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act:3「蒼炎と創造と脅威達」
しおりを挟む人々が地上を捨て、荒廃した地下都市で暮らすようになって久しい時代。かつて政府が築いた秩序は崩れ、今や地下世界は7つの反政府組織と政府直轄の特務部隊「H:O:U:N:D(ハウンド)」によって激しく揺れていた。
旧ショッピングモール跡地に姿を現した少女がひとり
彼女の名は赤城凛狐(あかぎ りんこ)。 19歳。プラチナブロンドの腰まである髪と、前髪の一部だけが青く染まった、どこか“浮いた”少女。 赤い瞳の奥には狂気とも無垢ともとれる光を宿している。 その能力は、「更生する蒼炎(ストレイトン)」――命を燃やし、焼かれた者の記憶を焼却し再起動させる青き炎。
「まーた無駄に騒がしいわねえ……ハウンド、出てきなさいってばー」
軽やかな足取りのまま、凛狐が歩みを進めると、無機質な足音がそれに応えた。
地を叩く金属の音。現れたのは政府の制圧部隊「H:O:U:N:D」―― ドロイド兵三体と、それを指揮する仮面の女・コードネーム「K-02」。
「赤城凛狐。貴女の行動は、政府法典第49条・改変社会秩序の項に反しています。制圧対象として認定――」
「うるさいわねぇ。あたし、あんたたちに興味ないの。ちょっと、このモールにいる“他の奴ら”に用があってね」
凛狐が足元の床を踏み鳴らすと、青い炎が滲み出る。
「じゃ、はじめましょうか。“更生の時間”」
その瞬間、凛狐の周囲に蒼炎が舞い踊った。ドロイド兵が一斉に射撃体勢を取り、赤いレーザーサイトが彼女の胸元に照準を合わせる。
「――ファイア!」
ドロイド兵たちが火線を走らせるも、凛狐は一瞬で姿を消す。 跳躍。天井近くまで舞い上がった彼女が空中で指を鳴らすと、ドロイドの一体が唐突に炎に包まれ、内側から爆ぜた。
「熱源異常……!装甲、内部から焼け――」
次の瞬間、残りの二体も脚部に青い炎を纏い、動作不能に陥る。 炎は生き物のように這い回り、制御装置を焼き尽くしていった。
K-02が咄嗟にバックジャンプで距離を取る。
「この炎……ただの熱源ではない。精神干渉の波形が……」
「んふふ、ただ燃やすだけじゃつまんないでしょ?記憶も、痛みも、ぜーんぶ焼いてあげるのが優しさってもんよ」
そして、凛狐が背を向けた方向、瓦礫の隙間から現れた影。
そこにいたのは――
漆黒のセミショートに、青い瞳。右手に灰色の靄を灯したジップパーカー姿の彼女の名は――三毛願音(みけ ねおん)。
反政府組織**E.I.R(Evoke Imaginary Rebellion)**に所属。
思想は「想像こそが最強の武器」。芸術と自由意志を信条とし、物質化する“想像の刃”を使う戦闘アーティスト。
「……あなたは誰?」
「んー?そっちは青い目の子……この前のコトラくんが言ってた電車の子でしょ?」
願音は距離を詰めず、驚いた顔をする。
「あなたもしかしてストレイズ?いいえ、今はいい。
警告する。ここには他の組織も来てる。ハウンドの襲撃は陽動。狙いは――」
その瞬間、轟音と共に壁が破壊される。
現れたのは、漆黒の強化スーツを身に纏った巨漢。 鋼の四肢、燃える赤い瞳。**レムノス(Lemnos)**所属の破壊主義者、バルグ。
思想は「この世界は、壊さなければ変わらない」。破壊による刷新を信じ、強化義体と爆薬を多用する暴力集団。
「ガハハハ!いたぞ小娘ども!燃やして壊してぶっ潰せぇぇ!!」
バルグが腕を振るうと、空気が爆ぜる。腕部に仕込まれた内蔵火薬が爆風を生み、凛狐と願音は吹き飛ばされた。
「ちょ……こいつ、火薬ごと人間に詰めてんの……!?正気ぃ!?」
「奴は……肉体そのものが兵器。近接は不利」
願音が冷静に刃を構える。
「だが、想像の刃は自在。――“六重反射の三叉”!」
彼女の右手から伸びた青白い刃が、まるで三つ叉の鏡のように分裂し、バルグの背後から同時に切り込む。だが鋼の背骨は弾かれた。
「そんなんじゃ割れねぇなああぁぁ!!」
バルグの脚が地を踏み砕く。その爆発の衝撃波が地面を突き上げ、周囲の瓦礫を空中に跳ね上げた。
「きゃっ……!」
凛狐が跳ね上がる瓦礫を避けながら空中で叫ぶ。
「こいつ、面倒すぎっ……!だったら“焼いて記憶をゼロに”しちゃえばいいのよぉ!!」
青き蒼炎が凛狐の全身にまとわりつく。炎が獣のように唸り、彼女の身体能力を底上げしていく。
その時――
静かに現れたもうひとつの影。
ホログラムのように揺れ、少女の姿を映し出す存在。
**V.A.L.I.S(ヴァリス)**所属のエージェント、ラティナ。
思想は「真の自由は“真実”の開示によってのみ得られる」。
情報操作を嫌い、政府の虚構を暴くために動くハッカー系組織。
「この交戦……おもしろいデータが取れるわね。E.I.R、レムノス、そしてあなたは……?」
「誰?あんた、ハッカー?」
「ラティナ。ここにある“政府製AI中枢コア”を追ってきたの」
その瞬間、背後で別の爆音。
天井を破壊して降下してきたのは、機械のような四肢を持つ白衣の男――**CORVAX(コルヴァクス)**の科学者兵、ドグマ博士。
思想は「人類は“進化”すべきだ。肉体も精神も」。
ナノ改造を施し、肉体強化・生体兵器を推進するマッドサイエンティスト集団。
「このコアは我々が頂く。感情も、思想も、すべて進化の糧となるのだよ!!」
「はぁ……なんでこういう時って、変な奴ばっか集まるわけぇ……!」
凛狐が舌打ちし、再び炎を纏う。
戦場は四つ巴の様相を見せはじめた。
願音の刃が情報の光を裂き、ラティナのハッキングが空中を縫う。
バルグの爆撃が地を揺らし、ドグマ博士のナノ機械が壁を喰らい、侵食を始める。
そして凛狐の蒼炎が全てを包み、狂気とともに咆哮する。
「誰が正しいか?どれが正義か?――そんなもん、燃やして全部ゼロにしてあげる!」
燃え盛る地下区画。その空間はもはや“戦場”と呼ぶには生ぬるい、ただの災害域だった。
瓦礫の雨と煙の嵐。その中心で、凛狐は獣のように跳躍する。
「“焦がして黙らせろ、蒼炎《ストレイトン》!”」
凛狐の両掌から伸びた青き炎が、バルグの巨体を焼く。だが、レムノスの改造兵はそれすらも楽しげに笑いながら突っ込んでくる。
「ガッハッハァァアア!! その程度じゃ燃え尽きねぇよォ!!」
バルグの拳が空気を裂く。だが、その刹那、凛狐の足元に展開された透明のフィールドが拳を受け止めた。
「……助かった?」
フィールドの発生源は願音。想像の刃を回転させて防壁を創り出していた。
「感謝、感謝ぁ!」
凛狐は後方に跳び、両手を開いて炎を収束させる。
「“熱量制御・第二段階──中心核(コア)出力!”」
青炎が一点に凝縮し、剣のように彼女の前に伸びる。次の瞬間、それは槍となって放たれた。
「おらァアアアア!!」
突撃するバルグの腹部を貫いたのは、蒼く燃える直線の死。
バルグの巨体が一瞬、震え――だが崩れない。
「がっ……ぉ、が……っは……」
腹部の肉が焦げ、装甲が溶けてもなお、バルグの眼は死んでいない。
「チッ……やっぱ化け物じゃんこいつ!」
そこへ、更に新たな異変。
ラティナが手元のホロ端末を操作すると、空間に電磁波の亀裂が走る。
「この場所に隠されてた“政府の観測衛星”の中継信号、ハッキング完了」
天井の崩れかけた配線が火花を散らす中、巨大なデータの流れが周囲の空間をねじ曲げていく。
「干渉するわ。政府の眼に……見せてあげる」
だが、反応は予想外の形で現れた。
――シュウゥゥンッ
低い駆動音と共に、地下の天井を“音もなく”切り裂いて降りてきたのは、政府直属部隊――
《H:O:U:N:D(ハウンド)》
黒光りするドロイド兵が5体、続いて人体の一部を機械に換えたサイボーグ兵2名。
その中心には、銀色の長髪をなびかせた女性士官――**“ハウンド・オペレーターA”**の姿。
「区域内、非正規戦闘を確認。反政府組織による違法干渉を認定。制圧を開始する」
機械的に告げた次の瞬間、レーザーの奔流が地下を照らした。
「はっや……っつ!!」
凛狐が身を翻し、ギリギリで避けた刹那、彼女の背後にいたドグマ博士の身体が溶断される。
「ガ……ああ、研究が……我が進化の道が……!!」
彼の改造躯体が悲鳴を上げて崩れ落ちる。
「くそっ、ハウンドの追撃か……っ!」
願音が刃を交差させて防御を試みるも、数の差と精密な攻撃は圧倒的だった。
レムノスのバルグも、背後から撃ち込まれたレーザー砲で右肩を吹き飛ばされる。
「が、がががッ……!!政府のクソ犬どもが……!」
「ねぇ、金髪ちゃん!ここは撤退するしかない」
「言われなくても分かってるっての……!」
ラティナは既にその場からデータごと消えていた。映像だけが残り、ゆらりと揺れてこう告げた。
「次はもう少し、話せるといいわね。――E.I.R、そして……蒼炎の子」
数秒の静寂。
そして──
「全隊、追撃不要。対象の捕捉を終了。優先順位は次項へ」
H:O:U:N:Dのドロイドたちは、まるで最初から誰も“いなかった”かのようにターゲットを見失い、撤退を開始する。
その理由は分からない。 でも確かに、凛狐と願音の姿はカメラに映っていなかった。
「……なにこれ。ストレイズと関係ある……?」
凛狐が息を切らしながら願音を見る。
願音もまた、灰色の靄を右手に残しながら黙ったまま、空を見上げた。
その上では、崩れかけた地下の天井から、朝日がひと筋だけ差し込んでいた。
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