キャッスルシップの錬金術師

コウ

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第十九話

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 「はぁあっ!んんんはあ…あ…ん……ん」
 
 指定された戦闘地域より後方三キロ補給地点。安全な場所とは言えず、流れて来たいつ魔物が襲って来るか分からない危険地帯。
 
 「ううう…ぅぅっ!はあ…あぁあんんん!」
 
 一秒とも気が抜けず、補給を求めて来るウィザードの列が止まらない。行列のできる補給所とはこの事だろう。いや、ラーメン屋?  ラブホテル?
 
 「終わりました。出撃して……」
 
 またしても奪われる強引なキスに、シートベルトを外して襲いかかろうとする水系魔導師を押し留め、僕はコックピットから飛び降りた。
 
 「「前進して下さい。バックパックの代わりに魔力を身体に流します」」
 
 次のウィザードを機械的に誘導するサラとローラ。僕の魔力の余裕は有り余るほどだが、一回一回にキスを迫られ人に寄っては襲い掛かろうとする僕の魔力の補充に、精神的に疲れて来ているのは事実だ。
 
 「何機、並んでるの?」
 
 「「このウィザードを入れて六機です。班長、急いで下さい」」
 
 そんなに並ばせてしまったのか。整備班としては落第なんだろうけど、この滴る汗は一生懸命やった仕事の証。決して手抜きをしている訳ではないんだ。そこの所、双子の二人は分かってくれるだろうか?
 
 「悪いけど、魔力の補給している時に手伝ってもらえる?  拒否反応か暴れる人が多くて押さえ付けて欲しいんだ」
 
 拒否反応と言う言葉は適切では無いが、暴れる様に襲われて、それを引き剥がすのにどれくらいの体力とそのまま流されないでいる精神力に僕の身体が悲鳴を上げる。
 
 いや、悲鳴を上げているのは魔導師の方かな。悲鳴にも似た「喘ぎ声」を間近で聞かされる僕の純情な男心は今にも砕けて仕舞いそうになる。
 
 「「分かりました」」
 
 砕けてそのまま……  ソフィアさんに魔力の補充をした時には砕けそうになった。砕けたかった。砕けて、その狭いコックピットで二人で愛を謳歌したかった。
 
 「次が待っています。急ぎなさい」
 
 外野のヤジがそれを邪魔する。ミリアム・ビーン副頭が仕事に復帰し、手早く段取りをして修理が必要なウィザードと補給が必要なウィザードに分けていた。
 
 こちらの補給側にはサラとローラがいるから必要は無いのに、魔力の補充を終える時にはいつも下から睨みを効かせ、僕が何か良からぬ事をしないか見張っているようだ。
 
 「頑張りま~す」
 
 所定の位置着いたウィザードに乗り込みコックピットを開け、事情を説明して魔力を練る。僕の魔力を流された事のある魔導師は期待の瞳で僕を見て、初めての魔導師は不安の眼差しで僕を見るのはいつもの事だ。
 
 「流すよ。サラ、ローラ、しっかり押さえておいてね」
 
 普通なら魔力を流されると暖かく優しい感じが胸を膨らませ、満ち足りた充足感を覚える平和的なものだ。この魔導師は初めて僕に流されるのだろうか、整備士たる錬金術師に押さえ付けられているからか、とても不安げにしていた。
 
 「ひぃぃやぁ……あやぁあぁは……ぁっあぁぁ…!」
 
 身体を仰け反らせ悶絶する魔導師を必死になって押さえる双子の姉妹。最後まで見届けたいが、次が待ってるから僕は失礼しよう。後は任せた双子よ。

 振り返って降りようとする僕を引き戻すプロレスラー並みの怪力に、僕はコックピットに引きずり込まれ相対して顔を覗いた魔導師から祝福のキスは双子によってギリギリに阻止された。
 
 阻止はされたが、無理矢理にでも唇を奪おうと僕の顔から離れた手は、今度は後頭部からの髪の毛を握りしめ強引に顔を寄せて来る。
 
 「痛い!  痛い!」

 コンソールの上を髪の毛を捕まれ引き寄せられるのを黙って見ている将来有望な双子じゃない。ぐいっと、自分の方へ引き寄せ魔導師から引き離したかと思うと、サラからご褒美とも思えるキスが……  何故だ!?
 
 そんなサラを更に押し退け僕の上に乗るローラからは祝福のキスが……  だから、何故だ!?  お前達二人には何もしてないのに!?  隣で魔導師を押さえておけばいいんだよ!
 
 も、もしかして……  隣に居たから魔力の流れに当たったのか?  僕の女性限定でムラムラさせてしまう魔力に……
 
 さすがにダメだ。体勢は悪いし三対一で髪の毛を引かれ、サラには腕の上に乗られて関節を決められては分が悪い。この二人のコンビネーションに加えて魔導師はシートベルトを外そうとしている。マズい!
 
 ローラの唇が離れた。一瞬、惜しいとも思ったが、こう言うのは二人きりの時にしたい。助けを呼ぼうと肺一杯に空気を入れ、大声と共に叫ぶはずが思わず飲み込んでしまう。ローラが服を脱ぎ始めたから……
 
 「おぅっ……」
 
 見事なくらいのブラ付き半裸。胸の膨らみも、腰の細さも、鎖骨の美しさも服を着ている時には分からなかったが、今ならその発情期とも言える身体が僕を誘う。
 
 押さえられていない僕の右手がローラに向かって伸びる。ダメだと、訴えても右手は止まらずに真っ直ぐローラの胸に伸びて行った。
 
 十八歳以上は禁止な行為はここまでだった。ローラもサラもウィザードの魔導師さえも蔦に絡まれ違う悶えを始めた。
 
 もう少し見ていたいと思うくらいのローラの縛られる姿。肉に食い込むその蔦は、余計にローラの肉欲を誘うが、こんな事を出来る人は一人しかいない。
 
 「ナターシャか!?」
 
 僕達の正面に立つ黒きウィザード。心なしか黒い魔力を放出しているのが悪魔にも見えるが、今は助かったと言っておこう。出来れば後二秒くらい待ってからでも良かったんだけどね。
 
 「……」
 
 コックピットハッチが開いて凝視するナターシャの眼差しは冷たく、まるで僕を犯罪者か強姦魔かを見るようだ。
 
 「た、助かった……  んぐっ!」
 
 僕はお礼を言いたかっただけなのに、沸いて芽吹いた蔦は僕を縛り上げ、猿ぐつわをかける様に口をふさいだ。
 
 これで今日の仕事は終わりだ、なんて考える余裕も縛る蔦の力が加わるまでだった。マジに痛くても叫ぶ事も出来ず、このまま茹だったらチャーシューだ。
 
 「止めなさいナターシャ!」
 
 助けてくれるなら愛を叫んでも構わない。僕達の居るウィザードに上がって来たミリアムさんの声に、少し考えたのだろうが僕達を縛っていた蔦が緩んだ。
 
 「……」
 
 何か言う事があるんじゃないのか!?  「ごめんなさい」はどうした。少なくとも僕まで縛る理由はないんだ!
 
 緩んだ蔦を剥ぎ取る様にして再び襲い掛かる魔力を浴びた三人は、ミリアムさんの強烈なビンタで目を覚ました。なぜ、何故に僕だけ往復!  しかも返ってきたのは裏拳の拳じゃないか!?
 
 「ヒ、ヒミマムひゃん……」
 
 「ごめんなさい……  つい……」
 
 つい……  だと。一発目のビンタで頭が弾かれ、二発目の裏拳で意識が半分飛んだぞ。もう少しで前世が日本人だった事も忘れる所だったよ。
 
 「サラとローラは下で誘導!  ウィザードは補給が終わったんだから発進しなさい!  ミカエルも!  次の補給があるでしょ!」
 
 僕達三人は転げ落ちる様にウィザードから離れ、魔導師は逃げるように走り出した。ナターシャには一応、お礼の言葉を言った方がいいかなと、ローラの上着のボタンをはめるのを見ながら思った。
 
 「ナターシャ、現場の状況が分かりません。偵察に行って下さい。早く!」
 
 もの惜しげに僕と目を合わせてから出撃するナターシャのウィザード。心なしか黒いオーラも少なくなった気がする。でもナターシャも前線に出たら後で魔力の補給をしなければならないのだろうか。そうなったら今のお礼も兼ねてキツイのを一発見舞ってやろう。
 
 残りの魔導師の魔力の補充はミリアムさんの監視下の元で行われた。よがり始める魔導師に容赦の無いビンタで正気にさせ、僕が襲われる事は無かった。
 
 が、その度に僕にも張り手が飛び、いつか相撲部屋が勧誘に来て引き取って欲しいと思うくらいに僕の顔が腫れ上がった。
 
 「ふぎのはひまへんね  (次のは来ませんね)」
 
 「おかしいわね。静かになってるし、戦闘終了の信号弾は上がってないし……  どうしたのかしら」
 
 「ひんなひょわって、ほんびりひているのはもひれまへんね  (みんな終わって、のんびりしてるのかもしれませんね)」
 
 「何か……  変よね……」
 
 そうです。僕の話し方が一番「変」なんですよ。聞き取れてますか?  僕の顔の心配はしませんか?  僕は腫れた顔を押し止める様に、頑張って話してみた。
 
 「どうします?  偵察に行ってるナターシャも帰って来ないし……  城船に戻り……」
 
 「行きましょう。現場の状況が分からないなら自分で調べるしかありません」
 
 仕事を増やすなら特別手当を出して欲しい。特に危ない戦場に行くなら割り増しでお願いしたい。
 
 嫌だと言う僕の気持ちも知らずに作業用のウィザードの調整席に座らされ、リリヤちゃん一人の護衛で僕達は魔物のいる戦場に向かった。
 
 もちろん道連れにジョシュアを誘ったのは言うまでも無い。
 
   
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