キャッスルシップの錬金術師

コウ

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第四十話

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 「遅いぞ、てめぇ!」
 
 「すみません。すぐ座ります」
 
 レールガンの最終復元に手間取り、召集に遅れて入った整備室には、むさ苦しい男の汗の香りで気持ち悪くなりそうだが、その汗をかいている一人は僕だ。
 
 「……重役出勤?」
 
 「……集中してて聞こえなかったの。もしかして、僕達が最後?」
 
 「……ああ。もう少しで親方が全艦放送で呼び出す所だったぜ」
 
 「……目立つのは嫌だよ。目立つならいい事で……」
 
 「聞け!  第三戦闘体制に入ってシルバー・クリスタル号はダリダルアの街に戻る。戦闘が待ってる。しっかり働け!」
 
 ダリダルアの街は魔導都市を離れ王都に向かう途中に過ぎた街だ。街の外れを通ったくらいだが、別に不穏な感じもしなかった普通の街に思えた。
 
 「ダリダルアの街を攻めるんですか?」
 
 「違う!  ダリダルアの街に攻め込んで来る巨人の殲滅だ!」
 
 巨人と聞いて、ざわめく整備士達。巨人なんて見た事も無い。一度は見てみたいものだと思えるのは、僕達が実際に戦わないからだろうか。
 
 「巨人なんてもの、何処から来たんですか!?」
 
 「イグナフス魔導都市からだ。あたい達が運んだ魔石の塊が巨人だったらしい……  魔導都市は……  魔導都市は壊滅した」
 
 息を飲む事も、香しい男の汗の匂いと一緒なら咳き込みそうになる。魔導都市が壊滅したって!?  あそこには魔導師が腐るほど居たのに壊滅って……
 
 「親方、イグナフスには魔導師もウィザードも居ましたよね。それでも壊滅したんですか?」
 
 「送られて来た情報によると、巨人は都市内にある魔石の魔力を集め邪魔する者には攻撃を仕掛けたらしい。魔石のある所は全て破壊された」
 
 「魔導師も……」
 
 「それだけじゃねぇ。一般人にも死傷者が多数出た」
 
 「それを迎え撃つと……  他の城船は参戦するんですか?」
 
 「当たり前だ!  ヨーツンヘルム、レンバッハ、ヘルネ・ハイデル、グレイ・ルーファス、インペリア・バスキ、ヴァレッコ・エトラ、パーシーンとシルバー・クリスタルが近くに居るからな」
 
 嫌な名前も聞いたが、いい名前も出た。パーシーンはウィザードを百機も乗せている巨大な城船だ。武装も豊富で今回の戦の要になるだろう。
 
 「八隻もの城船が出るほどの巨人なんですか?」
 
 「八隻でも足りないかもしれねぇな……」
 
 そんなにヤバい相手なのか?  確かに魔導都市には魔導師は多いが攻撃的な大砲やウィザードも多い訳じゃない。
 
 「……インペリア・バスキ、見たいな」
 
 「……パーシーンだろ。ウィザードの運用は気になるよ」
 
 「……バスキは砲台の数が凄いんだぞ。一斉に撃ったら絵になるぜ」
 
 「……ヴァレッコ・エトラには巨大な砲台があるって話だよ」
 
 「……シルバー・クリスタルとどっちが大きいんだ?」
 
 「……大きさだけなら……」
 
 「今から全員の配置を通達する!  一、二班、ウィザードの点検整備。三、四班で起動炉、脚部の総点検。五班から八班まで各武装の点検整備だ。五班から八班までの指揮はミカエル・シンが取れ。以上だ」
 
 なんだか凄い事になって来た。こう言ったらなんだけど、たかが巨人の一匹くらい八隻からなるウィザードで簡単に始末が出来るんじゃないか? 
 
 総数で四百機近いウィザードが暴れ回る戦場を、高見の見物で終わりそうだよ。始まったらお菓子とジュースを用意して……  いや、賭けが始まるだろうから、軍資金を……
 
 「てめぇらは、いつから根っこの生えたマンドリルになりやがった。ケツを上げて、さっさと立って働け!」
 
 巨人よりも怖い巨乳に僕達は席を立ち、僕だけが呼び出しを喰らった。
 
 「ミカエル。レールガンの整備は終わってるな?  三番までの主砲はどうだ?」
 
 「ジャイアント・タートル戦が終わってから整備に入ってますが……  必要ですか?  ウィザードが沢山いるのに」
 
 「必要だな。たぶん砲撃戦になるかもしれねぇ」
 
 「それは、またお金のかかる戦になりそうですね。ウィザードは必要は無いと?」
 
 「確定した情報が無いが、ウィザードは使えないかもしれん。魔石の塊、あいつの側にはウィザードは魔力を吸われて動けなかっただろ」
 
 「あっ!?」
 
 「魔石の塊から巨人が出来たってのも不明な情報だが、信憑性が無いわけじゃねぇ。巨人は魔石の魔力を奪ったらしいからな」
 
 「それだとウィザードは使えなくなる!?  この話、上の方は知ってるんですか!?」
 
 「知ってる。他の城船にも連絡はしてあるが、信用しちゃくれねぇよ。実際に近くで魔力を吸われた、あたい達以外はな」
 
 「どうするんです?」
 
 「ウィザードがダメなら八隻の城船による集中砲火。うちには四十五口径もあればレールガンもある。城船が相手なら問題は無いんだがな……」
 
 「確かにレールガンなら一撃で城船を沈められますしね。勝ち戦ですよね」
 
 「……特砲はどうなってる?」
 
 「特殊兵装砲ですか?  あれは封印したままですよ。親方がそうしろって」
 
 「封印を解いておけ。使うかもしれねぇ……」
 
 腕を胸元で組んで強調しながら考えているのは、僕へのアピールですか?  今は仕事中で、そういうのは二人きりの時にお願いしたい。
 
 「あれはヤバいって親方が言ったんですよ。試射した時、リリヤちゃんが暴爆の壁を作ってくれなかったら、僕達は死んでましたよ」
 
 「使わないに越したことは無いんだがな。お前が爆炎は二メートルくらいです、なんて言うからだろ!」
 
 「あれはビックリでした。あそこまで大きくなるとは予想外デ~ス」
 
 軽い冗談を交えながら答える僕に、無視を決め込み考えるラウラ親方。「デス」と「死」を掛けたんだけど分からなかったかな?
 
 考え中の親方をおいて、僕は主砲、副砲の整備の割り振りを始めた。親方が言っていた、ウィザードが使えなくなる事。魔石の塊から出来た巨人なら、それも有り得る。
 
 だけど他の城船の大砲ならいざ知らず。僕達の城船には戦艦大和と同クラスの大砲と炸裂弾がある。巨人の一匹や十匹、弾の数だけドンと来いだ。
 
 「親方。割り振り終わりました。  ……大丈夫ですか?」
 
 どうしたんだろう?  いつもより頭を使っていると言ったら失礼かな。そんなに悩まなくても、いざとなったらレールガンの一発で仕舞いさ。
 
 「そうか!?  デスがデスなんだな!」
 
 ズレた冗談ほど笑えないモノはない。だが言った手前、応えてあげるのがボケを担当する者の役割か……
 
 「アハハハッ。そうなんですよ」
 
 僕は深々と鳩尾に刺さる親方の右と「面白くねぇんだよ!」との有難いお言葉をもらい悶絶した。親方のツッコミはとても痛い……
 
 
 
 「お風呂はどうなったかな?」
 
 第三戦闘配備になって食事とお風呂に時間制限がかかり、三時の「おやつ」も出なくなった。戦闘配備だし仕方がないとはいえ、女の子にお風呂に入らず汗水流して働けとは、匂いフェチじゃなければ言えないだろう。僕は……
 
 「「整備のお風呂には入れないそうです。借りている寮のお風呂も使えなくなるって言われました」」
 
 それは困った。やっぱり自分が汚れてたり汗臭かったりするのは嫌だからね。お風呂は至福の一時と誰かが言っていたな。
 
 「僕の所のお風呂を使う?  三度の飯亭は民間だし、規制は緩いよ。それに水系のソフィアさんがいるから水なら使いたい放題だよ」
 
 「「えっ!?  でも……」」
 
 「僕の事は気にしなくていいよ。部屋には戻らないし、整備のを使うよ」
 
 「でも……  いいんですか?」
 
 「構わないよ。ただし部屋の中を漁るのとかは止めてね。ポエムとか見付けられたら困っちゃうぅ」
 
 「そんな事はしませんよ。見付けたとしても黙ってます」
 
 いや、マジ、止めてね。ポエムなんて無いけれど、大人の雑誌はあるんだ。借り物もあるし、没収なんて事になったらジョシュアが泣く。
 
 「先に入って来ていいよ。特砲の所で会おう」
 
 「「班長はどうするんですか?」」
 
 「僕はナターシャを探して来るよ。封印を解いてもらわないと」
 
 特殊兵装砲は砲弾に結界を貼っているが、砲塔にも結界を貼って出入りが出来なくなっている。これを解けるのはナターシャくらいだが、他にも上級の魔導師がいるのに何でナターシャだけなんだろう。
 
 これが終わったらナターシャに聞いてみよう。無級なのに、あの強さ。魔導師として特級であってもおかしくない程の能力。
 
 これが終わったら……  ん!?  これがフラグか!?  決戦前に戦いの後の事を決めるのはフラグが立つって言うよな。
 
 でも、決戦ではないか……  ただの巨人が一匹、うろちょろしているだけで、一週間後には笑って話をしてるさ。そうに決まっている。そう決まって欲しい。そうなるといいなぁ。
 
 
 
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