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第二十二話
しおりを挟む「あれが魔石の塊ですか。思っていたより大きい」
僕はラウラ親方に連れられて魔石の塊の櫓に着いた。この囲ってある櫓事、風系魔導師が運ぶのを魔力的にバックアップするのが仕事だ。もし魔導師の魔力が間に合うなら僕の用は無い。是非、意地でも魔導師だけで頑張って欲しい。
「ウィザードの二倍はある。円筒形で上は丸みがあるが、下は平らだ。城船にはこのまま立たせて入れて固定する」
「色々、進んでいるんですね。これで後は運ぶだけと……」
「そうだ。それとこちらの二人が……」
「こちら」とは珍しい。だいたいラウラ親方が紹介する時は「こいつら」とか言うのに。ラウラ親方自身が特級錬金術師だから敬語を使うのは相手による。
「セシリー・フォン・マルドイック一級風魔導師です」
セシリーさん。たおやかな風を思い出させる様な優しい瞳をした人だ。風になびく髪を押さえながら「もう、イジワルな風ね」なんて言葉を言っても様になる。 ……年下に興味はありませんか?
「シャノン・フォン・ハミルトン四級風魔導師です」
シャノン…… ちゃん? 年はリリヤちゃんと同じくらいに見える幼い子だ。それで四級の魔導師だなんて、よほど優秀なのだろう。一応、僕は三級だから。敬語を使って……
「ハミルトン!? もしかしてハミルトン公爵とは……」
「父です。今回は父へのご助力、有難うございます」
どうりで品のあるお方だと思った。その溢れる知性、美貌、どれを取っても公爵様の娘に相応しい。もちろん、ハミルトン公爵の名前が出る前に分かっていた事だ。
「ちょっと失礼します。親方、ちょっと……」
本当なら殴って拉致ってしまいたいのを抑え、僕はあくまでも紳士的に振る舞って親方と席を外させて頂いた。
「親方! てめぇ、僕を死刑台に乗せる気か!? 僕の魔力がどんなモノか知ってるだろ!」
僕の目は怒りに燃えて芋をくべて焼き芋にしたいくらいだ。公爵家の令嬢に僕の魔力を補充するなんて、その先に待ってるのは良くて打ち首、悪くて火やぶりの刑だ。
「焦るなよミカエル坊っちゃん。お目々が怖いぞ。そんなんじゃ女の子にモテないよ」
「冗談が言える状況か!? 公爵の娘に魔力を流すんだぞ! 公爵にケンカを売るんだ! 買われたらこの城船だって潰される!」
僕の魔力を流された女性がどうなるか。ラウラ親方だって知っているだろうし、ミリアムさんだって知っているのに何故止めなかった。
「ミカエル君…… いざとなった結婚しちまうのはどうかな」
「公爵が許す訳がねぇだろ。可愛い娘を手込めにされた父親がどう出るかなんて考えるまでもない!」
「大丈夫じゃね。シャノンちゃんは養子だって話だ。快く送ってくれるよ」
「確か、公爵様って家族を連れて城船に乗ってるんですよね?」
「そうだな。奥方と子供が…… 何人かだったか」
「アホですか! 子供がいて養子をもらったなんて、シャノン様はよほど特別なんですよ! それを手込めにしたなんて……」
「……ミカエルよ。言いたい事は良く分かった。だがな、男には負けると分かっていても戦わなければならない時もあるんだよ」
「負けが確定した勝負に出ろと」
「大丈夫だ。実は勝算のある戦いなのだよミカエル君。作戦がある。聞きたまえ」
ラウラ親方は僕の耳元に顔を寄せて来た。作戦があるなら始めから、そう言って欲しい。公爵様の令嬢に僕の魔力を流したら、きっと公爵は激怒するだろう。
「わっ!」
耳元で大声を張り上げる古典芸に引っ掛かった僕は、いつかお酒をたらふく飲ませて寝込みを襲ってやる事を決意した。
「冗談だよ。ほら、耳を貸せ」
僕は今度こそ引っ掛からないと、耳に手を当てラウラ親方の話を聞いた。それは作戦なのだろうが、玉砕覚悟の特攻にも聞こえた。
「そ、それは無理ですよ! そんなの上手く行きっこない!」
「大丈夫だ。これで問題が無い」
「何処にそんな確証があるんですか!? 無理を通り越して無謀ですよ!」
「良く考えろミカエル。シャノンちゃんはいくつに見える?」
「えっ…… たぶんリリヤちゃんと変わらないくらいだと思いますけど、それが?」
「シャノンちゃんはまだ若い。それが勝機に繋がる」
「根拠はそれだけですか…… 根拠になってるんですか!?」
「まだある!」
「なんでしょう?」
「女のカンだ!」
この男前の女であるラウラ親方の「女のカン」はどれほど信じてもいいのだろうか。だけど、ここまで来て「僕は辞めます」が通じるだろうか。
魔石の塊は巨大だ。風系魔導師の魔力だけで持ち上げ運べるのかは疑問だ。仮に僕以外の人が魔力を補充するとして、魔導師は戦闘の後で疲労しているだろうし、整備班は今も魔力を使って働いている。
「そのカンって、当たるんですか?」
「当たる! 女同士だ、間違いない!」
何処まで信用していいのか分からないが、後戻り出来ないのなら先に進むしかない。棘の道を出来れば無傷で進みたい。
「もし間違ってたら死刑台の花道は飾ってやる」
花輪で飾り立てた死刑台を想像しながら、僕は風系魔導師の元に進んだ。
作戦は難しい事は無い。魔石の塊を囲い事、運んで城船に納めようって事だ。重量のある塊は風系魔導師が浮かべて運んでくれるし、僕の役割は補助になるくらいだ。問題も無く進めば僕は魔導師の後ろで、夕御飯の心配をするだけで終わる。
「魔力が吸われる様です! ミカエルさん、お願いします!」
夕御飯の心配より死刑台の心配をしなくてはならない状況に、僕は憂鬱を通り越して時世の句の頭出しを考える。いや、その前に魔力を流さないと。
もっと穏やかに魔石の塊が運ばれるモノだと思っていた。風に乗ってサラサラとなびく稲穂をイメージしていた。
今は台風を伝えるレポーターの気分だ。暴風が僕の体を浮かせる勢いでセシリーさんやシャノン様のローブを巻き上げたが、スカートは足で挟んでいるのか、そのまま不動だった。
「行きますよ。気をしっかりと持って下さいね」
普通の受け渡しならそんな事は言わない。違う時に言うなら「飛んでくる看板に気を付けて」だ。僕の魔力は特別製だし手を抜いて流せる訳も無く、僕は二人の魔導師の背中に手を当て魔力を流した。風は吹いても、喘ぎ声は抑えてね。
「は…ぁひ…っ」
シャノン様です。
「うっ…うんん…」
セシリーさんです。思いの外、二人とも感度が低い。ある意味でいい事だ。特にシャノン様に関してはラウラ親方の言う事が合っていたようだ。
ラウラ親方が耳打ちした作戦。「あいつは若いから経験がねぇだろ。きっと何をされてるか分からねぇよ」作戦。
確かにリリヤちゃんの時のように何をされているのか分からないのだろう。これが大人への階段の一歩。大きくなったら愛する人と交わして欲しい。今は無属性の魔力を風魔力に変換して魔力の塊を持ち上げて欲しい。
さらに増す魔力の流れに対して、巻き上がる風は「本当にこれでいいのか」と昨日のうちにブルーシートを屋根に張っておけば良かったと思うくらいだ。
「セシリーさん! これでいいんですか!?」
集中をしている所に悪いけど、風が怖いと思ったのは初めてだ。三人を覆うテントはバタバタと声を上げ、囲いの鉄パイプは嫌な悲鳴を上げてる。
「大丈夫! 浮きます!」
浮いた! 風が止む。静かな世界に三人だけいるような感覚は一瞬だけで、大きく風に取り囲まれている、まるで台風の目の中にいるような感じだ。
「行けますか!?」
「魔力をください。予想以上です!」
二人は魔石の塊に向かって両手を伸ばし魔法を放ち、捲りあがる袖から見える美しく白い手に僕は見とれてしまいそうだ。
本当に見とれたのは、腕を取り巻く様な風を見たからだ。肘くらいから手の先の方まで伸びた風は、骨を砕き腕を切り落とすくらいの勢いにも見えた。
こんなになってても魔力を流してもいいのか? このまま流したら二人の腕が切り落とされるんじゃないか?
「本当に流してもいいんですか!? 大丈夫ですか!?」
「構わないから速く!」
リクエストにお応えして僕からの一曲。無属性魔力流しを力強く歌った。
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