ハルモニアに至っては物資の輸送に掛かりっきりだ。
 
  誰かが、まとめなければ軍として機能しない。例えしたとしても、ここまで乱れていたら各個撃破で敗退は免れない。せっかく集まった騎士団も今は烏合の衆と成り果ててる。そんな時に問題を解決し、問題を起こしてくれる人がやって来た。
 
 
 
 「遅いぞ、シン男爵」
 
 寝てねぇんだよ。目の下のクマを見てから文句を言いやがれと、心の叫びをグッと抑え「申し訳ありません」と上司には逆らえない平の男爵とは僕の事だ。
 
 集まったのはアンネリーゼ女王陛下を始めハルモニアのクノール伯爵と僕との婚約破棄に応じていないエルンスト伯爵。ユーマバシャール君と新米男爵のフリートヘルム。
 
 ロースファーからは第三王子のマークバイマー・ロースファー様と偉そうなオジサン二人。マークバイマー様は、アンネリーゼ女王陛下を手に入れたと思ってか、全身をイヤらしい目で見てる。抉ってやろうか。
 
 アシュタールからは僕を怒鳴った、遠征軍総司令ユリシーズ・ファウラー侯爵と同じく偉そうな三人に、可愛らしいお嬢さん。侯爵の娘さんだろうか、こちらに向かって手を振っている愛想のいい人みたいだ。
 
 こんな偉い人ばかりだと緊張する。僕は何処に座ればいいのだろうか、席次表はどこにある?    見渡せば空いてる席が二つ、アンネリーゼ女王陛下の隣とファウラー侯爵様の隣。
 
 もちろん僕はアンネリーゼ女王陛下の側に座ろうとした。オジサンの隣は嫌だから……    そんな僕を呼び止める声は聞きたく無い。
 
 「シン男爵、アシュタールの男爵ならこちらに座らんか」
 
 座りかけた僕をファウラー侯爵は制した。確かにアシュタールの男爵だし、向こう側に座るのが筋なのかな?   僕は腰を上げると、今度は隣からいい香りと優しい声が。
 
 「シン男爵は現在、ハルモニアに傭兵として従軍しております。戦時協定ではこちらに座るのが筋かと思います」
 
 そう言うと僕の服を掴んで椅子に座らせた。何か僕を取り合ってる様にも感じるけど、もしかして人気者か!?    
 
 「この!    小国の……」
 
 「まあ、いいでは無いか。シン男爵はアシュタールの男爵なのだし」
 
 ファウラー侯爵を止めに入った小娘。随分と偉そうな物言いだけど何者だ?    見覚えは……    あるような……    無いような……    あるような……    ある!    思い出しただけで血の気が引く。    
 
 「マロリー様がそう言われるのなら」
 
 マロリー準侯爵。メリッサ・フィオナ・マロリー準侯爵様。親は皇帝陛下の親戚筋の公爵。オリエッタの武器制作のスポンサーで多額の借金があって、帝都のヤり部屋に押し込んでヤッてしまった女性。
 
 血の気は引くが汗が吹き出す。もしかして借金の催促か!?    いや、それは地道だが返済してるし問題は無い。超振動のハルバートを白百合団の新メンバーに与えた事か!?    それも正式には白百合団だし問題は無い。
 
 そうなると、やっぱり、正解は……    僕とアンネリーゼの仲を裂く為に来たんだな!    ヤり部屋の事をチクるつもりに違いない。あぁ、僕の国王への道が遠ざかる。
 
 「話を進めてもよろしいですか?」
 
 僕のガラスのハートを横に、ユーマバシャールは話を進めた。ユーマ君と元執事、現男爵のフリートヘルムは次々に報告をあげていたが、僕はそれ所じゃなかった。
 
 メリッサ嬢は何かにつけて僕に向かって手を振るし、それを睨む様なアンネリーゼ女王陛下。気分は二又がバレる寸前の男の子。もうガラスの心臓にヒビが入りそうだよ。誰か強い酒を持って来てくれ。
 
 「アシュタール帝国としては了承だ。女王陛下のご意見をのもう」
 
 「ロースファーも問題ないね。誰かがトップに立たないと。ハルモニアから立つならね」
 
 「やつはアシュタールの人間だ!    伯爵になるのだぞ!」
 
 話を聞ける状態で無かったので、全く聞いて無かったが誰かが出世する話かな。伯爵になるなんて凄いなぁ。じゃあ、僕はそろそろ……
 
 「ミカエル、一言」
 
 さっきの殺気はどこへやら、アンネリーゼ女王陛下は満面の笑みを浮かべて僕に話をふった。何を一言なのかな?    頭の中をクエスチョンマークが踊り出す。
 
 「そうだ、何か言え!    ミカエル・シン、アシュタール帝国準伯爵!」
 
 僕は男爵なんですけどと、言ったらそれはボケになるのかな?    この雰囲気で笑いを取る自信は無いがボケてみたい衝動に駆られる。
 
 「えっと……     あの……」
 
 立ち上がって注目を浴びると、益々ボケたくなる。緊張が僕を包み言葉が出て来ない。誰か教科書の何ページ目か教えてくれ。
 
 「ミカエル、しっかり。これからは勇者と呼ばれるのですよ」
 
 隣の席の女の子が小声で教えてくれたページには「勇者」と書かれているみたいだ。僕のページには……    僕が勇者!?    
 
 勇者と言えば剣や魔法が使えて、優しい仲間から慕われ、人々からは尊敬の眼差しで見られ、魔王を倒してお姫様と結婚するあれか!
 
 剣以外は勇者に当てはまらない僕が勇者だって!?    しかも一代限りとは言え伯爵かよ。大出世じゃないか。父さん、母さん、僕は異世界で出世コースに乗りました。
 
 「えっと……    よろしくお願いします」
 
 違うだろ、違うよなぁ、この挨拶は。もっと威厳のある事を言わないとダメだろ。    ……思い付かねぇ。クエスチョンマークが踊り出す。
 
 「まあ良いだろう。これからは準伯爵と呼ばれるのだ。アシュタール帝国の為に励め」
 
 「ミカエル、これからは勇者としてハルモニアの為に頑張って下さい」
 
 伯爵は分かる。アシュタール帝国の貴族階級で真ん中。真ん中と言っても何十人といる訳で無い特権階級だ。死んだ爺ちゃんが聞いたら涙を流し万歳三唱だ。して勇者とはいかに?    勇者として頑張るってどういう事?    
 
 「あまり勇者の立ち位置が分かってないようだね」
 
 僕のスポンサー、浮気相手、可愛い人。メリッサ嬢から助け船が出た。あまり乗りたく無い船だが、教えて偉い人。
 
 「勇者ってのは連合軍の総司令だよ。各国で騎士団を派遣した場合、それをまとめる為に作った役職だね」
 
 ありがとう偉い人。言いたい事が終わったらアシュタールに帰って下さい。それ以上、何も喋らずに。
 
 「勇者になろうってのに男爵じゃ不味いだろって事で伯爵くらいまで上げた訳さ。伯爵ぐらいじゃなきゃ嫁ぎ先として問題もあるだろう、婿に迎えるなら侯爵だね」
 
 何か不穏な響きのする言葉が出たけど、これはドロ船だったか。沈む前に逃げ出したい。救命ボートはどこだろう。
 
 「それはどういう意味でしょう」
 
 聞かなければいいのに、聞きたくなる自分が嫌い。メリッサ嬢は見合い話でも持って来てくれたのだろうか。いや、この世界なら政略結婚になるのかな?    僕としては焼ける様な熱い恋愛の末に結婚とかしたいけどね。
 
 「魔王を倒したら勇者には褒美をやらんとな。私を褒美とするなら十分だろう。魔王を倒した暁には私を嫁にやろう。もちろん婿でもよいぞ。いずれはミカエル・マロリー侯爵だ」
 
 勇者と言えばお姫様とのラブロマンス。魔王を倒して王様から褒美としてお姫様をもらうんだ。ある意味、人権無視。封建社会では必然のこと。
 
 「まだ魔王軍を撃退してもいないのに褒美の話なんて、時期尚早ではないですか!」
 
 珍しくムキになって声を荒げるアンネリーゼ女王陛下。それは恥ずかしさを隠しているのかな。僕への愛ゆえに。
 
 「報酬を先に示すからやる気が出るのですよ女王陛下。わたしを……    このメリッサ・フィオナ・マロリー準侯爵を魔王を討ち取ったら嫁にやると言ってるのですよ」
 
 今なら侯爵の位も付いてくる!    なんて、お得なんでしょう。なんだろう……    このテレビショッピング的なノリは。
 
 魔王を倒すのは僕の為でもあるし、メリッサ嬢は要りませんと、一男爵が侯爵相手に言える訳も無く。アンネリーゼ嬢も話が拗れる事を嫌がって、これ以上の事は言わなかった。
 
 一通り会議が終わり、僕がこの連合軍の総司令に選ばれた訳だけど、政治的に選ばれたのは明白だ。本当に言う事を聞いてくれるかは疑問だけど、奥の手を思い出したので、たぶん、微かに、少しだけ、指揮を取る事に自信がある。

 会議の後にアンネリーゼ女王陛下と二人だけで話をしたが、正直なところ早く帰りたかった。早く帰って白百合団にメリッサ嬢の言い訳をしないといけないのだ!
 
 言い訳とは違うかな。メリッサ嬢との勘違いを正さなければ僕の命が危ういんだ。まあ、直ぐじゃなくても平気だと思うけど勘違いは早目に正した方がいいのに、アンネリーゼ女王陛下は帰してくれん。

 
 
 やっと帰れて白百合団の元に戻ったのは遅くなってからだった。報告したい事がある。僕が連合軍の総司令になった事、準伯爵に昇進した事、メリッサ嬢の勘違いな事。
 
 「ただいま」とドアを開けると、そこには太陽の光にも見間違うプラチナ色に光る八つの玉から、八万の紫外線が僕に突き刺さった。 
 
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