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第四話
しおりを挟むワイバーンに占拠された格納庫に、僕達はラウラ親方を先頭にして入り込んだ。中で待っていたのは「戯れ合う」ワイバーンの幼体達。
犬や猫の様に遊んでいるなら微笑ましい。「猫じゃらし」や「ボール」で一緒に遊んであげたくなるが、ここにいるワイバーンには通用しなそうだ。
炎は出すし爪で血が出るまで引っ掻き合う。中に首に噛みついているのは「甘噛み」には見えないくらいだ。
「あそこにある。身を低く、見付かるなよ」
壁際にひっそりと立つ作業用ウィザードを、指差し進むラウラ親方。他の戦闘用ウィザードは引っくり返され、背中の魔石がある部分に穴が空いていた。
「こいつに魔力を注入したら出る。終わったらミカエルは、そこで倒れている赤いウィザードと向こうの黄色いウィザードを直しておけ」
「終わったら帰っていいですか?」
「終わったら他のウィザードを直しておけ。他の魔導師が来るだろうからな」
仕事が辛いッス。元々、城船は中での戦闘は考えられていないんだ。こんな白兵戦なんて、今まで他の城船とやり合っても無かった事だ。
第一、僕達錬金術師は戦闘になれば格納庫でウィザードの運用やダメージコントロールの為に控え室で待ってるくらいなのに。こんな戦闘の真っ只中に投げ込まれるなんて労監に訴えてやりたい。
僕はラウラ親方が乗り込むのを見て魔石が詰まっているバックパックを開けた。そこには透明の魔力が無くなった魔石が詰まって、これに魔力を流せばいつでも発進出来る。
「ラウラ親方、魔力を流しますよ。魔力の調整は大丈夫ですね? 死んだら棚の奥に隠しているお酒は僕が貰いますからね!?」
「さっさとやんな! 一匹、こっちに気付いたみたいだぜ」
慌てる注入。飛び出す魔力。程度も考えずに透明な魔石に流し込むと、無属性の魔力で輝きを持った魔石が出来上がった。
「ゴー! ゴー! ゴー!」
ウィザードの厚い装甲を叩いて発進を促す。間髪入れずにブースターから魔力を放って突進する作業用ウィザード。後ろに僕がいる事を知ってか知らずか、フルパワーを出された僕は吹き飛ばされ火系魔導師の胸に…… は、届かない。
迎撃されたよ。飛ばされた僕を受け止める事も避ける事もせずに、対空蹴りが僕を鋼板に叩き落とす。
「大丈夫ですかぁ~」
心配してくれるリリヤちゃん。ありがとうね。でも、大丈夫だよ。触らないでね。石にされると困るから。
それに比べてこの火系魔導師! もう少し労ってくれてもいいんじゃないか!? 蹴り落とされたのは初めてだよ。魔導師のくせに身体能力が高いんだな!
「大丈夫、大丈夫ですよ。次は赤のウィザードですね。さっさと直して魔力を注ぎましょう。ついてこい! 火系!」
僕は少々、怒り気味に言った。そのくらいは許されるだろ。蹴り打ち落とされたんだから。今度は上手く飛び込んでやる!
二人を連れだって火系魔導師のウィザードの元へ。ラウラ親方は囮になってワイバーンを格納庫から出そうと戦っていた。
「おい、火系……」
「フィリス・ステイプルだ! ステイプル魔導師と呼べ!」
「おい、フィリス。魔石のバックパックは無いから動力炉に無属性の魔力を直接流すからな。火系の魔力調整は自前でやってくれ。それと、オーバーロードに気を付けろよ、爆発するぞ」
「誰に言ってやがる。舐めんなよ!」
言うことは言ったし、聞く事は聞いた。後はフィリス次第だ何とかしろ。僕はウィザードに乗り込んだフィリスを見て動力炉に魔力を流した。
「こ、こいつは……」
「いいか、動力炉に直接送り込んだから短時間しか動けないぞ。その前に戻って来いよ。そうしないとワイバーンに喰われる」
「こ、この魔力は……」
頑丈さだけの作業用と繊細な戦闘用のウィザードは少しばかり作りが違うから、流す魔力量が少し足りなかったか? 動力炉に流す事は良い事とされてないから手を抜き過ぎたかな。容量は有りそうだし、もう少し流すか。
「きゃいんっっ!」
何故に色っぽい声を出す? 戦闘中だぞ! 集中して魔力の調整をしろよ。 ……あれ? もしかして魔力酔いの類いかな?
ウィザードを動かす魔力は各属性の魔石から補充するか、自前の魔力で動かすか、空の魔石に無属性の魔力を流して変換するかの三通りがある。
僕の様に無属性の魔力は使い勝手がいいが、特化された属性より能力が低い。だから錬金術師に成れるのだが、属性持ちの人では合わない事もある。それが魔力酔い。普通なら気持ち悪くなったり能力が落ちたりするものだけど、フィリスの反応は少し違うような……
「大丈夫かフィリス? 魔力酔いか? 行けるのか?」
「……ぁあ、いける…… あぁ、いってしまいそうだ」
何を訳の分からん事を。行けるなら早く行け! 次のリリヤちゃんが待ってるんだから! コイツも僕が後ろにいるのも構わずフルパワーでイッてしまった。いや、行ってしまった。
とにかく次だ! ワイバーンはまだ格納庫にもいるし、孵化を待ってるタマゴもいっぱいだ。僕は黄色いウィザードを探してリリヤちゃんを乗せた。
「リリヤちゃん、フィリスの赤と同じ事をするからね。魔力酔いは調整で何とかしてね」
「はい。 ……あぁぁん」
魔力を流せば何故にコヤツも色っぽい声を出す。そんな声はもう少し大人になってから二人きりの時に聞きたいよ。
「大丈夫? 行ける?」
「イクですか!? そ、そんな…… あっ、でも…… はい! イクます。行けます!」
「よし! ゴー! ゴー! ゴー!」
やっぱりのフルパワーで飛び出すリリヤちゃん。少し違うのは、あっちのウィザードにぶつかり、こっちのタマゴにぶつかり、フラフラしながら飛んでった。
……さて、帰るか。帰ったら不味いけど、このいつ孵化が始まるワイバーンのタマゴの周りでウィザードの修理をしたくない。
格納庫には三人の活躍でワイバーンは上部甲板に出て行った。残されたのは僕と壊れたウィザードと孵化待ちのワイバーンのタマゴだけ。
ラウラ親方にはウィザードを直す様に言われた。他の魔導師が来るだろうからって。だけど、一人ぼっちは寂しさより恐怖を感じる。
直すか、帰るか、考えているより手が動く。帰って怒られる事よりも、誰か魔導師がウィザードを期待して来る事に賭けたかった。
魔力の注入はしない。魔力につられてワイバーンが来たら僕に打つ手は無い。それに孵化する条件が魔力だったら…… 残ったタマゴを見渡してゾッとする。
気にするな、自分。魔力を最小限にウィザードを直せ。あそこで動いているのは錯覚か城船の揺れのせいだ。タマゴが割れたのは幻影だ。
コン、コン、コン。パカッ。ジュゥゥ。卵を割って焼くのは目玉焼きかスクランブルエッグか。僕はスクランブルエッグの方が好きだ。
ガン、ガン、ガン。ドカッ! ギャウゥゥ。タマゴを割って生まれてくるワイバーン。これが鶏なら新しい生命の神秘に涙も流すだろう。
目が合う…… 鳥は初めて見た物を親と思うらしいが、ワイバーンはどうだ? 一応、羽は付いてるし鳥に見えなくもない。僕はゆっくりと後ずさった。
何かを吐き出す仕草。毛玉でも吐き出すと思いきや天井まで届きそうな炎が辺りを熱くした。この子の親は誰ですか!? お子さんが放火魔になってますよ!
バーベキューは好きだが、焼かれる肉の方になるのは嫌だ。この城船では「火」と「水」の取り扱いは重要な項目になっているんだ! 少しは遠慮しやがれ!
人間の言葉が分かるはずもなく、まして心の声など届くはずもなく、僕は炎を上げて目線が外れた隙を狙ってドアに向かって走り出す。
後ろから横からタマゴが割れる音が鋼板を鳴らして格納庫に響く。それに続く炎で焼く天井。頭の上が高温の赤い炎が舐める。バーベキュー以前に酸欠で死にそうだ。
ゴールまで後少し、トップでテープを切って勝利の美酒に酔いしれたい僕の前に飛んで落ちてくるワイバーン。もう飛べる様になったなんて、お父さんは嬉しいよ。お外で遊んで来なさい。ここは狭いから。
距離はあるが囲まれた。前門のワイバーンに後門のワイバーン。横にもワイバーン、勝手口にもワイバーン。 ……死ぬね、これは。食べられて死ぬのか、焼かれて死ぬのか、生き残る道がナビには出ない。
生き残る道を探しても、ここまで絶体絶命状態は初めてだ。僕は戦闘員じゃない、整備士だ。パイプレンチを片手に戦うのは機械を相手にした時だけだ。
「死ぬもんか!」
自分を鼓舞させる為にも口に出す。僕は走り出すワイバーンの奥にあるドアに向かって。フットワーク軽く、フェイントを使って目眩まし。これでも学生時代はサッカー選手だったんだ。 ……キーパーだったけど。
一対一。キーパーでは何度も経験している。相手とボールに合わせてシュートを押さえる。今度はボールが無いが合わせるのは一緒だ。ワイバーンの反対側に飛べ。
ボールはワイバーンが持っていた。真っ赤な炎を上げるボールはゴールいっぱいまで広がって、どちらに飛んでも僕はボールを受けるだろう。火ダルマになって。
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