倉科麗華は完璧じゃない

田中又雄

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第12話 倉科麗華は最高にかっこいい

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 ––– 体育祭開幕 1時間前


「そういや美作くんも赤組だったっけ?」


「そうだよ!お互い頑張ろうね!」


「えぇ。応援してるわ」


 そんな様子を伺う二人。


「あの二人やっぱ付き合ってんのかな?」


「...さぁ」


「なんだよ正義。倉科さんはもうあきらめたん?」


「いや。今でも好きだよ。でも、今の彼女はあまり好きではないかも」


 正さないと。元の彼女に。


 –––体育祭開幕


「一回戦は4組か。パッと見たところ強そうなやつはいないな!こりゃ楽勝かー?」と、千が余裕ありげにそうつぶやく。


「千、油断すんなよ」と、国岡がくぎを刺す。


「ふふふ...俺のパスは音速を超える...」と、山崎の中二病が発動する。


「山崎、そんなパスを出されても俺らは取れないぞ。あと、野球部で中二病のやつはこの世界でお前だけだと思う」


 なんかすげー個性のかたまりのメンバーになったな...。


「ははは、足を引っ張らない程度に頑張ります!」


「なぁ、美作」と、国岡に声をかけられる。


「ん?何かな?」


「倉科とは付き合ってもないし、好きでもないんだよね?」


「さぁ、どうだろうね?」


「そうか。じゃあこの体育祭で僕と勝負してくれないかな?」


「やだなぁ、勝負なんて!僕が国岡くんにバスケで勝てるわけないじゃん!」


 ぴくっと眉が動く。


「それはバスケ以外では勝てる要素があるように聞こえたけど?」


「いやいや!語弊だよ!でもそうだな...。勉強なら結構自信あるよ?」


「なら7月の中間試験。負けたほうが手を引くっていうのはどう?」


「国岡くんがそれでいいならいいよ?」


「楽しみだな」


「そうだね!でも今日は体育祭だから!同じチームメイトとして頑張ろう!」


「あぁ」


 思った通り仕掛けてきたな。
もう隠す気もないって感じか。


 1回戦 対4組 Tipoff


「木村こっちだ!」


「式波、パス!よし、正義!」


「山崎!」


「イグナイトパス!!!」


 てんてんと転がるボール。


「やーまーさーきー!!」「山崎」と、千と国岡が詰め寄る。


「わかった!わかったよ!真面目にやるよ!」


 結局、20対4で圧勝した。


「よし!まずは一回戦突破!」


「っふ、奇跡の世代はどこに行っても目立ってしまうのか」


「山崎。次あのパスしたら本当に幻のシックスマンにしてやるからな」


「っひ!こっわ!」


 それから女子のバスケを見に行く。


「麗華ちゃん、パス!」


 そのまま流れるようにシュートを打つ。
綺麗な軌道でゴールが決まる。


「うおーーーー!!!」体育館と倉科の胸が揺れる。


 すると、こっちをチラッとみる。


 結局、女子も1回戦をあっさりと突破する。


 それから男女とも2回戦、3回戦を突破した。


「俺たちマジで強くね!」


「っふ、俺のファントムシュートも完ぺきだったぜ」


「枠外だったけどなー」


「いやー、ほんと、みんな強いよ!」


 すると、国岡が耳元でささやく。
「お前だけなんの役にも立ってないけどな」


 次の瞬間にはいつものような爽やかな笑顔に戻っていた。
いよいよ、本性表しやがったな。


 まぁ、実際国岡のいうとおり俺は何の役にも立ってないわけだから、反論する気にもならないが。


「頑張ってるね」と、後ろから声を掛けられる。


「いや、僕は何も...「倉科さん、僕の活躍見てくれた?」と、国岡が割り込んでくる。


「...えぇ」


「決勝も必ず勝つから」


「...そう」


 結果、俺たちは優勝した。
練習した甲斐はあまりなかったかもしれない。それほどに圧倒的な優勝だった。


 そして、残りは女子バスケのみとなった。


「頑張れー!潮崎ー!」


「島田!がんば!」


「あの子めっちゃ可愛くない?」


「あれが噂の倉科?めっちゃ可愛いし...胸でっか!!」


 こいつら...。と、思っていると国岡が「そういう下品な話、やめてくれない?」と、にっこりと笑う。


 うーわ、怖っ。


 そんなふうに思っていると、試合が始まった。


 対戦相手の5組には中学時代にバスケ部だった、島田《しまだ》 奏《かなで》がいた。


 ほとんどは島田のゴールだけで決勝に来たのである。
まさに、運動神経の化け物。


「いけー!島田!」


「西村!ディフェンス!」


 一進一退の攻防が続く。
そして、最終クォーターを迎える。


 いよいよ島田を抑えられなくなり、徐々に点数がついていくかというところで、連続3Pが決まり、同点に追いつく。


 そして、26:26で迎えた残り2秒、こぼれたボールは運命に導かれるように、倉科の手元に転がる。


 ブザーが鳴る。


 放たれたボールは綺麗な放物線を描き、ゴールに入った。


 体育館は割れんばかりの歓声が響き渡る。


 仲間とひとしきり喜んだのち、拳をこちらに向けてくる。


 おいおい、素が出てんぞと思いながらも、俺も拳を突き出す。


 その姿は最高にかっこよかった。


 こうして体育祭はあっけなく終わりを迎えた。


「よーし、後夜祭やろうぜ!」と、教室ではしゃぐ千。


「そういや、サッカーはどうだったの?」と、誰かが聞く。


「準決勝で負けたよー。いやーPKまで持ち込んだんだけどなー」


「最後の最後に神山がすっころんでさーw」


「マジ!?w」


 適当に愛想笑いをする。


 なんとなく、この状況を客観的にみる自分がいる気がする。
その自分は俺にこういうのだ。
『本当のお前を見せない限りこの輪には入れない』と。

 きっと、演技している限り、きっと心の底から喜んだり、悲しんだり、悔しがったりはできないのだろう。


 たぶんそれは真実だ。


「なーにしてんの雪!」


「あ、ごめん!ちょっとぼーっとしてた!」


「なぁ、今日の俺どうだった?かっこよかった?」


「うん!最高にかっこよかったよ!特に決勝の3Pとか会場がぶわーってなってたもん!」


「やっぱ??だよねー!!よし、みんなでカラオケ行くぞー!」


「おー!!いいねいいね!」


「っふ、俺のレクイエムを聞かせてやろう」


「山崎はめっちゃ音痴だよねー。そういう意味では鎮魂歌っていうのはあってるかもねー」


「雪も行くだろ?」


「そうだね!せっかくだし行こうかな!」


「よーし!行けるやつ全員行くぞー!」


 結局20人程度が行けることとなり、大行列を作りながら、駅前のカラオケ店に向かう。


 一番大きな部屋を借りることができたものの、それでも20人はそこそこぎゅうぎゅうだった。


「飲み物は俺と雪で取ってくるから、ひとまず欲しい飲み物言ってー!」


 内心面倒だなーと思いながら、千と一緒に部屋を出る。


「コーラが4と...オレンジジュースが3と...お茶が3と...と、なんだっけ?」


「メロンソーダが3と、カルピスが5だね!」


「あれ?これじゃあ18じゃね?」


「僕と千のが入ってないからねー」


「あっ、そうか。...なぁ、雪、正義となんかあった?」


「何が?」


「いや、なんとなくさ!なんとなく二人が喧々しているのが伝わってさ...。俺は二人とも友達だって思ってるから...。仲悪いのはちょっとだけ悲しいなって」


「...ごめんね?でも、大丈夫だから安心して!」


「...そっか。雪がそういうなら大丈夫か!!」


「そうか。はぁ、茜ちゃんと付き合いてー!」


「急にどうしたの?声でかいよ笑」


「ほら、こういうのって言葉に出すといいっていうじゃん。ほら、雪も一緒に」


「一緒にって笑」


「確かに。一緒にいったらだめだよな笑笑」


 こうして体育祭は無事幕を閉じた。
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