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第十一話
しおりを挟む城船、シルバー・クリスタル号には、四十六機のウィザードが搭載されている。多い所では百機近いウィザードが載っている所もあるが、そんな多い所なら仕事も多いだろう。
ウィザードは二機で一小隊。六機で中隊、十八機で大隊と呼ばれレッド、ブルー・チームで二個大隊三十六機、イエロー・チームは三機で一小隊、九機で一中隊が城船には搭載されている。
その他にナターシャの黒いウィザード一機があって総計四十六機。を! たった六十人足らずで整備にするなんてブラックを通り越してブラックホールだろ! 抜け出せねぇ。
「働け!」
二発目の蹴りをスルリと交わせる筈も無く。有り難く頂戴して僕はウィザードの整備に入った。七班の二人はラウラ親方と談笑している…… ズルい!
「■■■■、解析」
本当ならウィザードの頭や胴体、手や足をブロック事に別けて解析を行うものだが、僕の溢れる魔力で一度に全てを解析する。
「「も、もう解析が終わったんですか?」」
「終わったよ。復元率は九十パーセント以上あるから、こいつは問題無し。次のは任せるからやってみて」
「「はい」」
復元率が九割も有れば問題はない。錬金術の復元の魔法はどうしても劣化コピーになってしまう。一度の復元で一、二パーセントは復元率が落ちる。
構造の簡単な脚部の外壁なら六十パーセントまでは復元で再利用する事になっているが複雑な間接や内部構造、ウィザードの全てにおいては九十パーセント以下は復元では無く新規に作る事になっている。
新規に作るとなると面倒だ。設計図を引っ張り出して「生成」の魔法をかける。そうすると、あら不思議。設計図通りの物が出来上がるんだから魔法って便利だ。
もちろん多量な魔力を消費する事になって、一つの班で腕一本を作るのだって大変な事だ。まぁ、僕なら腕一本なら二十分もあれば作れるけどね。
作れるけど、取り付けるのは人力だ。物を浮かせる魔法なんて錬金術師には無い。そんな時には作業用ウィザードやパワーアームの出番になってくる。
作業用ウィザードの運転免許は五級の時に取る事になっているし、魔力調整のコ・パイロット免許も同じだ。もちろん僕は運転免許は一発で合格、コ・パイの免許は調整ミスって二回目で合格。
パワーアームは日本で言えばパワードスーツ。人工筋肉やモーターで筋力を補助するのを魔力と錬金術で作り上げた物だ。これには免許はいらない。誰でも着るだけで使えるし、百キロぐらいまでなら持てる優れもの。
「「■■■■、解析」」
二人で一つのチームワーク。五級だから半人前とも言えるが、双子パワーで実力以上を発揮してくれ。そして急いでくれ、僕の合コンの為にも……
頭部から順に下に解析して行くようだが、やはり時間が掛かる。脚部より大きくは無いけど繊細な部品の塊だから慎重にやるのが一番だ。時間をかければ解析くらい大丈夫だろう。
八班は四人ずつに別れてウィザードの解析を始めている。一機終了、三機解析中。残り五機、何もなければ余裕で間に合いそうだ。僕は五機目の解析を始めた。
「■■■■、解析」
さて、コイツの状態はと、解析しながら今日はどんな服を着ようか考える。僕ぐらいになると二つくらいの事は出来るんだ。
いつも来ているツナギの作業着…… 論外だな。この前、下船した時に買ったシャツ…… 着てみたら派手だったんだよな。いつも来ている柄物のは…… ヨレヨレなんだっけ。
僕達が下船する事があるとすれば、鉱山や鉱脈のある街、魔石の積み降ろしで少し滞在する都市くらいで、それ以外は城船の中だ。
娯楽も少ないから、城船に乗っている時は飲むか賭け事くらいしか楽しみが無い。かと言って女の子に表だって手を出すのは規律違反にあたる。まぁ、スピード違反の取り締まりより緩いけどね。
合コンの事を考えている間に、解析は終了異常無し。六班は中破したブルー・チームの一機を直さないといけないから、こちらの仕事を早く終わらせて手伝いにいかないと。五機目も終了し、後四機。八班はまだ終わらないし、双子もまだだ。
僕が七機目を終わらせる前に八班が診ていた二機が終わり、残りの二機を診始めた。これでノルマは終了だ。後は双子のウィザードを見直して出撃準備をすれば今日の仕事は終わる。
「終わった?」
サラとローラの元に向かえば、もう最後の脚部まで解析が進んでいた。終わった所までの書類を見れば、どれも復元率は九割を越えて問題は無かった。
「「最後の脚部です」」
流れる汗が、整備室にエアコンの必要性を物語る。ツナギは安全の為にも脱いだらいけないのだが、上くらいは休憩の時に脱いでもいいんだよ。ツナギの腕の所を腰で縛り、上半身は汗で濡れて透けたシャツに、ブラの色が浮き出る…… 仕事しよ。
僕は双子が解析をした所を改めて解析したが、書類通りに問題は無かった。イエロー・チーム自体は守りのチームだから、あまり出撃をしない。
出撃をした時には大破、中破は当たり前になるが、ジャイアント・タートル戦では待機だったし、後の脚部も問題は無いだろう。僕は合コンの打ち合わせ…… 中破したウィザードを直している六班の元へ手伝う為に向かった。
「どう? 終わりそう?」
汗が滝の様に流れ、一人で作業をしているジョシュアが苦戦しているのが分かるが僕は「ツナギはしっかり着ろ。せめて中のシャツは柄物を着てくれ」と胸元の黒い二つの影を見ても言えなかった。
「結構かかるぜ。見た目は胴体に穴が空いてるくらいだが、中身は電撃でも喰らったのか大破扱いだよ。お陰で一機まるまる生成した方が早いかもしれねえ」
お疲れ、頑張って。待ち合わせ場所を教えてくれたら僕だけで行ってくるから仕事を続けてくれてもいいんだよ。
「手伝おうか? こっちはもうすぐ解析が終わりそうだよ」
「出撃準備は?」
「八班に任せれば大丈夫でしょ。イエロー・チームは出撃待機の準備だけだしね」
「あぁ、そうか。それなら手伝う前に用意してもらいたい物があるんだ」
まさか風呂の準備をしておけって事か? シャワーでさっと終わらせて合コンに行こうよ。相手を待たせても不味いし、何より服選びと髪型に時間をかけたい。
「何を用意すんの?」
「この後でそっちは出撃準備するだろ。終わったらパワーアームに新しい魔石を詰め込んで鉄パイプを二本用意しておいてくれ」
合コンにパワーアームも鉄パイプも必要ないだろ。どんな合コンをする気なんだ!? もしかして、合コンじゃなくて地下格闘大会に参加するとかか? 聞いた事がないよ。
「とてもヤバい話が先に待ってる気がする」
「ヤバくはねぇよ。ちょちょっと、探し物をするだけだ」
ニヤリと笑うジョシュアに、僕は一抹の不安と目的が何となく分かった。こんな時に…… いや、この時でなければ見付けられないもの。
「それってヤバいだろ。少なくとも無断で下船するよな?」
「ミカエルは脚部の修理の時に物を落とした事はないか?」
「長くやってれば一度や二度、それはあるさ」
「拾いに行くだろ。それと同じと思えばいいんだよ。落ちてる物を拾いに行くのは同じだろ」
やっぱりだ! この後の予定は合コンなんかじゃない。期待した僕が悪いのか。女の子に飢えてる僕が悪いのか……
「で、でも、放棄するって言ってたろ」
「放棄したって事は誰の物でもねえ。それを貰っても悪い事じゃないだろ」
一理、有る。一理はあるが、無断で下船するのは不味い。でも、物を落とした時には無断で降りて拾ってはいる。
「あれだけデカいジャイアント・タートルだ。全部とは言わなくても欠片くらいで小金持ちになれるぜ。それにプレゼントしたらリリヤちゃんが喜ぶんじゃないか?」
痛い所を二ヶ所も突いてくる。目を閉じて考える。朝、テーブルの弁償をさせられた懐具合。可愛いリリヤちゃんへのプレゼント。どちらも引ける理由は無い。
「オッケー、やろう。準備は任せておいて」
「さすがは相棒だ」
手を止めて抱き付く汗まみれの相棒。僕にそんな趣味は無いよと、言う間も無く離れて生成の続きをする相棒。もう少し感謝の気持ちを表して欲しい様な、すぐに離れてくれた事に感謝するような……
「働け!」
悪魔の囁きとも取れる声に、お尻の谷間が更に深くなるのを身を持って感じた。
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