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第三十二話
しおりを挟む「お断りします!」
僕はキッパリと言ってやった。例えラウラ親方の頼みでも聞けない事はある。もちろんベッドの中で頼まれたら断れないが、今は親方の事務所で仕事の話だ。
「頼んでいる訳じゃねぇ。命令しているんだ。お前がやれ!」
「何で僕なんですか!? 他にも上の人がいるでしょ。一級のレイノルドさんはどうですか? 一班の班長だし腕前だって特級に近い」
「うるせぇ。二級以下って話なんだよ。それなら三級のお前が行けば事は丸く収まるんだ」
「三級なら他にもいるでしょ。その日は僕の下船許可が降りてる日ですよ」
「だからなんだ! 他に任せられたら任せてる! お前が適任なんだよ!」
「だけど……」
イグナフス滞在三日目に、下船許可が降りた二班の錬金術師。そいつらが、よりにも寄ってヨーツンヘルム号の錬金術師と問題を起こしやがった。
バカなヤツらだと思うくらいで、四日目以降の下船許可が取り消しになるんじゃないかと、僕はその方が気になっていた。
話を聞けば酒場でヨーツンヘルムの錬金術師が、酒場の女の子にちょっかいを出していたらしい。それを注意した二班の男気のある人が殴られたそうだ。
お互い遺恨のある関係だけに喧嘩から戦闘まで激化。持てる錬金術の能力を遺憾無く発揮し酒場と隣の商店までも破壊しまくり、その代償としてヨーツンヘルム号から「一騎戦」を挑まれた。
一騎戦は魔導師がウィザードに乗り込み、お互いが一機づつすれ違いながら戦う、中世の馬上槍試合にも似た戦い方だ。
往復して一回。最初の自軍の位置に戻って来れなかったり頭部を破壊されると負け。戻って来れれば錬金術師からのサポートを受けられる。そのサポート役に僕が選ばれたのだが、普通のルールとは違っていた。
「だけど…… 僕にもその日は用事があるんです。もう約束しちゃったし……」
普通のルールと違う事は、本来なら魔導師でも実力のある者が五人と、整備をする錬金術師は投入出来るだけ。それが二級以下の魔導師が三人と同じく錬金術師が一人のみと言う変則的なルールだった。
「なんだ? その用件は?」
もう一つ付け加えると、往復して戻って来たウィザードの整備時間が一機に付き一時間はもらえるのだが、トータルで三十分と言う短期決戦を見込んだものだった。
「それは…… サラとローラに……」
ラウラ親方は言った。他のヤツに任せられるなら任せると。今回の一騎戦で付ける錬金術師は一人だけ。それだけに手早い仕事と、三機のウィザードを直せるだけの魔力を持った、超絶的有能、おまけに格好いい錬金術師が選ばれる。 ……それが、僕ね。
「やっぱり、諦め切れなかったのか…… サラとローラの事は任せておけ。特級錬金術師の名に賭けて約束してやる」
「それは…… ありがたいのですが……」
特級錬金術師が手を貸してくれるのなら有難い。三級では見れる資料にも限界があるから。それは、本当に有難いのだが、僕には夜の予定も入っているんだ。
「まだ、何かあんのか?」
「……いえ、ありません。ウィザードのパイロットも二級以下なんですか?」
「そうだ。お互い最高の魔導師を出して負けたなんてなったら面子に関わるからな。あっ、でも二級以下って言って来たのは向こうからだからな」
「こっちからは誰が出るんです?」
「フィリス・ステイプル、リリヤ・パルビィア、それとナターシャだ」
よりにも寄って見知ってる悪魔が出るとはヨーツンヘルムも気の毒だ。フィリスの実力は二級クラスはあるとして、リリヤちゃんは防御の土系魔導師だし、ナターシャについては不明な所が多過ぎて実力は分からない。
「リリヤちゃんは土系魔導師ですよ。それにナターシャって三級なんですか?」
「リリヤはあれでも怒らせると怖いぞ。ナターシャは無級だ」
無級って、五級以下なのか? それなのに蔦で絡めたり、魔石の塊を運ぶ時には巨大な結界を張るぐらいの能力があっても無級なの?
「ナターシャの給料は?」
「有給だ。……面白いのか?」
「ノッて来たのは親方でしょ。そこは無給って言って欲しかったなぁ」
「バカは顔だけにしておけ。今日、明日は三機のウィザードの整備にあたれ。以上だ」
「僕はまだやるって言ってませんけど……」
「サラとローラ。お前に特級と同じ権限があるのか?」
「敵を粉砕。一人残らず皆殺しにして来ます」
「まぁ、それをやるのは魔導師の仕事だ。お前は整備に力を使って来い!」
「了解です。……もし負けてもサラとローラの事は……」
「早く行け!」
僕はケツを蹴り上げられながらラウラ親方の部屋を出た。もう少し戦場に赴く僕を励ます様な見送り方があると思うのだが、ラウラ親方らしいと言えばそれまでだね。
さてと、やる事はいっぱいだ。まずはウィザードの設計図を引っ張り出して見直さないといけないし、量産されていると言って魔導師の個性が出てしまうのがウィザードだ。
今回は火系のフィリス、土系のリリヤちゃん、蔦系? 結界系? 不明系のナターシャの三人に合わせ、特徴を伸ばせる様なチューニングをしないと。
僕は設計図が置いてある部屋から大量の設計図を持ち運び三人の集まっている所へ向かった。
「一騎戦のウィザードの事だけど……」
「おう。今回は頼むぜ。なにせヨーツンヘルムとの一騎戦だからな。あの時にウィザードの出撃命令が出てればこんな事にならなかったのにな」
「ウィザードまで出してたら収まらなかったよ。今回で過去の遺恨に決着をつけたいね」
「任せな! 全機、あたいが倒してやるぜ!」
一騎戦は勝ち抜きだ。通常、五対五で戦うが勝てば勝ってる間は戦える。一機で三機まで倒した記録が残っているが、それは戦術的に難しいかもしれない。
一機に対して一時間の整備時間。五機分の整備時間を一機にまわすのも有りだ。その時は最初の一機に対して三時間使ったと記録されていたけれど、残りの四機の整備時間は二時間しか残らない。
その一騎戦は三回勝ち抜いた方が勝ったらしいが、結局は大将戦までもつれ込んだ。一人だけ勝ってもチームで勝たなければ意味が無い。
今回は一人あたりの整備時間は十分。腕一本、復元するのに二十分はかかる。とてもじゃないが、一人に集中して直している訳にはいかない。
「それで、チューニングの方だけど、どんな感じにする?」
「まずは魔法での撃ち合いになるから、攻撃魔法にドーンッと入れておいてくれ」
「ドーンッと……」
「その後は接近戦だ。剣を持って行くからズバッと切れる様にな」
「ズバッと……」
「防御の方にはソコソコで構わないから、スピードはバァーンッと行ける感じだな」
「ソコソコとバァーンッ…… ね」
分かるか! こんなもん! メモを取っているペンを折りたくなる、錬金術に必要なのは数字なんだよ! ドーンッは百か!? ズバッとは八十くらいなのか!?
「ぐ、具体的に言うと…… ほら、魔力調整の幅とか時短があるじゃない」
「ん? グワッとやってくれたらいいぜ」
グワッて数字で言ってくれよ、大体でいいからさ。こんな風に言われるとチューニングはニュートラルの五十に持っていくしかない。
魔力で動くウィザードは魔石を積んでそこから動力を得ている。魔導炉から百パーセントの力を動力、出力、防御力、魔法力、攻撃力に調整して魔導師はウィザードを動かしている。
一つに百パーセントの魔力を流したら他の所が動かない。最低でも一つに十パーセントの力を残すとして、それらを割り振り、最大力を出せる様にするのも魔導師の能力に頼り過ぎている。
それを戦いの中で魔力調整をしないといけない複雑さから、僕は魔力調整が苦手なんだ。
「とりあえずチューニングはニュートラルで…… 他に何かあったりする?」
「魔力の補充は出来るのか?」
「それは出来ないよ。バックパックの魔石の魔力と自前の魔力だけだね」
「チッ! つまらねぇ。それなら他にはねぇな」
舌打ちしないでくれよ。僕が悪いみたいじゃないか。ルールで魔力の補充は禁止になってるの。文句はルールを決めた人に言ってくれ。
「それじゃあ、フィリスは終わりね。リリヤちゃんはどんなチューニングにする?」
「あの…… わたしは…… 物理防御と魔法防御に集中出来るようなのがいいですぅ~」
「防御主体…… っと。それで攻撃と動力、出力の割り振りは?」
「あっ…… それは、大丈夫ですぅ~」
何だか歯切れが悪い。間延びした言い方は変わらないけど、何か調子でも悪いのだろうか? それとも一騎戦を前にして緊張しているのかな? お酒を進めるのには年齢的に問題があるし……
「魔力の補充は本当に出来ないんですかぁ~」
そっちかい! みんな自前の魔力で頑張るのが一騎戦なんだから、リリヤちゃんも僕の魔力は期待しないで。
「ルールでそう決まってるんで……」
「……そうなんですかぁ~」
みんな! 自分の力を信じて頑張ろうよ! 魔力の補充が無くたって君達なら勝てるさ。一騎戦の最中にコックピットで、よがられても困る。
「そ、そうなんです…… えっと…… ナターシャはどうする? チューニングメニューは?」
「今のままでいい……」
「手を付けなくていいの? 動きやすく出来ると思うよ」
「……」
無言で首を振る。せっかくナターシャの機体を弄れると思ったのに残念だ。ナターシャのウィザードは一、二級以外の人は触れない事になってらからな。一度は見てみたかった。
「それじゃ、フィリスとリリヤちゃんのウィザードを仕上げて来るよ」
僕は大量の設計図を持ち席を立った。これから忙しくなる。機体の設計図を見直してチューニングをしないと。今回の一騎戦、変則的なルールだけど錬金術師の腕の見せ所だ。
出来れば勝ちたい。ヨーツンヘルム号には目にものを見せてやりたい。出来れば勝ちたいが、一番いいのは合コンまでに早く終わってくれれば嬉しい。
立ち上がる僕を制する様にナターシャが服の袖を引く。何か言いたい事を思い出したのかな?
「魔力の補充は……」
「ありません!」
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